12:30 〜 14:00
[R6-P-05] 北上山地,遠野複合深成岩体に産出するジルコンの晶出条件と周辺鉱物との晶出関係
キーワード:ジルコン、U-Pb年代、Ti濃度、遠野複合深成岩体
ジルコンは珪長質深成岩体で普遍的に産出する副成分鉱物であり,マグマの地殻への貫入から定置,固化に至るマグマ溜りプロセスの温度・時間履歴の推定(例えば,Suzuki et al., 2023, J. Miner. Petrol. Sci.)や地殻の隆起・侵食量評価における起点の情報(Kawakami et al., 2021, Island Arc)に用いられる.ジルコンU–Pb年代は火成活動の時期の指標として広く用いられる一方で,ジルコンの結晶化に数百万年程度の期間の幅があるケースが報告されている(Annamária et al., 2023, Miner. Petrol.).ジルコンのU–Pb年代測定から得られる年代値は,あくまでジルコンの結晶化年代を示すに過ぎず,マグマ溜りプロセスをより精緻に議論するためには岩石学的情報を踏まえた解釈が必要となる.そこで本研究では,単一の花崗岩体におけるジルコンの結晶化条件(年代,温度)を,ジルコン周辺の鉱物との晶出関係と関連させて解釈を行うことを目的として,薄片中のジルコンに対して結晶化年代・結晶化温度の推定を実施した.
対象とした岩体は,北上山地中央部に位置する遠野複合深成岩体(以下,遠野岩体)とした.遠野岩体は北上山地の白亜紀深成岩体で最大の露出面積を有することから(小野・曽屋, 1974, 地調報告),大規模のマグマ溜りを生成していたことが示唆される.深成岩体内の複数地点の試料を用いることで,マグマ溜り内の位置によるジルコン結晶化条件の相違を評価できることが期待される.また,遠野岩体は全岩化学組成の特徴によりアダカイト質の中心相と非アダカイト質の主岩相とに岩相が区分されており,中心相と主岩相は異なる起源マグマに由来すると考えられている(Tsuchiya and Kanisawa, 1994, J. Geophys Res.).このような特徴の異なるマグマにおいてジルコンの結晶化条件の相違を比較することで,それぞれの岩相を形成したマグマの相違を議論する.
ジルコンとその周辺鉱物(隣接する鉱物)との晶出関係を議論するために,遠野岩体の岩石サンプル(中心相3サンプル,主岩相3サンプル)それぞれについて薄片を作製し,山形大学の走査型電子顕微鏡を用いてジルコンのカソードルミネッセンス(以下,CL)像による結晶成長様式の観察を行った.その観察結果に基づいて,学習院大学のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置によりU–Pb年代及びTi濃度の同時取得分析を行った.
遠野岩体のジルコンの産状は,石英に包有されているジルコン,黒雲母に包有されているジルコン,粒間に晶出するジルコンの3タイプが認められた(表1).中心相の3サンプルでは,それぞれで石英に包有されているジルコンが認められた.主岩相の3サンプルでは,黒雲母に包有されているジルコンが卓越するサンプルを確認した(表1のサンプル405).ジルコン1粒子の中で複数点の同位体分析を行い,それらのU–Pb年代,Ti濃度および分別結晶作用の指標となるTh/U比を粒子内で比較したところ,遠野岩体のジルコンでは,粒子内で誤差の範囲を超える有意な相違が認められる粒子があった.このような粒子は,ジルコンが結晶化する際のマグマの温度等の変化を記録している可能性がある.CLパターンが共通な粒子同士,例えばオシラトリーゾーニングを有する粒子同士を比較すると,石英に包有されているジルコンと黒雲母に包有されているジルコンとで結晶化年代の分布範囲に相違は認められなかった.結晶化温度を反映するTi濃度も,石英に包有されているジルコンと黒雲母に包有されているジルコンとで組成範囲に相違は認められなかった.また,石英や黒雲母に包有されるジルコンと粒間に存在するジルコンとで結晶化年代やTi濃度の組成範囲が重なることがわかった.産状によるジルコンの結晶化条件に相違がみられないことは,ジルコンや周囲の鉱物の晶出が同じ時間・温度条件で並行して進んだことを示す.このことは,花崗岩質マグマが地殻へ貫入・定置後に急速に冷却・固化するケース(Large et al., 2021, Earth Planet. Sci. Lett.)と類似しており,遠野岩体を形成したマグマ溜りの急速な冷却(Yuguchi et al., 2020, Lithos)を支持する.本報告では,岩相によるジルコンの晶出条件の相違から,遠野岩体を形成したマグマの地殻への貫入から定置,固化に至るプロセスについても議論する.
