12:30 PM - 2:00 PM
[R5-P-01] Dehydration of Newberyite(MgHPO4·3H2O) under low pressures
Keywords:Bennu, phosphate, dehydration, asteroid, Newberyite
始原的小惑星の構成鉱物には,太陽系初期進化の情報のみならず,現在にいたるまでの小惑星の進化が記録されていると考えられる (e.g., Tachibana et al. 2014).「はやぶさ2」およびOSIRIS-RExが持ち帰ったC型小惑星リュウグウ,B型小惑星ベヌーのサンプルはともに鉱物学・岩石学・地球化学的にCIコンドライトに類似し,太陽系元素存在度をもつ材料物質が母天体で水質変成を被ったものであることが判明した (Yokoyama et al. 2022; Nakamura T. et al. 2022; Okazaki et al. 2022a, b; Noguchi et al. 2023; Yabuta et al. 2023; Naraoka et al. 2023; Lauretta et al. 2024).
リュウグウ,ベヌーサンプルには,体積の 80-90 %を占めるフィロケイ酸塩(蛇紋石およびサポナイト)(e.g., Nakamura T. et al. 2022; Lauretta et al. 2024) に加え,磁鉄鉱,硫化鉄,炭酸塩,リン酸塩などが存在する.ベヌーではNaを含む白色のMgリン酸塩が粒子表面に集合体として見られるような粒子もあり,Mgリン酸塩が主要なリン酸塩である可能性が指摘されている (Lauretta et al. 2024).リュウグウにも水質変成度の低い試料中にNaを含むMgリン酸塩が存在する (Nakamura T. et al. 2022; Ma et al. 2022).リュウグウ試料中のMgリン酸塩は非晶質であり,MgHPO4·3H2O (Newberyite) などの含水Mgリン酸塩鉱物が脱水・非晶質化を経験した可能性が指摘されている (Ma et al. 2022).ベヌー中のMgリン酸塩の顕微FTIR分析スペクトルは,MgHPO4·3H2Oとの類似性を示すが,その組織からは加熱による脱水を経験したのではないかと考えられている(Lauretta et al. 2024).すなわち,両天体のMgリン酸塩は母天体での水質変成で形成後,加熱脱水を経験し,水質変成後の小惑星の熱史を反映している可能性がある.両天体ともに近地球型小惑星であり,太陽光による100°C程度までの表面加熱で脱水することも考えられる.
Newberyiteの脱水挙動は常圧では調べられているが (e.g., Petranović et al. 1987; Kullyakool et al., 2023),低圧条件では調べられていない.本研究では,Mgリン酸塩の含水度から,ベヌーやリュウグウの熱史を議論するための基礎データを得ることを目的とし,真空炉 (Yamamoto and Tachibana 2018; Yamamoto et al. 2020) を用いて,低圧 (~200または~10–4–10–5 Pa),50–300°CでNewberyiteの脱水実験をおこなった (加熱時間0–4200分).実験には合成MgHPO4·3H2O (太平化学産業) を用いた.実験前後での質量減少を測定し,加熱後の試料について,走査型電子顕微鏡での観察,赤外分光法・粉末X線回折法での分析をおこなった.~10–4–10–5 Paでの加熱実験の一部で,四重極型質量分析計で炉内のガス分析をおこなった.
四重極型質量分析計による分析で,試料からの放出ガスがH2Oと確認され,実験前後の質量変化から,脱水度を算出した.低圧条件でのNewberyiteの脱水は常圧 (e.g., Petranović et al. 1987; Kullyakool et al. 2023) よりも低温で進行し,全圧200 Paと10–4 Paで大きな違いは見られなかった.また,加熱温度に応じたある脱水度に到達すると,脱水速度が非常に小さくなり,脱水反応がほとんど進行しなくなった.その脱水度は, 50°CではNewberyite中の総H2O量の65 %,250°Cでは94 %であった.300°Cの加熱では完全に脱水した.走査型電子顕微鏡観察では加熱前後で粒子サイズや形状の変化は見られず,脱水度に対する粒子サイズの寄与は小さいと考えられる.粉末X線回折では,加熱・脱水により,Newberyiteが非晶質化したことが確認された.加熱前後の赤外吸収スペクトルの変化からも,脱水が示唆された.
