一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R6:深成岩・火山岩及び サブダクションファクトリー

2024年9月14日(土) 09:00 〜 12:00 ESホール (東山キャンパス)

座長:川本 竜彦(静岡大学)、湯口 貴史(熊本大学)、亀井 淳志(島根大学)

09:15 〜 09:30

[R6-02] 試料作りから切り開く新たな地殻・マントル物性研究

「招待講演」

*小泉 早苗1 (1. 東京大学)

キーワード:カンラン石、マントル、地殻、試料合成

地殻・マントル物性を明らかにするためには実験的研究が欠かせない。実験的研究の試料にはこれまで種々の岩石(鉱物多結晶体)試料が各研究室で独自に合成され使用されてきたが、異なる研究グループで用いられる試料(の化学組成、微細構造、製法)由来の物性値の混乱の問題があった。この混乱は、実際に地球物理学観測の結果(例えば、マントル地震波速度や粘性率構造、電気伝導度)を解釈する上で議論を引き起こしてきた。我々の研究グループでは、この問題を解消するために地殻・マントル物性の高精度測定のための試料合成法の開発から物性測定まで一貫して行っている。試料合成に関しては最上部マントルの主要構成鉱物であるカンラン石の多結晶体合成法の開発から取り組み、非常に緻密でかつ<1μmの小さい結晶粒から成る実験用鉱物多結晶体の合成に成功している(Koizumi et al. 2010)。合成した高品質な鉱物多結晶体は我々のグループだけではなく、これまでに我々の研究室を含めて5つの研究グループにより、カンラン石多結晶体の粒成長、クリープ、電気伝導度および原子拡散実験が同一試料に対して行われ、それらの素過程の共通性、化学効果、温度・圧力依存性が高精度で明らかになっている。これらの結果は、従来の研究室毎に異なった物性値の理解や上部マントルの高精度のレオロジー解明にもつながっている。試料は、微細構造の均質性、緻密性だけでなく化学組成の安定性や制御性、試料寸法や形状、微構造の自由度の高さおよび合成コストの低さに優れている。試料の汎用性・拡張性の高さを活用し、既存手法では不可能であった物性測定を可能にすることを目的として、新規の試料開発を継続して行っている(例えばKoizumi et al. 2016, Koizumi et al. 2020)。近年ではカンラン石以外の鉱物種である輝石(Ghosh et al. 2021), 灰長石(Fukuda et al. 2022, Yabe et al. 2023)多結晶体による成果も得られている。講演ではこれまで開発した試料とその試料を用いた様々な地球内部物性測定の成果を概説するとともに、現在取り組んでいる天然由来原料を用いた試料合成についても紹介する。