14:20 〜 14:35
[R6-13] ジルコン中メルト包有物を用いた花崗岩質マグマ固結過程の物理条件解析
キーワード:メルト包有物、花崗岩、ジルコン、物理条件
1.はじめに 花崗岩質マグマの物理条件は,造山帯の構造発達史から個々の花崗岩体のマグマ過程まで,広い範囲にわたる地質現象の理解に欠かせない基本情報である.花崗岩体に記録された物理条件の解析には,角閃石を用いた地質温度圧力計が広く用いられているが,角閃石を含まない花崗岩類には適用できない問題がある.そこでTaniwaki et al. (2023)では,花崗岩類に普遍的に含まれる鉱物であるジルコン中のメルト包有物組成を用いた物理条件の解析方法を提案した.本研究では,角閃石を含む花崗岩体である甲斐駒ヶ岳岩体と角閃石を含まない花崗岩体である御内岩体を対象に,高温高圧実験によって均質化したメルト包有物の組成を用いた物理条件の解析を行った.さらに,甲斐駒ヶ岳岩体については,既報の角閃石地質温度圧力計の結果と比較・検討した.
2.実験試料・実験手法 伊豆衝突帯花崗岩類の1つである甲斐駒ヶ岳岩体と,西南日本外帯酸性岩類の1つである御内岩体の2つの新第三紀花崗岩質岩体を対象とし,ジルコン中メルト包有物を用いた物理解析をおこなった.Watanabe et al. (2020) は甲斐駒ヶ岳岩体内の8試料について角閃石Ti温度計 (Femenias et al., 2006) および角閃石Al圧力計 (Mutch et al., 2016)を適用し,花崗岩質メルトの含水ソリダス曲線に近い温度圧力条件を示す3試料を岩体固結時の圧力 (240〜220 MPa) を記録したものと解釈し,岩体の定置深度を約9〜8 kmと見積もった.なお,この定置深度はSueoka et al. (2017) によって報告された熱年代学的手法から見積もられた甲斐駒ヶ岳岩体分布域である赤石山脈北部の地殻削剥量と整合的である.一方,Taniwaki et al. (2023) は御内岩体について,ジルコン中メルト包有物の組成を用いて114〜80 MPaの固結圧力を見積もった.この圧力見積もり値は岩体でみられる比較的低圧を示唆する野外産状とも調和的である.それぞれの岩体から採集した岩石試料からジルコンを分離し,内部構造をSEM-EDSで観察したところ,微細な石英・長石類と空隙を含む不定形の多相包有物が認められた.本研究では,Taniwaki et al. (2023) にしたがい,実験圧力を0.3 GPa,実験温度を甲斐駒ヶ岳岩体の試料は780℃,御内岩体の試料は840℃と設定してメルト包有物の均質化実験を行った.
3.結果 どちらの岩体もメルト包有物は花崗岩質の組成を持ち,実験試料の全岩化学組成よりSiO2含有量が高い.ハーカー図上では,メルト包有物の組成は岩体の全岩化学組成に比べてSiO2含有量の高いところに位置する.
4.考察 メルト組成を用いた最新の地質温度圧力計であるMagMaTaB地質温度圧力計(Weber and Blundy, 2024)を適用して温度圧力条件を検討したところ,甲斐駒ヶ岳岩体のメルト包有物組成から734〜702 ℃,303〜185 MPa (±110~130 MPa)の温度圧力が見積もられた.このうち,温度条件は既報の角閃石温度圧力計の結果と調和的だが,圧力値はやや低い.薄片観察から,角閃石は自形〜半自形でマグマの固結過程の初期から結晶化していたものと考えられる.一方で,ジルコンは一部に角閃石の周縁部に包有されているものがあるが,多くは黒雲母の周縁部に包有されるものや,主成分鉱物の粒間にみとめられる.さらに,ジルコンのメルト包有物はSiO2含有量が高いことから,マグマ固結直前の粒間の残液がジルコン結晶成長時に取り込まれたと考えられる.したがって,当試料についての角閃石圧力計との圧力の不一致は,上昇するマグマ中の角閃石とジルコンの結晶化時期の違いを反映したものと解釈することができる.さらに,御内岩体についても同様にMagMaTaB地質温度圧力計による温度圧力見積もりを行った.その結果,785〜733 ℃,235〜92 MPaと,甲斐駒ヶ岳岩体と比較して高温・低圧を示す値が得られた.この温度圧力条件の差は,2岩体のマグマの冷却・固結過程の違いを反映していると考えられるが,どちらの岩体においても温度と圧力に負の相関が認められる.本研究によりジルコン中メルト包有物から新たに得られた温度圧力条件は,花崗岩質マグマ上昇過程においてのマグマの再加熱の記録と解釈することができる.
