一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R6:深成岩・火山岩及び サブダクションファクトリー

2024年9月14日(土) 09:00 〜 12:00 ESホール (東山キャンパス)

座長:川本 竜彦(静岡大学)、湯口 貴史(熊本大学)、亀井 淳志(島根大学)

10:45 〜 11:00

[R6-08] 西南日本における白亜紀フレアアップの発生要因

*山岡 健1、諸星 暁之2、佐藤 大介1、三國 和音1 (1. 産総研、2. 東大・院理)

キーワード:白亜紀、フレアアップ、同位体比、マグマ、西南日本

時間・空間的に大規模なカルデラ形成噴火が集結するフレアアップは地球表層環境や社会に甚大な影響を与えうる現象であるため、過去の事例から関連するマグマ活動のタイムスケールやその原因を特定することは重要な課題のひとつである(Paterson & Ducea, 2015)。フレアアップの原因について、一般的には島弧地殻に付加される玄武岩質マグマフラックスの増加が関連する可能性が高いことが指摘されているが、その背景となるテクトニクスの理解は依然として大きな不確かさがある。本研究では、テクトニクスに関して理解の進んでいる日本と朝鮮半島を含むユーラシア大陸東縁部の130–30 Maの火成活動に着目し、主に火成活動の年代と全岩Sr・Nd同位体比に関する蓄積データのコンパイルに基づいてマグマの化学的特徴の時空間変化と広域的なテクトニクスとの関係性、および大規模カルデラ発生との関係性を検討した。

網羅的なデータコンパイルの結果、火成活動年代分布の特徴として、日本と朝鮮半島では~130–60 Maにそれぞれ独立した火成弧が存在し、両者ともに日本海側に向かって100 kmスケールで活動場が移動する履歴が明らかになった。2つの火成弧は50 Maごろには移動を終了する。また、同位体組成については日本と朝鮮半島を通じてマグマの化学組成に関わらずSr・Nd同位体比に明瞭なギャップを(SrI, εNd(t))=(0.706, -4)付近に伴うことから、2つのグループに区分できることが明らかになった。よりエンリッチしたデータ群をグループ1、枯渇したデータ群をグループ2とすると、日本では100–60 Ma、朝鮮半島では130–70 Maにグループ1が卓越し、それ以外ではグループ2が卓越する傾向が認められる。また、グループ1は全体として日本より朝鮮半島の方がエンリッチした値を示す傾向にあるとともに、日本ではグループ1の中でもより後期の80–60 Maによりエンリッチした値が集中しており、エンリッチしたマグマソースが~130 Maに朝鮮半島の北西部から南東部を通過して100 Ma以降に日本に到達したのち、60 Maごろに全域的に枯渇したマグマソースに切り替わる空間的変化を示す。150–140 Maは日本より2000 kmほど大陸側で海洋プレートの水平沈み込みとその崩壊に伴う海側への火成弧移動が推定されており(Wu et al. 2019)、その移動トレンドは朝鮮半島南東部まで追うことができる。またそれらの火成活動ではエンリッチした同位体組成が卓越し、北中国地塊を構成していた大陸リソスフェアや地殻物質の関与が指摘されている。一方で130–60 Maごろはイザナギプレートの高速沈み込み、60–50 Ma以降は太平洋プレートの沈み込みが推定されており(Wu et al. 2024)、グループ2の組成は海洋プレートの沈み込みに伴う一般的な(外的な不均質物質の寄与のない)島弧型の火成活動で説明できると思われる。したがって、日本で認められる80–60 Maにピークをもつ100–60 Maでのエンリッチしたマグマソースの卓越は北中国地塊を構成していた大陸リソスフェアの崩壊に由来していると考えることができ、80–60 Maにもっともその影響が高かったと言える。日本での濃飛流紋岩や湖東流紋岩をはじめとする世界的な規模のカルデラ形成はこの時期に集中的に発生しており(Sato et al., 2016)、マグマ組成がエンリッチしている時期と大規模カルデラ形成期はよい一致を示す。大陸リソスフェアの崩壊は下部地殻への活発なアセノスフェアの流入を伴うために地殻をより効果的に加熱することができ、加えて当時のイザナギプレートは年間20 cm近い高速の沈み込みによって多量の水が沈み込み帯内部に持ち込まれていたと考えられるため、大規模なカルデラ噴火を引き起こすために地殻浅部で必要な高いマグマ生成量と地温勾配を達成することができたと考えることができる。以上から、日本における白亜紀のフレアアップ現象は、大局的には通常の沈み込み火成活動と大陸リソスフェアの崩壊の足し合わせによって達成された可能性が高いと結論づけられる。

【引用文献】
Peterson SR et al. (2015) doi: 10.2113/gselements.11.2.91; Sato D. et al. (2016) doi:10.1016/j.jvolgeores.2015.11.014; Wu F.-Y. et al. (2019) doi:10.1146/annurev-earth-053018060342; Wu J. et al. (2024) doi: DOI: 10.2138/gselements.20.2.103.