12:30 PM - 2:00 PM
[R6-P-02] Formation processes of high-Mg andesite associated with ophiolitic rocks in the Setogawa belt
Keywords:high-Mg andesite, Setogawa belt, felsic crystalline inclusions, magma mixing
高マグネシウム安山岩(HMA)は、MgOに富み(Mg#>60;Kelemen, 2003)、FeO*/MgO比が1以下(巽, 2003)の初生的な組成で特徴付けられる安山岩である。HMAは沈み込み帯のマグマ成因を明らかにする上で重要な成分であり、安山岩質化学組成を示す大陸地殻の生成過程において大きな役割を果たすと考えられている(巽, 2003)。HMAは、現在の火山弧に産しており、沈み込み帯由来のオフィオライトにも産出することがある(例えば、オマーンオフィオライト;Ishikawa et al., 2002)。このようなオフィオライト中のHMAの形成過程を理解することによって、沈み込み帯の発達過程に束縛条件を与えることが期待される。日本列島では、静岡県中央部に分布する古第三紀付加体の瀬戸川帯に、断片化したオフィオライト岩類が存在し、HMAがオフィオライト岩類に伴って産出する(大橋・白木, 1981)。本研究では、瀬戸川帯オフィオライト岩類中におけるHMAの組織観察や全岩・鉱物化学組成分析を行うことによって、その形成過程について考察する。
瀬戸川帯のHMAは、瀬戸川帯の西端に位置する大岳衝上体の奥仙俣地域に分布する角礫岩中の様々なサイズの砕屑物(最大で2-3 m径)として産出する。HMA礫には肉眼で鮮緑色の単斜輝石斑晶が特徴的に見られる。HMA礫のほかに安山岩、斑れい岩、単斜輝岩、蛇紋岩などのオフィオライトを構成する岩相の砕屑物も認められる。瀬戸川帯のHMAは、クロムスピネルを包有するかんらん石仮像と単斜輝石の斑晶を含み、稀に丸みを帯びた他形の斜長石斑晶も含まれる。石基は単斜輝石、斜長石及び二次鉱物から構成され、稀に石英を含む。かんらん石仮像、クロムスピネル、単斜輝石には、角閃石、単斜輝石、斜長石と稀に石英やカリ長石からなる珪長質な結晶包有物が確認され(下図)、一部の単斜輝石や角閃石は急冷組織を示す。単斜輝石斑晶の組成累帯は、コア部ではよりMg#に富む部分がMg#に乏しい部分を不規則に取り囲み、リム部では内側から外側に向かってMg#が減少する。また、コア部とリム部の境界では急激なMg#の減少が見られる。全岩のMgO量とかんらん石仮像・単斜輝石の斑晶量の間には正の相関があり、玄武岩質から安山岩質に変化する全岩化学組成変化は、結晶の集積によって説明することができる。単斜輝石の微量元素及び希土類元素パターンは、コア部とリム部で同じ特徴を示しており、同一の親マグマからの分化程度の異なるマグマによって結晶化したことが示唆される。また、単斜輝岩中の単斜輝石の微量元素及び希土類元素パターンもHMA中の単斜輝石のパターンと類似する。N-MORBで規格化された全岩微量元素パターンは、LILEで正異常、HSFEで負異常が見られ、島弧マグマの特徴を示す。希土類元素パターンでは、LREEに乏しい左下がりの特徴を示す。微量元素パターンの特徴は、嶺岡・瀬戸川帯の深成岩や伊豆・ボニン・マリアナ(IBM)弧の火山岩に類似する。
無斑晶質のHMA試料から見積もられる平衡なかんらん石のMg#(=88)とNiO量(=0.11 wt.%)は、マントルかんらん岩中の値(Mg#=84-93、NiO=0.3-0.4 wt.%;高橋, 1986)に比べてNiO量に乏しく、瀬戸川帯HMAがマントル溶融で形成されたのではないことを示している。また、スラブメルトが関与したアダカイト質HMAは高いSr量(>1000 ppm)と高いSr/Y比(50-350)の特徴を持つが(Yogodzinski et al., 2015)、瀬戸川帯HMAはSr量(60-271 ppm)が低くSr/Y比(5-17)も低いことから、スラブメルトが関与した可能性は低い。