2.実験試料・実験手法 伊豆衝突帯花崗岩類の1つである甲斐駒ヶ岳岩体と,西南日本外帯酸性岩類の1つである御内岩体の2つの新第三紀花崗岩質岩体を対象とし,ジルコン中メルト包有物を用いた物理解析をおこなった.Watanabe et al. (2020) は甲斐駒ヶ岳岩体内の8試料について角閃石Ti温度計 (Femenias et al., 2006) および角閃石Al圧力計 (Mutch et al., 2016)を適用し,花崗岩質メルトの含水ソリダス曲線に近い温度圧力条件を示す3試料を岩体固結時の圧力 (240〜220 MPa) を記録したものと解釈し,岩体の定置深度を約9〜8 kmと見積もった.なお,この定置深度はSueoka et al. (2017) によって報告された熱年代学的手法から見積もられた甲斐駒ヶ岳岩体分布域である赤石山脈北部の地殻削剥量と整合的である.一方,Taniwaki et al. (2023) は御内岩体について,ジルコン中メルト包有物の組成を用いて114〜80 MPaの固結圧力を見積もった.この圧力見積もり値は岩体でみられる比較的低圧を示唆する野外産状とも調和的である.それぞれの岩体から採集した岩石試料からジルコンを分離し,内部構造をSEM-EDSで観察したところ,微細な石英・長石類と空隙を含む不定形の多相包有物が認められた.本研究では,Taniwaki et al. (2023) にしたがい,実験圧力を0.3 GPa,実験温度を甲斐駒ヶ岳岩体の試料は780℃,御内岩体の試料は840℃と設定してメルト包有物の均質化実験を行った.
3.結果 どちらの岩体もメルト包有物は花崗岩質の組成を持ち,実験試料の全岩化学組成よりSiO2含有量が高い.ハーカー図上では,メルト包有物の組成は岩体の全岩化学組成に比べてSiO2含有量の高いところに位置する.
4.考察 メルト組成を用いた最新の地質温度圧力計であるMagMaTaB地質温度圧力計(Weber and Blundy, 2024)を適用して温度圧力条件を検討したところ,甲斐駒ヶ岳岩体のメルト包有物組成から734〜702 ℃,303〜185 MPa (±110~130 MPa)の温度圧力が見積もられた.このうち,温度条件は既報の角閃石温度圧力計の結果と調和的だが,圧力値はやや低い.薄片観察から,角閃石は自形〜半自形でマグマの固結過程の初期から結晶化していたものと考えられる.一方で,ジルコンは一部に角閃石の周縁部に包有されているものがあるが,多くは黒雲母の周縁部に包有されるものや,主成分鉱物の粒間にみとめられる.さらに,ジルコンのメルト包有物はSiO2含有量が高いことから,マグマ固結直前の粒間の残液がジルコン結晶成長時に取り込まれたと考えられる.したがって,当試料についての角閃石圧力計との圧力の不一致は,上昇するマグマ中の角閃石とジルコンの結晶化時期の違いを反映したものと解釈することができる.さらに,御内岩体についても同様にMagMaTaB地質温度圧力計による温度圧力見積もりを行った.その結果,785〜733 ℃,235〜92 MPaと,甲斐駒ヶ岳岩体と比較して高温・低圧を示す値が得られた.この温度圧力条件の差は,2岩体のマグマの冷却・固結過程の違いを反映していると考えられるが,どちらの岩体においても温度と圧力に負の相関が認められる.本研究によりジルコン中メルト包有物から新たに得られた温度圧力条件は,花崗岩質マグマ上昇過程においてのマグマの再加熱の記録と解釈することができる.