2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Poster presentation

R7: Petrology, Mineralogy and Economic geology (Joint Session with Society of Resource Geology)

Fri. Sep 13, 2024 12:30 PM - 2:00 PM Entrance Hall (Higashiyama Campus)

12:30 PM - 2:00 PM

[R7-P-13] Research and development for the exploration of unknown cosmic ray events using Paleo-Detector

*Yuki Ido1, Tatsuhiro Naka2, Shota Futamura3, Tohma Ori4, Takenori Kato5 (1. Nagoya Univ. Env., 2. Toho Univ. Sci, 3. Nagoya Univ. Sci., 4. N.I.T. Suzuka, 5. Nagoya Univ. ISEE)

Keywords:Muscovite, Olivine, Particle physics

本研究では鉱物を未知粒子の飛跡検出器として大規模な探索を行うことを目指している。粒子との相互作用により鉱物の中に飛跡が残ることが1960年代に報告されている。地球科学においてはフィッショントラック年代測定法として用いられている。一方で物理学、特に素粒子物理学実験領域においては主に宇宙線の検出器として性能評価が行われ、運用されてきた実績があるものの、注目度の高い探索対象粒子の変遷やより高感度の検出器の開発により、近年は鉱物飛跡検出器を用いた探索実験は行われていなかった。
 しかしながら、特定の条件下では鉱物飛跡検出器は依然として高い探索性能を誇ることが示されている。また、粒子と鉱物の相互作用の頻度が極端に低かった場合はヒトスケールの探索では十分でないことや、地球近傍での発生割合が1回/100yr程度である超新星爆発に起因する粒子の探索など、鉱物飛跡検出器でしか行い得ない探索があることが示唆されている。
 そこで、本研究では白雲母とかんらん石を用いて、鉱物飛跡検出器の再検討を行っている。これらの鉱物はバックグラウンドとなるウランの含有量が少なく、透過度が高いため光学顕微鏡を用いた探索が容易であるという点が挙げられる。ハンドリングに関しては白雲母はエッチングや入手という点を含め比較的容易であることに対し、かんらん石の処理は煩雑である。先行研究に関しては、白雲母は大面積が稼げる点、かんらん石は隕石に含まれる鉱物を探索することで大気の影響を受けない点をメリットとしてどちらも探索に運用された実績がある。さらに白雲母の探索はCharged Q-ballの探索上限の推定に用いられているが、この推定には飛跡形成や光学像に対する十分な議論が無いため、再検証の必要がある。元となった磁気単極子の探索実験は数億年程度の形成年代を持つ白雲母を600cm2程度探索し、対象となる飛跡が未発見であったことから、磁気単極子のFluxに制限を付けている。これをCharged Q-ball探索に外挿する際、結果のみを適応しているものの、磁気単極子とCharged Q-ballでは飛跡形成過程および飛跡光学像が同様であるとする実験的な根拠はないため、この推定がどの程度正確なのか検証することは喫緊の課題となっている。
 Charged Q-ballは現在の物質アシンメトリー問題と呼ばれる物質優勢の世界を説明するために考えられた理論の中に現れる粒子であるが、研究が進むにつれ、暗黒物質となっている可能性も示唆されている。暗黒物質とは宇宙の構成要素の3割を占める、未知の粒子を指すが、つまり、このCharged Q-ballは素粒子物理学における物質アシンメトリー問題と暗黒物質問題を同時に扱う粒子であり、探索によって幾つかの物理量に制限をかけられる。しかしながら、暗黒物質であるがために、低速粒子としての性質を持つため、鉱物飛跡検出器に入射した際にどのような飛跡を残すかが不明である。これは反応の小ささに起因するものである。高速粒子は比較的飛跡が長くなることから観察が容易であり、校正が容易である。一方で例えばXeで300 km/sという暗黒物質程度の低速粒子を白雲母に照射すると飛程は約30 nmとなり、光学顕微鏡では観察が不可能である。
 そこで、本研究では高速粒子から低速粒子まで用いて照射実験を行い、この飛跡を透過電子顕微鏡(TEM)や原子間力顕微鏡(AFM)を用いて飛跡の形状、および、飛跡形成閾値の検証を行った。
 実験は量子科学技術研究開発機構(QST)の重粒子線がん治療装置(HIMAC)および日本原子力研究開発機構(JAEA)のTandem加速器を用いて20 GeV~5MeVのFe, Xe, Auイオンを照射することで行った。また、角度は10度,30度,60度,90度と角度を振ることで飛跡形成の変化の有無を検証した。なお、光学顕微鏡での観察の際にはエッチングを行い、必要なサンプルにはアニーリング処理を行うことで、バックグラウンドとなっているウランの崩壊によって生じるアルファリコイルトラックを制御しつつ校正を行った。
 これらの実験から探索時の参考となる、角度およびエネルギーの異なる飛跡光学像画像を取得するとともに、今後、これらのデータセットを用いて低速粒子の飛跡光学像をシミュレーションで予測することを目指す。
 また、現在飛跡を自動で読み出すシステムを開発中である。ソフトウェアに関しては上記の校正実験で得られた飛跡を基に基礎部分が完成しており、今後はハードウエアの開発を加速させる。これにより、鉱物飛跡検出器を用いた物理探索を世界最高感度で行うことを目指しており、ポスターでは研究手法ならびに研究の進捗状況について報告する。