NewberyiteではMgイオンにH2O分子が3つ配位しており,H2O分子脱離とそれに伴う非晶質化の進行とともに,残ったH2O分子の脱離に必要なエネルギーが増加し,脱水速度が急激に低下する(脱水反応がほとんど進行しなくなる)ことが予想される.詳細な解析は今後の課題だが,本研究で明らかとなった低圧条件での脱水進行に伴う脱水速度の低下は,リターンサンプル中のMgリン酸塩に含まれるH2O量から,Mgリン酸塩が経験した温度に関する制約を与えられる可能性を示唆する.
リュウグウ,ベヌーサンプルには,体積の 80-90 %を占めるフィロケイ酸塩(蛇紋石およびサポナイト)(e.g., Nakamura T. et al. 2022; Lauretta et al. 2024) に加え,磁鉄鉱,硫化鉄,炭酸塩,リン酸塩などが存在する.ベヌーではNaを含む白色のMgリン酸塩が粒子表面に集合体として見られるような粒子もあり,Mgリン酸塩が主要なリン酸塩である可能性が指摘されている (Lauretta et al. 2024).リュウグウにも水質変成度の低い試料中にNaを含むMgリン酸塩が存在する (Nakamura T. et al. 2022; Ma et al. 2022).リュウグウ試料中のMgリン酸塩は非晶質であり,MgHPO4·3H2O (Newberyite) などの含水Mgリン酸塩鉱物が脱水・非晶質化を経験した可能性が指摘されている (Ma et al. 2022).ベヌー中のMgリン酸塩の顕微FTIR分析スペクトルは,MgHPO4·3H2Oとの類似性を示すが,その組織からは加熱による脱水を経験したのではないかと考えられている(Lauretta et al. 2024).すなわち,両天体のMgリン酸塩は母天体での水質変成で形成後,加熱脱水を経験し,水質変成後の小惑星の熱史を反映している可能性がある.両天体ともに近地球型小惑星であり,太陽光による100°C程度までの表面加熱で脱水することも考えられる.
Newberyiteの脱水挙動は常圧では調べられているが (e.g., Petranović et al. 1987; Kullyakool et al., 2023),低圧条件では調べられていない.本研究では,Mgリン酸塩の含水度から,ベヌーやリュウグウの熱史を議論するための基礎データを得ることを目的とし,真空炉 (Yamamoto and Tachibana 2018; Yamamoto et al. 2020) を用いて,低圧 (~200または~10–4–10–5 Pa),50–300°CでNewberyiteの脱水実験をおこなった (加熱時間0–4200分).実験には合成MgHPO4·3H2O (太平化学産業) を用いた.実験前後での質量減少を測定し,加熱後の試料について,走査型電子顕微鏡での観察,赤外分光法・粉末X線回折法での分析をおこなった.~10–4–10–5 Paでの加熱実験の一部で,四重極型質量分析計で炉内のガス分析をおこなった.
四重極型質量分析計による分析で,試料からの放出ガスがH2Oと確認され,実験前後の質量変化から,脱水度を算出した.低圧条件でのNewberyiteの脱水は常圧 (e.g., Petranović et al. 1987; Kullyakool et al. 2023) よりも低温で進行し,全圧200 Paと10–4 Paで大きな違いは見られなかった.また,加熱温度に応じたある脱水度に到達すると,脱水速度が非常に小さくなり,脱水反応がほとんど進行しなくなった.その脱水度は, 50°CではNewberyite中の総H2O量の65 %,250°Cでは94 %であった.300°Cの加熱では完全に脱水した.走査型電子顕微鏡観察では加熱前後で粒子サイズや形状の変化は見られず,脱水度に対する粒子サイズの寄与は小さいと考えられる.粉末X線回折では,加熱・脱水により,Newberyiteが非晶質化したことが確認された.加熱前後の赤外吸収スペクトルの変化からも,脱水が示唆された.
NewberyiteではMgイオンにH2O分子が3つ配位しており,H2O分子脱離とそれに伴う非晶質化の進行とともに,残ったH2O分子の脱離に必要なエネルギーが増加し,脱水速度が急激に低下する(脱水反応がほとんど進行しなくなる)ことが予想される.詳細な解析は今後の課題だが,本研究で明らかとなった低圧条件での脱水進行に伴う脱水速度の低下は,リターンサンプル中のMgリン酸塩に含まれるH2O量から,Mgリン酸塩が経験した温度に関する制約を与えられる可能性を示唆する.