2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

R6: Plutonic rocks, volcanic rocks and subduction factory

Sat. Sep 14, 2024 9:00 AM - 12:00 PM ES Hall (Higashiyama Campus)

Chairperson:Tatsuhiko Kawamoto(Shizuoka University), Takashi Yuguchi, Atsushi Kamei

11:45 AM - 12:00 PM

[R6-11] Thermal history of pluton formation from Sr diffusion in plagioclase: implications for magma flux estimation and identification of plutons associated with major eruptions

「発表賞エントリー」

*Tokiyuki Morohoshi1, Simon Richard Wallis1 (1. The University of Tokyo)

Keywords:pluton formation, chemical diffusion, magma flux, Ryoke plutonic rocks

深成岩体形成時のマグマ供給は、岩体のもととなるマグマ貫入領域の内部状態を決定づける。特にマグマフラックスや貫入継続時間は貫入領域の内部温度に強く影響し、メルト割合やメルト維持時間など、噴火可能性に関わる重要なファクターである。マグマ供給の内部温度への影響を利用すれば、深成岩体に残された温度履歴記録を用いて、マグマ供給時のフラックスや貫入継続時間について情報を得られることが期待される。火成岩で用いられる温度履歴記録に結晶中の元素拡散がある。火山岩では噴火準備期間の長さ推定に使われる一方、深成岩体ではほとんど報告例がない。特に大陸地殻成長を考えるうえで重要な、地殻中部~上部で形成される珪長質深成岩体では、数百万年スケールの形成期間が多くみられ、斜長石中のSrやMg、カリ長石中のSrなど一般的な鉱物・元素の組み合わせでは拡散が進行して感度を失うと考えられてきた。しかしながら近年の研究で、珪長質深成岩体は一般的に断片的 (piecemeal) なマグマ供給によって成長することが明らかになった。断片的マグマ供給では短期間のパルス状昇温を除きソリダス以下の温度が維持され、拡散が進行しないために温度履歴に対する感度の維持が期待される。本研究では拡散が深成岩体の有効な温度履歴記録となる可能性に着目し、数値的に利用可能性を検証した。対象鉱物には斜長石を、拡散元素には斜長石に高濃度で含まれ、拡散の特性により拡散の効果を高感度に検知できるSrを選択した。断片的マグマ供給による岩体形成を想定して拡散モデリングを行ったところ、斜長石のSr拡散は温度履歴に十分な感度をもつことが明らかになった。これをもとに、斜長石のSr拡散を用いたマグマ供給様式制約を天然に適用した。
愛知県三河地方の新城トーナル岩・武節花崗岩は同年代・同深度に隣接して形成されたが、武節岩体は数百メートル、新城岩体は数キロメートルの接触変成帯を伴う。Yamaoka et al. (2023) は、熱モデルを用いて接触変成帯の温度構造を満たすマグマ供給過程を推定し、武節岩体では貫入したマグマの熱量で説明可能な一方、新城岩体は現存するマグマ量では熱量が不足し、200万年程度の継続的なマグマの供給と噴火が必要であることを示した。岩体の内部温度構造に着目すると、噴火を伴わない岩体形成では母岩からの冷却により、縁辺部は急冷されるが中心部では高温が長期間維持される。一方噴火を伴う長期貫入では、初期に貫入して主に岩体辺縁部に残された岩相は長く高温状態を維持する一方、晩期に貫入した岩相は初期の貫入部と比較して短期間で冷却されることが想定される。この仮説に則れば、岩体の噴火への関与の有無が、岩体内部と縁辺部の温度履歴の逆転として観察できると考えられる。本研究ではこのモデルを斜長石中のSr拡散による温度履歴記録を用いて検証するため、両岩体の中心部及び辺縁部試料でSr拡散量を比較した。
分析の結果、武節岩体では中心部で有意な拡散が見られた一方、辺縁部では拡散がほぼ進行していない。また新城岩体では辺縁部の周辺岩相領域で拡散が進行する一方、中心部の主岩相では拡散が弱いことを示すプロファイルが観測された。武節岩体の結果は、岩体内部で高温による拡散が進行する反面、辺縁部では冷却により進行しなかったと解釈できる。一方継続的な貫入と噴火を経験した新城岩体で観測された、主岩相で弱く周辺岩相の一部で強い拡散は、周辺岩相の一部が活動初期に貫入し、継続的な貫入の後に主岩相が貫入したことを示唆する。この結果は、マグマ排出と大規模噴火を伴う深成岩体形成では、噴火を伴わない岩体と反対に、晩期に貫入した岩体中心部ほど短期間で冷却されるとしたモデルを支持する。また噴火に関連した岩体の検知に際して、斜長石中のSr拡散分析が新たな手法として有用であることを示唆する。
斜長石のSrプロファイルに記録された温度履歴を明らかにすることでフラックス推定も可能となる。この新手法を武節岩体で適用し、熱モデルと組み合わせて岩体形成時のフラックスを推定した。フラックスは1.6~1.7×10-3 [km3/yr]と推定され、新城岩体の1.5×10-3 [km3/yr] (Yamaoka et al., 2023) と同程度である。噴火に関与した新城岩体と関与しない武節岩体で同様のフラックスが推定されたことは、フラックスが噴火可能性に与える影響が限定的であることを示唆する。一方マグマ貫入期間は武節岩体で13万年程度に対して新城岩体では200万年程度と推定され、貫入継続時間が重要なパラメータとなる可能性を示す。

参考
K. Yamaoka, S. R. Wallis, A. Miyake, C. Annen, Geology 51 (12), 1173-1177 (2023)