一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R7:岩石・鉱物・鉱床 (資源地質学会 との共催 セッション)

2024年9月12日(木) 14:00 〜 17:30 ESホール (東山キャンパス)

座長:秋澤 紀克(東京大学大気海洋研究所)、越後 拓也(秋田大学)

岩石学,鉱物学,鉱床学,地球化学などの分野をはじめとして,地球・惑星物質科学全般にわたる岩石及び鉱物に関する研究発表を広く募集する。地球構成物質についての多様な研究成果の発表の場となることを期待する。

14:00 〜 14:25

[R7-01] イルメナイトのウラン–鉛系に基づく年代学研究の最前線

「招待講演」

*伊藤 健吾1、仁木 創太2、飯塚 毅3、平田 岳史1 (1. 東大・地殻化学、2. 名大・ISEE、3. 東大・院理地惑)

キーワード:イルメナイト、地球年代学、ウラン–鉛年代、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法

地質現象のタイミングを記録する放射性同位体年代系の中でも二種類のウラン–鉛系を活用した年代測定法を実施することで,太陽系形成から第四紀までに至る幅広い年代範囲の宇宙地球試料から時間情報を取得できる.現在,レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS)を用いたウラン–鉛年代測定が広く実施されている.この手法は次の二点,(i)高い空間分解能(~10 µm)での局所同位体分析,(ii)100 spots/hourを超える迅速な分析,を同時に達成できることが強みである.これまで本手法は,ウランを 1 µg g-1以上と高濃度に含有するジルコンやリン酸塩鉱物といった副成分鉱物の年代測定に広く適用されてきた.さらに,近年の分析感度向上と標準物質の探索を基軸として,これまでウラン–鉛年代測定の対象ではなかったイルメナイトやザクロ石といった新たな低ウラン濃度主成分鉱物系への応用が日々進展している(Seman et al., 2017; Thompson et al., 2021).
私たちが現在着目しているイルメナイト(FeTiO3)はFe2+とTi4+の酸化物であり,ジルコンなどの高ウラン濃度鉱物の産出が稀な苦鉄質岩に幅広く産する.さらに,火山岩中のイルメナイトはしばしばヘマタイトとの離溶組織を形成し,古地磁気記録を残すことが知られている(Robinson et al., 2002).このような背景から,イルメナイトのウラン–鉛年代系はこれまで年代制約を行うことが困難であった「苦鉄質岩という未分化な岩相の年代決定」と「古地磁気記録と放射性同位体年代の直接的な対応付け」という2つの応用的側面を有する.イルメナイトのウラン濃度は極めて低く(0.01–0.1 µg g-1)(Noyes et al., 2011),これまで実際的な年代測定の対象として扱われなかった.しかしながら,イルメナイトは鉛を結晶中にほとんど取り込まない(Klemme et al., 2006)ことから原理的には年代測定の対象となり得る.そして近年の質量分析法の高感度化に伴い,その高精度年代決定が可能となりつつある.
先行研究におけるイルメナイトのウラン–鉛年代測定には次の三つの課題が存在する.一点目は,鉱物結晶化後の二次的な変成・変質作用を示唆するような(i)散乱したウラン–鉛同位体比がしばしば取得され,年代値の解釈に不確かな余地が残る点である(Thompson et al., 2021).次に,元素比の測定に系統誤差が生じ得る(ii)非マトリックス合致標準物質を用いたウラン/鉛比の較正が実施されていることや,ごく僅かな鉛の検出に必要な分析感度の不足のため(iii)大スポット径を用いた分析が要求され,その応用が特殊な産状の巨晶イルメナイトのみに限定されることも問題となっている.
以上の問題に対処するため,本研究ではI. 分析点の選定方法,II. 年代標準イルメナイトの整備,III. 分析装置の高感度化に取り組んでいる.分析スポットの選定にあたっては同位体分析前の微量元素イメージングが強力なツールとなり得る(Chew et al., 2021)ことから,私たちは現在,同位体分析前の鉱物組織観察と微量元素イメージングに基づく分析箇所の事前選定に取り組んでいる.さらに,あらゆるイルメナイトの産状に対応した信頼度の高いイルメナイト年代測定の開発を目的として,新たなFe-Ti酸化物標準物質を用いた,高感度のフェムト秒レーザーアブレーション多重検出型誘導結合プラズマ質量分析法(fsLA-MC-ICP-MS)による分析システムを構築している.本研究では,2~20億年の範囲に及ぶ幅広い年代域の地質体からイルメナイトを準備し,ウランや鉛といった極微量の元素のイルメナイト中での分布を調査し,本分析システムを用いた年代測定の正確性評価を行った結果について報告する.微量元素イメージングの結果からは,イルメナイト中ではウランがヘマタイト離溶部やバデレアイトといった微小な包有物を担体としていること,鉛の濃集する2次的な脈やクラックによって結晶化後以降の情報をもたらされうることが示された.また,年代測定に関して本分析では,先行研究よりも小さい領域の50 µm四方からウランと鉛の信号取得が可能であり,さまざまな産状のイルメナイト分析に対応できる.さらに,得られたウラン–鉛年代は,先行研究で報告されている当該地域のジルコン年代と調和的で,約10億年前の試料から分析精度約2 %の精確な年代を得ることに成功した.これらの結果は,幅広い時代区分のイルメナイトに対して,精確な年代測定が可能であることを示している.本発表では最後に,ウラン–鉛放射壊変系を用いたイルメナイトの年代研究の今後の展望について議論する.