12:30 PM - 2:00 PM
[R5-P-03] Early impact events recorded in anomalous eucrites
Keywords:meteorites, achondrites, thermal history, impact
太陽系初期に形成した微惑星や原始惑星は、集積後、短寿命核種などによる加熱を受け、水質変成作用や熱変成作用、さらには火成活動などを経験したとされる。最も加熱をうけた天体は、部分溶融やマグマオーシャンの形成など通じて分化したと考えられる。分化エコンドライトは、そのような分化天体を起源とする隕石である。分化エコンドライトは、その岩石学的特徴から、ユークライト、アングライト、安山岩質エコンドライトなどに分けられる。ユークライトは、主に低Ca輝石と斜長石からなる玄武岩もしくはガブロで、ほとんどは小惑星ベスタを起源だとされる。しかし、別天体を起源とするユークライトも見つかっている。これらは、ユークライト型エコンドライト(eucrite-like achondrites)や特異なユークライト(anomalous eucrites)と呼ばれ、これまでに10個以上確認されている[e.g., 1-3]。その中で、NWA 011の同位体的特徴は、炭素質コンドライトに類似し、原始木星以遠で形成したとされる[4]。したがって、NWA 011とペアの隕石を調べることで、外側太陽系に存在した分化天体の形成過程を知ることができる。本研究では、NWA 011とNWA 2978(NWA 011/2978)について組織と鉱物組成から熱史と衝撃史を詳細に検討し、他の分化エコンドライトとの比較を行った。
NWA 011/2978は、主に低Ca輝石と斜長石からなり、副成分鉱物としてシリカ鉱物、リン酸塩鉱物、イルメナイト、クロマイト、トロイライトなどを含む。自然ニッケル鉄は確認できなかった。NWA 2978には、数mmのイルメナイトとクロマイトの集合体が見つかった。低Ca輝石には、非常に薄い普通輝石のラメラが均質に入っている。しかし、若干のCaやTiのゾーニングの痕跡が見られた。これは、タイプ4もしくは5のユークライトと同等レベルの熱変成作用を受けたことを示す。トリディマイトとともに、クリストバライトが見つかった。輝石のバルク組成から求められた平衡温度は~1190℃で、普通輝石の離溶ラメラの厚さから推定される冷却速度は数℃/yr (1190-1000℃)である[1]。しかし、クリストバライトの存在は、1000℃付近から急冷(~0.1-1℃/day)したことを示す[5]。
NWA 011/2978は、少なくとも2回の衝突の痕跡を残している。NWA 011は、普通ユークライトに比べ高い濃度の親鉄元素が含まれている(CIx0.01-0.1) [1,6]。しかし、風化の影響による元素組成の変化のため衝突体の特定は難しい。珪酸塩鉱物の組織や組成(特にシリカ鉱物)に影響が見られないことから、かんらん石を含むような衝突体(コンドライト隕石など)は考えにくい。衝突体は金属FeNi(分化天体のコア)であったと考えられる。金属FeNiが衝突して形成したとされる隕石は、メソシデライトやユークライト型エコンドライト(EET 92023, Dho 007)など数種類確認されている[2]。NWA 011/2978は、鉱物そのものに衝撃変成作用の痕跡を残さない結晶質な岩石であることから、母天体が加熱されている最中に衝突が起こったと考えることができる。2回目の衝突は、熱変成作用中(母天体の冷却中)に起こったと考えられる。高温部で徐冷したのち急冷(~0.1-1℃/day)したという現象は、高温の地殻内部(数km以深)から衝突により地表に放出し急冷したためだと説明することができる。このように、外側太陽系においても母天体が熱い時期(火成活動、変成作用中)にも活発な衝突が起こり、その形成に大きな影響を及ぼしたと推察される。今後は、鉱物科学的研究により熱や衝撃履歴を解析すると同時に、バルク元素組成の検討、高精度年代決定により、太陽系初期の衝突現象について明らかにする必要がある。
引用文献
[1] Yamaguchi A. et al. (2002) Science 296, 334-336. [2] Yamaguchi A. et al. (2017) Meteor. Planet. Sci. 52, 709-721.[3] Mittlefehldt D.W. et al. (2022) Meteor. Planet. Sci. 57, 484-526.[4] Warren P.H. (2011) Geochim. Cosmochim. Acta 75, 6912-6926. [5] Ono H. et al. (2020) Meteor. Planet. Sci. 56, 1086-1108. [6] Isa J. et al. (2008) Meteor. Planet. Sci. Suppl. 43, 5204.
NWA 011/2978は、主に低Ca輝石と斜長石からなり、副成分鉱物としてシリカ鉱物、リン酸塩鉱物、イルメナイト、クロマイト、トロイライトなどを含む。自然ニッケル鉄は確認できなかった。NWA 2978には、数mmのイルメナイトとクロマイトの集合体が見つかった。低Ca輝石には、非常に薄い普通輝石のラメラが均質に入っている。しかし、若干のCaやTiのゾーニングの痕跡が見られた。これは、タイプ4もしくは5のユークライトと同等レベルの熱変成作用を受けたことを示す。トリディマイトとともに、クリストバライトが見つかった。輝石のバルク組成から求められた平衡温度は~1190℃で、普通輝石の離溶ラメラの厚さから推定される冷却速度は数℃/yr (1190-1000℃)である[1]。しかし、クリストバライトの存在は、1000℃付近から急冷(~0.1-1℃/day)したことを示す[5]。
NWA 011/2978は、少なくとも2回の衝突の痕跡を残している。NWA 011は、普通ユークライトに比べ高い濃度の親鉄元素が含まれている(CIx0.01-0.1) [1,6]。しかし、風化の影響による元素組成の変化のため衝突体の特定は難しい。珪酸塩鉱物の組織や組成(特にシリカ鉱物)に影響が見られないことから、かんらん石を含むような衝突体(コンドライト隕石など)は考えにくい。衝突体は金属FeNi(分化天体のコア)であったと考えられる。金属FeNiが衝突して形成したとされる隕石は、メソシデライトやユークライト型エコンドライト(EET 92023, Dho 007)など数種類確認されている[2]。NWA 011/2978は、鉱物そのものに衝撃変成作用の痕跡を残さない結晶質な岩石であることから、母天体が加熱されている最中に衝突が起こったと考えることができる。2回目の衝突は、熱変成作用中(母天体の冷却中)に起こったと考えられる。高温部で徐冷したのち急冷(~0.1-1℃/day)したという現象は、高温の地殻内部(数km以深)から衝突により地表に放出し急冷したためだと説明することができる。このように、外側太陽系においても母天体が熱い時期(火成活動、変成作用中)にも活発な衝突が起こり、その形成に大きな影響を及ぼしたと推察される。今後は、鉱物科学的研究により熱や衝撃履歴を解析すると同時に、バルク元素組成の検討、高精度年代決定により、太陽系初期の衝突現象について明らかにする必要がある。
引用文献
[1] Yamaguchi A. et al. (2002) Science 296, 334-336. [2] Yamaguchi A. et al. (2017) Meteor. Planet. Sci. 52, 709-721.[3] Mittlefehldt D.W. et al. (2022) Meteor. Planet. Sci. 57, 484-526.[4] Warren P.H. (2011) Geochim. Cosmochim. Acta 75, 6912-6926. [5] Ono H. et al. (2020) Meteor. Planet. Sci. 56, 1086-1108. [6] Isa J. et al. (2008) Meteor. Planet. Sci. Suppl. 43, 5204.