15:00 〜 15:15
[R5-15] リュウグウサンプル中のGEMS様非晶質ケイ酸塩を含む始原的岩相
キーワード:小惑星リュウグウ、GEMS、水質変成
小惑星リュウグウは木星以遠の太陽系遠方で形成した微惑星に起源をもつラブルパイル小惑星である[1]。探査機はやぶさ2が持ち帰ったリュウグウ粒子は、主にMgに富む層状ケイ酸塩、Fe-Ni硫化物、マグネタイト、炭酸塩、アパタイトからなり、水質変成度の高いCIコンドライトに類似した化学的・岩石鉱物学的特徴をもつことが分かっている[1,2]。このうち初期分析が行われたC0002粒子中の岩片Fragment 4, 5は、彗星塵中のGEMS(glass with embedded metal and sulfide)[3]に似た特徴をもつ非晶質ケイ酸塩粒子を含み、これまで分析されたリュウグウサンプルの中で最も始原的な岩片と考えられている[1]。これらの岩片はリュウグウ母天体の材料となった太陽系遠方の始原物質を明らかにする上で重要な試料である。本研究ではFragment 4, 5の鉱物学的特徴を明らかにするため、放射光X線ナノCT(XnCT)、透過型電子顕微鏡(STEM-EDS)による分析を行った。
本研究ではC0002粒子の研磨片C0002-Plate5[1]から集束イオンビーム(FIB)を用いて切り出したFragment 4, 5のブロックサンプル(それぞれ25 µm, 15 µmの立方体)をDET-SIXM法によるXnCT分析[4]に用いた(実効的な空間分解能は約200 nm/pix)。またこれらのブロックサンプルからFIBを用いて超薄切片を切り出しSTEM-EDS分析に用いた。
XnCTおよびSTEM-EDS分析からFragment 4, 5はよく似た特徴をもち、主にGEMS様非晶質ケイ酸塩(~100-500 nm)からなる細粒多孔質なマトリクス中に細粒(最大数µm程度)なMgに富むカンラン石と輝石、ピロータイト、マグネタイト、カルサイト、有機物を含むことが分かった。また直径数µm-10 µmの球状の低結晶質ケイ酸塩粒子も複数含まれていた。カンラン石、輝石は板状、ウィスカー状、不定形など様々な形状をもつ。ピロータイトは不定形の細粒粒子として含まれており、リュウグウの主要な岩相に含まれる六角板状粒子[1]は観察されなかった。マグネタイトはフランボイド状の粒子またはその集合体として主にクラックに沿って形成しており、カルサイトは球状の形状をもつ。球状の低結晶質ケイ酸塩粒子はピロータイト粒子からなるリムをもち、内部にクラックを含むものも見られた。
GEMS様非晶質ケイ酸塩はピロータイト、ペントランダイトのナノ粒子をインクルージョンとして含む。主要元素(Si, Fe, Mg)組成は彗星塵中のGEMS粒子に比べてやや均質で組織的、化学的な特徴は始原的炭素質コンドライトに含まれるGEMS様非晶質ケイ酸塩[5]に類似している。またGEMS様非晶質ケイ酸塩は縁から低結晶質の含水層状ケイ酸塩に交代しており、弱い水質変成を受けていることが分かった。カンラン石、輝石の輪郭は明瞭で含水層状ケイ酸塩に交代している様子は見られないことから、水質変成の程度は主要なリュウグウ岩相に比べて非常に低いと考えられる。球状の低結晶質ケイ酸塩粒子は全体が低結晶質の含水層状ケイ酸塩に交代していることから、交代変成を受ける前の前駆物質は非晶のケイ酸塩であったと考えられる。そのような球形状の非晶質ケイ酸塩粒子は、これまで隕石、宇宙塵サンプル中には報告されておらず、リュウグウサンプルに特有の構成物である可能性がある。
[1] Nakamura et al. (2022) Science. [2] Yokoyama et al. (2022) Science. [3] Keller and Messenger et al. (2011) Geochim. Cosmochim. Acta. [4] Tsuchiyama et al. (2024) Geochim. Cosmochim. Acta. [5] Leroux et al. (2015) Geochim. Cosmochim. Acta.
本研究ではC0002粒子の研磨片C0002-Plate5[1]から集束イオンビーム(FIB)を用いて切り出したFragment 4, 5のブロックサンプル(それぞれ25 µm, 15 µmの立方体)をDET-SIXM法によるXnCT分析[4]に用いた(実効的な空間分解能は約200 nm/pix)。またこれらのブロックサンプルからFIBを用いて超薄切片を切り出しSTEM-EDS分析に用いた。
XnCTおよびSTEM-EDS分析からFragment 4, 5はよく似た特徴をもち、主にGEMS様非晶質ケイ酸塩(~100-500 nm)からなる細粒多孔質なマトリクス中に細粒(最大数µm程度)なMgに富むカンラン石と輝石、ピロータイト、マグネタイト、カルサイト、有機物を含むことが分かった。また直径数µm-10 µmの球状の低結晶質ケイ酸塩粒子も複数含まれていた。カンラン石、輝石は板状、ウィスカー状、不定形など様々な形状をもつ。ピロータイトは不定形の細粒粒子として含まれており、リュウグウの主要な岩相に含まれる六角板状粒子[1]は観察されなかった。マグネタイトはフランボイド状の粒子またはその集合体として主にクラックに沿って形成しており、カルサイトは球状の形状をもつ。球状の低結晶質ケイ酸塩粒子はピロータイト粒子からなるリムをもち、内部にクラックを含むものも見られた。
GEMS様非晶質ケイ酸塩はピロータイト、ペントランダイトのナノ粒子をインクルージョンとして含む。主要元素(Si, Fe, Mg)組成は彗星塵中のGEMS粒子に比べてやや均質で組織的、化学的な特徴は始原的炭素質コンドライトに含まれるGEMS様非晶質ケイ酸塩[5]に類似している。またGEMS様非晶質ケイ酸塩は縁から低結晶質の含水層状ケイ酸塩に交代しており、弱い水質変成を受けていることが分かった。カンラン石、輝石の輪郭は明瞭で含水層状ケイ酸塩に交代している様子は見られないことから、水質変成の程度は主要なリュウグウ岩相に比べて非常に低いと考えられる。球状の低結晶質ケイ酸塩粒子は全体が低結晶質の含水層状ケイ酸塩に交代していることから、交代変成を受ける前の前駆物質は非晶のケイ酸塩であったと考えられる。そのような球形状の非晶質ケイ酸塩粒子は、これまで隕石、宇宙塵サンプル中には報告されておらず、リュウグウサンプルに特有の構成物である可能性がある。
[1] Nakamura et al. (2022) Science. [2] Yokoyama et al. (2022) Science. [3] Keller and Messenger et al. (2011) Geochim. Cosmochim. Acta. [4] Tsuchiyama et al. (2024) Geochim. Cosmochim. Acta. [5] Leroux et al. (2015) Geochim. Cosmochim. Acta.