4:30 PM - 4:45 PM
[R7-09] Mineral zoning and formation temperatures around the Myokenzan lithium pegmatites
「発表賞エントリー」
Keywords:Pegmatite, Crystallization fractionation, Garnet-biotite geothermometer, Mineral zoning
茨城県常陸太田市に位置する妙見山リチウムペグマタイトは,日本有数のリチウムペグマタイトであり,その鉱物組み合わせからLCTペグマタイトに分類される(櫻井ほか, 1977).LCTペグマタイトの成因は従来,過アルミナ花崗岩質マグマの結晶分化作用が主とされており,本ペグマタイトは妙見山周辺に分布する前期白亜紀に貫入した含ザクロ石両雲母花崗岩を形成した花崗岩質マグマの結晶分化によって生成したと推定されているが(石原, 2010),確証は得られていない.本研究では,妙見山ペグマタイトの起源となった花崗岩質マグマの検討を行い,その成因を明らかにすることを目的とし,地表踏査による岩相及び産状の記載,薄片観察とXRF,ICP-MSによる全岩化学組成結果に基づく岩石種の決定,EPMA-WDSによる鉱物化学組成の決定,ザクロ石-黒雲母温度計(Hodges and Spear, 1982)による花崗岩類の形成温度の推定を行った.地表踏査及び薄片観察,XRF分析の結果,妙見山周辺には砂質片麻岩,輝石角閃石石英斑れい岩~斑れい岩,黒雲母角閃石トーナル岩~石英閃緑岩及び角閃石トーナル岩,角閃石黒雲母花崗岩及び黒雲母花崗岩,含ザクロ石白雲母黒雲母花崗岩といった多様な岩相が分布しており,本ペグマタイトは構成鉱物によって,リチウムペグマタイト: 石英,長石,白雲母,リチウム鉱物, 白雲母ペグマタイト: 石英,長石,白雲母,白雲母黒雲母ペグマタイト: 石英,長石,白雲母,黒雲母, 黒雲母ペグマタイト: 石英,長石,黒雲母 の4種類に分けられた.全岩化学組成分析の結果,花崗岩類のアルミナ飽和度を求めたところ,黒雲母花崗岩,角閃石黒雲母花崗岩はASI≦1.1を示し,含ザクロ石白雲母黒雲母花崗岩はASI≧1.1を示した.Li濃度は角閃石黒雲母花崗岩で96ppmと最も高く,含ザクロ石白雲母黒雲母花崗岩では49ppmであった.EPMAによる鉱物化学組成分析の結果,黒雲母ペグマタイト中のザクロ石は MgO: 0.88-1.36wt%, CaO: 0.98-4.89wt% に対し,白雲母黒雲母ペグマタイト中のザクロ石では MgO: 0.50-0.70wt%, CaO: 0.41-1.25wt%,白雲母ペグマタイト中のザクロ石では MgO: 0.62-1.02wt%, CaO: 0.20-0.25wt% の組成範囲を示す.また,黒雲母ペグマタイトにおいてはザクロ石の組成が FeO: 17.68-36.98wt%, MnO: 2.56-20.63wt% と組成変化が大きい.黒雲母ペグマタイト中の斜長石はAb81-Ab72程度を示し, 白雲母黒雲母ペグマタイト中の斜長石ではAb85-Ab88,Ab93-Ab98,白雲母ペグマタイト中の斜長石ではAb94-Ab97,リチウムペグマタイト中の斜長石ではAb99を示す.ザクロ石-黒雲母温度計の結果から,黒雲母ペグマタイトは427℃-790℃を示し,白雲母黒雲母ペグマタイトは313℃-643℃を示す.本ペグマタイトの構成鉱物が黒雲母を主体とするペグマタイトから白雲母を主体とするペグマタイトに変化し,斜長石の組成が黒雲母ペグマタイトからリチウムペグマタイトにかけてAb成分に富むことは,本ペグマタイトが黒雲母ペグマタイトからリチウムペグマタイトにかけて結晶分化作用が進んだことを示している.また,ザクロ石-黒雲母温度計から見積もられた固結温度には大きな温度差がみられるが,これはペグマタイト中のザクロ石の組成変化が大きいためである.この結果は,ペグマタイトの生成温度の推定にはザクロ石-黒雲母温度計が適応できない可能性を示す.本研究で調べた含ザクロ石白雲母黒雲母花崗岩はリチウム濃度が低いが,これはリチウムの分配係数が白雲母より黒雲母の方が高く,白雲母に対しては不適合元素だが,黒雲母に対しては適合元素となることから,白雲母の結晶分化作用によって残余メルトにリチウムが濃集したためと考えられる. 以上の結果は,含ザクロ石白雲母黒雲母花崗岩が妙見山リチウムペグマタイトの関係火成岩であることを示している.