一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R6:深成岩・火山岩及び サブダクションファクトリー

2024年9月14日(土) 09:00 〜 12:00 ESホール (東山キャンパス)

座長:川本 竜彦(静岡大学)、湯口 貴史(熊本大学)、亀井 淳志(島根大学)

09:00 〜 09:15

[R6-01] マントルウェッジを上昇するスラブ由来流体の化学組成変化と島弧初生マグマの起源:水流体とメルト間の微量成分元素分配からの制約

*谷内 元1、川本 竜彦2、中谷 貴之1、石塚 治1、鈴木 敏弘1、東宮 昭彦1 (1. 産総研・地調、2. 静岡大・理)

キーワード:初生マグマ、スラブ由来流体、分配係数、高圧高温実験

スラブから放出された超臨界流体はマントルウェッジ中を上昇する過程で水流体とメルトの2相に分離する。分離後の水流体は更なる上昇中に過飽和となったメルト成分を放出する。また、メルトも過飽和となった水流体を放出する。これらのプロセスでは、水流体とメルト間での元素分配が起こることで、スラブ由来流体の化学組成が変化する。本研究は、この化学組成変化を明らかにするため、産業技術総合研究所に設置された内熱式ガス圧装置、炎光光度計、誘導結合プラズマ質量分析装置を用いた実験を行い、26元素に関して、Clを含まない水流体とメルト、及びClに富む水流体とメルト間における分配係数(Dfluid/melt)を、温度1100ºC、圧力0.3 GPa または0.7 GPaの条件で決定した。
 Thを除くHigh-field strength elements (HFSE: Nb, Zr)は、水流体の塩分濃度および圧力に関係なく、水流体にはほとんど分配されない。これとは対照的に、その他の元素の分配係数は水流体の塩分濃度に強く影響を受ける。Large-ion lithophile elements (LILE: K, Cs, Ba, Rb, Sr, Pb)とUのDfluid/meltは水流体の塩分量の増大とともに大きくなる一方、Rare-earth elements (REE: Y, La, Ce, Pr, Nd, Sm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb, Lu)とThのDfluid/meltは水流体の塩分量の増大とともに逆に小さくなる。
 上述の実験結果は、Clを含む塩水であると考えられているスラブ由来流体起源の水流体はマントルウェッジを上昇する間に、メルト成分を分別することによってLILEとUに富み、REEとThに乏しい化学組成へと変化することを示す。つまりスラブ由来流体起源の水流体は、上昇の過程でLILEとUに富みHFSE、REE、そしてThに乏しいという島弧玄武岩の基本的な化学的特徴と合致する組成へ進化する。火山フロントからの水平距離においては、より浅部まで上昇することで、よりメルト成分を分離した水流体のフラックス溶融で生成される前弧側初生玄武岩が、より深部でメルト成分をほとんど分離していない水流体あるいは超臨界流体のフラックス溶融によって生成される背弧側初生玄武岩に比べ、高いLILE/HFSE比やLILE/REE比を示すという特徴も説明する。以上のことから、我々は、スラブ由来流体からのメルト成分の分離とその程度が、島弧初生玄武岩の地球化学的特徴とその島弧横断方向変化を決定づけるひとつの要因であると提案する。
 また、単一の火山あるいは火山地域に着目すると、スラブからの流体の放出深度が大きいためにスラブ流体がメルト成分に富んでいると予想される千島弧背弧の利尻火山では、2種類の玄武岩質マグマが存在する。これらは、それぞれ超臨界流体とそれから分離した水流体成分がマントルかんらん岩をフラックス溶融することで生成したと考えられる(Taniuchi et al., 2021, J. Petrol.)。一方、スラブ温度が高いためにスラブ流体がメルト成分に富むと予想されるカスケード弧のMt. Shasta、Crater Lake、Lassen Peak (Mullen et al., 2017, Chem. Geol.)などの各火山においても、放射性同位体比からみると同一の起源物質から、2種類の初生マグマ(High-alumina olivine tholeiiteとCalc-alkaline basalt)が生成している。このような単一火山における2種類の初生玄武岩も、超臨界流体の分離とそれ以降の元素分配によって異なる微量成分元素の特徴を有する水流体とメルトが、それぞれマントルかんらん岩と反応することで生成した可能性を議論する。