一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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R6:深成岩・火山岩及び サブダクションファクトリー

2024年9月14日(土) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[R6-P-09] 北部九州,朝倉花崗閃緑岩の組成変化と岩体成長過程

「発表賞エントリー」

*濱野 裕大1、江島 圭祐1 (1. 山口大・理地球圏)

キーワード:白亜紀、北部九州バソリス、花崗閃緑岩、岩相変化、岩体成長過程

【はじめに】北部九州には白亜紀花崗岩類(北部九州バソリス)が広く分布しており,岩相や貫入関係などから17~19岩体が認識されている(大和田・亀井, 2010, 日本地方地質誌8, 朝倉書店, 304–311).近年では,ジルコンU–Pb年代測定を用いた地質年代学的な検討が精力的に進められ,白亜紀北部九州バソリス火成活動の時間軸がより明確になった(Miyazaki et al., 2018, Int. Geol. Rev. 61, 649–674;柚原ほか, 2019, 地質雑, 125, 405–420).また,大規模火成活動と関連する高温変成岩の形成過程や火成テクトニクスに対してもより高解像度の解析が可能になった.一方で,同一岩体から約10Maも異なるジルコンU–Pb年代値が得られるなど,マグマ溜まりの成長過程,結晶化作用および3次元的な組成変化の検討を用いた各岩体単位の解析が必要になってきている.そこで,本研究では北部九州バソリスを構成する朝倉花崗閃緑岩を対象に岩体の組成変化と岩体成長過程を議論する.朝倉岩体は北部九州バソリスを構成する花崗岩体の中では,糸島岩体(約800km²),早良岩体(約450km²)に次いで3番目の露出面積(約300km²)を誇り,他の花崗岩類と貫入関係を持たない独立した岩体である.つまり,岩体成長過程や岩体規模の組成変化を検討する上で最も適した岩体であると言える.しかしながら,朝倉花崗閃緑岩体の先行研究は岩体東部の油須原地域を除くと非常に少なく,議論の余地がある.そのため本研究では,東西約4.5km,南北約9kmの範囲について詳細な地質図を作成し,記載岩石学的検討や全岩化学組成分析などを通して,岩体の南北縦断組成変化と岩体形状を明らかにする.このような検討は,大規模独立深成岩体における組成変化や成長過程のケーススタディーになると考えられる.【地質概説】朝倉花崗閃緑岩体は福岡県南部の朝倉市と嘉麻市を中心に,東西約25km,南北約12kmの範囲に分布し,ジルコンU–Pb年代:98.6±1.3Ma(Miyazaki et al., 2018),98.7±0.6 Ma(柚原ほか, 2023, 地球科学 77, 147–163)および黒雲母K–Ar年代:95.2±4.8Ma(村上, 1988, 別府大学紀要, 30, 10–17)が報告されている.本調査地の南北には周防変成岩類が母岩として分布し,朝倉花崗閃緑岩が貫入する.南部の泥質変成岩中には結晶質石灰岩が分布しており,標高859.4mの古処山山頂部に露出する.北部には古第三紀や第四紀の堆積岩が分布する.朝倉花崗閃緑岩には大型の角閃石結晶(最大粒径約3cm)が観察され,北部九州バソリスを構成する花崗閃緑岩類と同様の特徴を持つ.また,一部の岩相では角閃石と斜長石結晶が定向配列し,流理構造を示す.さらに,貫入母岩である周防変成岩類(泥質変成岩)は,230~160Maに高圧の変成作用を受けたのちに,朝倉花崗閃緑岩体の貫入によって接触変成作用を被られている(北野ほか, 2012, 地質雑, 118, 801–809).【岩石記載】朝倉花崗閃緑岩は稀にMMEを含み,優白質岩脈やペグマタイトが産する.花崗閃緑岩は中粒~粗粒で,半自形粒状組織を示し,自形の大型角閃石の斑晶を含む.主に斜長石,角閃石,黒雲母,石英およびアルカリ長石で構成され,副成分鉱物として緑泥石と緑簾石を含む.また,花崗閃緑岩体内部において細粒黒雲母花崗岩の分布が確認された.細粒黒雲母花崗岩は主に石英,斜長石,アルカリ長石および黒雲母で構成され,朝倉花崗閃緑岩に比べ,細粒緻密な岩石である.一方,貫入母岩である周防変成岩類は調査範囲の南北で異なり,北側は角閃岩,南側では泥質変成岩が卓越する.角閃岩は主に角閃石,斜長石および石英で構成され,南側の泥質変成岩は主に黒雲母,斜長石,アルカリ長石および石英で構成される.花崗閃緑岩と変成岩との境界では,片理に対して調和的な境界と非調和的な境界がみられたほか,境界部では急冷周縁相や花崗閃緑岩中に取り込まれる変成岩ゼノリスが確認された.南部の泥質変成岩は微褶曲しており,境界部付近にかけて北から南に傾斜角が変化する.【岩体の成長過程】朝倉花崗閃緑岩は,ゼノリスの存在や貫入形態から,母岩のストーピングを伴いながら貫入したと考えられる.また,朝倉花崗閃緑岩体内においては,結晶分化作用により細粒黒雲母花崗岩を形成したほか,アプライトなどの優白質岩が朝倉花崗閃緑岩に貫入したことが示唆された.今後は全岩化学組成分析などを行い,岩体内における岩体の周縁部から中心部にかけての構成鉱物の化学的な変化や母岩物質による影響などに着目し,さらなる岩体の成長過程について研究を進めていきたい.