Siに富むメルト由来の珪長質結晶包有物の存在と、単斜輝石斑晶のコア部からリム部への急激なMg#の減少は、瀬戸川帯HMAが高温で未分化な苦鉄質マグマとより分化したSiO₂に富むマグマが混合することによって形成された可能性を示唆する。この2つのマグマは同じ親マグマに由来すると考えられ、島弧環境における単一のマグマ供給系で、より分化の進んだマグマ溜まり中に未分化な苦鉄質マグマが供給されることによって混合したのであろう。単斜輝岩は、未分化なマグマから結晶化した単斜輝石の分別によって形成された結晶沈積岩であろう。瀬戸川帯のオフィオライト岩類は、付加体に取り込まれた断片化したIBM弧由来の地殻~マントルの断片岩である可能性が指摘されている(Ichiyama et al.,2017, 2020)。もしそうであるならば、IBM弧に存在するとされる安山岩質中部地殻は、HMAマグマを形成するようなマグマ混合によって形成されている可能性がある。
瀬戸川帯のHMAは、瀬戸川帯の西端に位置する大岳衝上体の奥仙俣地域に分布する角礫岩中の様々なサイズの砕屑物(最大で2-3 m径)として産出する。HMA礫には肉眼で鮮緑色の単斜輝石斑晶が特徴的に見られる。HMA礫のほかに安山岩、斑れい岩、単斜輝岩、蛇紋岩などのオフィオライトを構成する岩相の砕屑物も認められる。瀬戸川帯のHMAは、クロムスピネルを包有するかんらん石仮像と単斜輝石の斑晶を含み、稀に丸みを帯びた他形の斜長石斑晶も含まれる。石基は単斜輝石、斜長石及び二次鉱物から構成され、稀に石英を含む。かんらん石仮像、クロムスピネル、単斜輝石には、角閃石、単斜輝石、斜長石と稀に石英やカリ長石からなる珪長質な結晶包有物が確認され(下図)、一部の単斜輝石や角閃石は急冷組織を示す。単斜輝石斑晶の組成累帯は、コア部ではよりMg#に富む部分がMg#に乏しい部分を不規則に取り囲み、リム部では内側から外側に向かってMg#が減少する。また、コア部とリム部の境界では急激なMg#の減少が見られる。全岩のMgO量とかんらん石仮像・単斜輝石の斑晶量の間には正の相関があり、玄武岩質から安山岩質に変化する全岩化学組成変化は、結晶の集積によって説明することができる。単斜輝石の微量元素及び希土類元素パターンは、コア部とリム部で同じ特徴を示しており、同一の親マグマからの分化程度の異なるマグマによって結晶化したことが示唆される。また、単斜輝岩中の単斜輝石の微量元素及び希土類元素パターンもHMA中の単斜輝石のパターンと類似する。N-MORBで規格化された全岩微量元素パターンは、LILEで正異常、HSFEで負異常が見られ、島弧マグマの特徴を示す。希土類元素パターンでは、LREEに乏しい左下がりの特徴を示す。微量元素パターンの特徴は、嶺岡・瀬戸川帯の深成岩や伊豆・ボニン・マリアナ(IBM)弧の火山岩に類似する。
無斑晶質のHMA試料から見積もられる平衡なかんらん石のMg#(=88)とNiO量(=0.11 wt.%)は、マントルかんらん岩中の値(Mg#=84-93、NiO=0.3-0.4 wt.%;高橋, 1986)に比べてNiO量に乏しく、瀬戸川帯HMAがマントル溶融で形成されたのではないことを示している。また、スラブメルトが関与したアダカイト質HMAは高いSr量(>1000 ppm)と高いSr/Y比(50-350)の特徴を持つが(Yogodzinski et al., 2015)、瀬戸川帯HMAはSr量(60-271 ppm)が低くSr/Y比(5-17)も低いことから、スラブメルトが関与した可能性は低い。
Siに富むメルト由来の珪長質結晶包有物の存在と、単斜輝石斑晶のコア部からリム部への急激なMg#の減少は、瀬戸川帯HMAが高温で未分化な苦鉄質マグマとより分化したSiO₂に富むマグマが混合することによって形成された可能性を示唆する。この2つのマグマは同じ親マグマに由来すると考えられ、島弧環境における単一のマグマ供給系で、より分化の進んだマグマ溜まり中に未分化な苦鉄質マグマが供給されることによって混合したのであろう。単斜輝岩は、未分化なマグマから結晶化した単斜輝石の分別によって形成された結晶沈積岩であろう。瀬戸川帯のオフィオライト岩類は、付加体に取り込まれた断片化したIBM弧由来の地殻~マントルの断片岩である可能性が指摘されている(Ichiyama et al.,2017, 2020)。もしそうであるならば、IBM弧に存在するとされる安山岩質中部地殻は、HMAマグマを形成するようなマグマ混合によって形成されている可能性がある。