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[R5-16] GEMS模擬粒子を用いた水質変成実験
キーワード:リュウグウサンプル、Mg-S-H、炭素質コンドライト、GEMS様物質、誘導熱プラズマ
はやぶさ2探査機が小惑星リュウグウから地球に持ち帰ったサンプルは、初期分析によりCIコンドライトに対応した物質であることが明らかにされた(例えば[1])。その水質変成作用の詳細が調べられ、主として非晶質珪酸塩からなるGEMS様物質などの岩石成分と氷が集積して形成されたリュウグウ母天体内部で、氷が融けて生じた水質流体にGEMS様物質が溶解し、含水層状ケイ酸塩、磁鉄鉱、磁硫鉄鉱、アパタイト、ドロマイト、ブリュネライトなどの二次鉱物が、水溶液の過飽和度低下とともにこの順に析出した、というモデルが提唱された[2]。本研究では、このような水質変成作用の初期段階を再現するために、GEMS模擬粒子を出発物質として水質変成作用実験を行った。GEMS模擬物質は誘導熱プラズマ(ITP)法[3]により作成した。これはCI組成(Si:Mg:Fe:S:Al:Ca:Na:Ni=1 : 1.03 : 0.848 : 0.421 : 0.085 : 0.06 : 0.058 : 0.049)をもち、 (Fe,Ni), FeSを含む非晶質珪酸塩の球状微粒子(~100 nm径)から主としてなっている(少量のMgO, (Fe,Ni), FeS、珪酸塩ガラスなどの不完全反応物質を含む)。一部の実験では、GEMSの平均組成(Si:Mg:Fe:S:Al:Ca:Ni=1 : 0.67 : 0.56 : 0.3 : 0.07 : 0.04 : 0.03)を用いた。窒素置換した純水に還元剤および炭酸イオン源として(1)ギ酸、(2)ヘキサメチレンテトラミン+炭酸水素アンモニウム、あるいは(3)酢酸アンモニウム+炭酸水素アンモニウムを溶解させた水溶液(X(CO2)/X(H2O) = 0~0.0612、X(NH3)/X(H2O) = 0~0.0365)を、岩石/水比が5(一部は1)となるようにGEMS模擬物質を加え、密閉されたテフロン容器中で、200℃で168~1550時間加熱した。実験生成物の分析は、粉末X線回折、SEM/EDS、TEM/EELS、顕微ラマン分光を用いて行った。全ての実験において、低結晶度の含水層状ケイ酸塩(M−S−H)が生成し、底面反射の位置からは、純水あるいは(1)(2)の水溶液の場合にはサーペンティン的、(3)の場合にはサポナイト的なものであった。鉄酸化物として、純水の場合には赤鉄鉱、(1)(2)の場合には磁赤鉄鉱、(3)の場合には磁鉄鉱+赤鉄鉱が生成されたが、リュウグウ試料のような磁鉄鉱のみからなる生成物は得られなかった。これらの鉄酸化物は微細粒子(多くは数10 nm以下)が単独あるいは集合体としてM−S−Hからなるマトリクス中に存在し、一部には樹枝状晶も見られた(Fig. 1a)。ほとんどの実験で、少量の硬石膏が生成していたが、炭酸塩の生成は認められなかった。(1)の一部にはC20H14, C14H10Oと考えられる有機結晶、(2)の一部にはBoussingaultite((NH4)2 Mg (SO4)2・6H2O)、(3)にはefremovite((NH4)2Mg2(SO4)3), C2H5NOの生成が見られた。また、ラマン分光により、GおよびDバンドを持つIOMを確認できた。実験生成物は、空隙率の異なる数10 μmサイズの塊の集合体である(Fig. 1b)。出発物質は、GEMS模擬粒子(〜100 nmの球状粒子)は集合して空隙率の異なる数10 μmサイズの塊から成っており、実験生成物に見られた組織は、この出発物質の組織を反映している。リュウグウ試料のマトリクスも同様のサイズスケールで空隙率の異なる領域から成り[2]、母天体での集積の組織を反映しているのかもしれない。より長時間の加熱により鉄酸化物微細粒子の粗大化が期待され、実験生成物はリュウグウ試料に見られる水質変成作用の最初期の状態を示しているのかもしれない。一方で、ITPにおける不完全反応物質である珪酸塩ガラスの球状物質(数10 μmサイズ)は、炭素質コンドライトにおけるコンドリュールの模擬物質と見なすことができ、炭素質コンドライトと同様にこれが水質変成を受けていることも確認できた。今回の実験ではリュウグウ試料に見られたような鉱物やその結晶形状の再現は不完全で、とくに磁赤鉄鉱や硬石膏の生成は、今回よりも還元的な条件での実験が今後必要であることを示している。[1] Nakamura T. et al. (2023) Science, 379, eabn867. [2] Tsuchiyama A. et al. (2024) GCA, 375, 146-172. [3] Enju S. et al. (2022) A&A, 661, A121.