一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R6:深成岩・火山岩及び サブダクションファクトリー

2024年9月14日(土) 14:00 〜 15:00 ESホール (東山キャンパス)

座長:星出 隆志(秋田大学)

14:35 〜 14:50

[R6-14] 石英の結晶化温度の正確な決定のためのTiO2活動度の導出

*小北 康弘1、加藤 丈典2、湯口 貴史3 (1. 山形大学、2. 名古屋大学、3. 熊本大学)

キーワード:石英、カソードルミネッセンスパターン、Ti濃度、TiO2活動度、遠野複合深成岩体

珪長質マグマの地殻への貫入から定置,固化の間に生じるマグマ溜りプロセスは,マグマ中で結晶化する初生鉱物の結晶成長の履歴として記録される.初生鉱物のうち,石英は珪長質岩に普遍的に含まれる鉱物であり,そのカソードルミネッセンス(以下,CL)パターンやチタン(以下,Ti)濃度等の微量元素組成に基づき,石英の結晶成長プロセスが論じられている(例えば,Yuguchi et al., 2020, J. Asian Earth Sci.).石英中のTi濃度は結晶化温度を反映し,その関係はTitaniQ温度計(Wark and Watson, 2006, CMP)として定式化されている.TitaniQ温度計を用いて結晶化温度を導出するためには,石英中のTi濃度の他,メルト中のTiO2活動度の設定が必要である.TiO2活動度は,石英と共生するTi含有鉱物の種類により仮定する方法(Schiller and Finger, 2019, CMP)や,熱力学計算プログラムrhyolite-MELTS(Gualda et al., 2012, J. Petrology)を用いる方法(Ghiorso and Gualda, 2013, CMP)により仮定され議論が行われるが,岩石学的な観察と整合した仮定となっている必要がある.そこで本研究では,TiO2活動度を適切に決定して石英の結晶化温度を得るために,石英とジルコンが包有関係にあるサンプルを用いてTiO2活動度の決定を試みた.また,この手法で得た石英の結晶化温度に基づき,深成岩体形成時のマグマ溜りプロセスに制約を与えることを目的として,遠野複合深成岩体(以下,遠野岩体)を例とした検討を実施した.
 試料は,東北日本の北上山地中央部の遠野岩体に産出する岩石試料を用いた.遠野岩体の中心部はアダカイト質岩からなる累帯深成岩体であり,その周囲に分布するカルクアルカリ花崗岩とのマグマの起源や貫入時期の相違について議論されている(Tsuchiya et al., 2007, JVGR).遠野岩体の岩石サンプルから薄片を作製し,山形大学の走査型電子顕微鏡(JEOL JSM-IT100A + Gatan mini CL)を用いて石英のCL像に基づく結晶成長様式の観察を行った.その観察結果に基づいて,名古屋大学宇宙地球環境研究所のEPMA(JEOL JCXA-733)を用いて石英中のTi濃度の定量分析を行った.ジルコンのTi濃度は,日本原子力研究開発機構・電力中央研究所(2023)のデータを用いた.
 TiO2活動度を導出するために,次の2つの条件を検討した.(1) 石英は深成岩体の中で900℃程度からソリダス付近の温度条件まで晶出する鉱物である(例えば,Sasaki et al., 2022, 地調研究資料集).このうち,ソリダス付近で晶出した石英では,[岩体のソリダス温度]≦[石英の結晶化温度]であることが必要となる(Fonseca Teixeira et al., 2023, Geology).(2) ジルコンを包有する石英に着目すると,晶出順序はジルコン,石英の順であることから,温度条件は[石英の結晶化温度]≦[ジルコンの結晶化温度]であることが必要となる.本研究で得た石英のCL像およびTi濃度から,これら2つの条件を検討し,TiO2活動度の取り得る値を制約する.また,石英の結晶化温度を各サンプルで比較することにより,遠野岩体のマグマ溜りプロセスについて論じる.