本件には,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和5年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性総合評価技術開発)」(JPJ007597)の成果の一部を使用している.
対象とした岩体は,北上山地中央部に位置する遠野複合深成岩体(以下,遠野岩体)とした.遠野岩体は北上山地の白亜紀深成岩体で最大の露出面積を有することから(小野・曽屋, 1974, 地調報告),大規模のマグマ溜りを生成していたことが示唆される.深成岩体内の複数地点の試料を用いることで,マグマ溜り内の位置によるジルコン結晶化条件の相違を評価できることが期待される.また,遠野岩体は全岩化学組成の特徴によりアダカイト質の中心相と非アダカイト質の主岩相とに岩相が区分されており,中心相と主岩相は異なる起源マグマに由来すると考えられている(Tsuchiya and Kanisawa, 1994, J. Geophys Res.).このような特徴の異なるマグマにおいてジルコンの結晶化条件の相違を比較することで,それぞれの岩相を形成したマグマの相違を議論する.
ジルコンとその周辺鉱物(隣接する鉱物)との晶出関係を議論するために,遠野岩体の岩石サンプル(中心相3サンプル,主岩相3サンプル)それぞれについて薄片を作製し,山形大学の走査型電子顕微鏡を用いてジルコンのカソードルミネッセンス(以下,CL)像による結晶成長様式の観察を行った.その観察結果に基づいて,学習院大学のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置によりU–Pb年代及びTi濃度の同時取得分析を行った.
遠野岩体のジルコンの産状は,石英に包有されているジルコン,黒雲母に包有されているジルコン,粒間に晶出するジルコンの3タイプが認められた(表1).中心相の3サンプルでは,それぞれで石英に包有されているジルコンが認められた.主岩相の3サンプルでは,黒雲母に包有されているジルコンが卓越するサンプルを確認した(表1のサンプル405).ジルコン1粒子の中で複数点の同位体分析を行い,それらのU–Pb年代,Ti濃度および分別結晶作用の指標となるTh/U比を粒子内で比較したところ,遠野岩体のジルコンでは,粒子内で誤差の範囲を超える有意な相違が認められる粒子があった.このような粒子は,ジルコンが結晶化する際のマグマの温度等の変化を記録している可能性がある.CLパターンが共通な粒子同士,例えばオシラトリーゾーニングを有する粒子同士を比較すると,石英に包有されているジルコンと黒雲母に包有されているジルコンとで結晶化年代の分布範囲に相違は認められなかった.結晶化温度を反映するTi濃度も,石英に包有されているジルコンと黒雲母に包有されているジルコンとで組成範囲に相違は認められなかった.また,石英や黒雲母に包有されるジルコンと粒間に存在するジルコンとで結晶化年代やTi濃度の組成範囲が重なることがわかった.産状によるジルコンの結晶化条件に相違がみられないことは,ジルコンや周囲の鉱物の晶出が同じ時間・温度条件で並行して進んだことを示す.このことは,花崗岩質マグマが地殻へ貫入・定置後に急速に冷却・固化するケース(Large et al., 2021, Earth Planet. Sci. Lett.)と類似しており,遠野岩体を形成したマグマ溜りの急速な冷却(Yuguchi et al., 2020, Lithos)を支持する.本報告では,岩相によるジルコンの晶出条件の相違から,遠野岩体を形成したマグマの地殻への貫入から定置,固化に至るプロセスについても議論する.
本件には,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和5年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性総合評価技術開発)」(JPJ007597)の成果の一部を使用している.