3:30 PM - 3:45 PM
[R8-01] Toward the establishment of "EBSD method for the detection of quartz with phase transition to coesite": Incorporation of the Gongen area, Sanbagawa metamorphic belt, Shikoku, SW-Japan
「発表賞エントリー」
Keywords:Sanbagawa metamorphic belt, Gongen area, coesite–quartz phase transition, EBSD (Electron Back Scatter Diffraction), anisotropy
石英は主要な地殻構成物質であり、高圧下ではコーサイト(coesite, Coe)に相転移する。コーサイトへの高圧相転移は、プレート収束域では深さ約80 km以上のプレート沈み込み後に上昇した広域変成岩から報告される。広域変成作用に伴うCoeは、ザクロ石やオンファス輝石等に包有される場合や、速い上昇速度、急激な温度勾配、H2Oの低い関与と関連して特定の条件で残存し得る。そのため、 広域変成岩類でCoeを確認できれば、沈み込んだ深さの下限が推定できる。また、変成岩から報告された殆どのCoeは、他の鉱物に包有された状態で発見されるため、そのようなホスト鉱物の組成累帯構造や共生鉱物、鉱物年代測定等、複数の観察・分析との組み合わせは、変成条件に強い制約を与え、P-T-t履歴の推定に決定的な役割を果たす。
しかし、Coeの形成条件に達した多くの天然試料で、Coeは上昇による減圧に伴って低圧相の石英に戻っており、保存されたCoeの観察は稀である。それゆえCoeへの相転移を経験したことを示す痕跡は長年議論があり、例えば特有の形態を持つ石英多結晶体や、石英包有物周囲の放射状割れ目等の微細組織観察は、保存されたCoeと同様に(超)高圧変成作用を示す指標として重要視される。現在まで国内からCoeは未報告だが、長崎変成岩類等Coeの痕跡とされる微細組織は一部地域から報告されている。
一方、上記の特徴的な微細組織がCoeの痕跡であれば、天然試料の沈み込みと上昇の履歴を探る重要な鍵となるが、Coeの痕跡かの観察に基づく判断・判定には、定性的な要素を含み、観察者の経験にも左右され得る側面がある。しかし近年、石英多結晶体への後方散乱電子回折(EBSD)によるマッピング結果から、Coeの痕跡の判別に有効な解析手法が報告された(Bidgood et al., 2021)。この手法により、従来の定性的な判定法と異なり、Coeへの相転移を経験した石英多結晶体の微細組織の特徴として結晶学的特徴に基づく定義がされ、Coeへの相転移の痕跡であるかの定量的な判別が可能になった。しかし、この手法は2地域(アルプス・ヒマラヤ)の分析に基づいて提案されたものであり、その一般性については懸念がある。
本研究グループは、現在Coeやその痕跡が未報告である地域にもEBSDによる再検証を行なっている。本研究では、高圧条件下での広域変成作用が報告された四国三波川変成帯権現地域の石英エクロジャイトを対象とした。権現地域の石英エクロジャイトからは、一部放射状割れ目を示唆する観察のほか、各地の超高圧変成岩で見られる石英離溶ラメラの報告もあるが、明確なCoeは見つかっていない。本研究では、石英エクロジャイト中の石英多結晶体から上記の判別手法を適用したことで、ザクロ石の包有物中の石英多結晶体領域から、Coeへの相転移を経験したことを示す石英粒子間の結晶方位関係を得たため、これについて報告する。
特に、このCoeの痕跡は石基中から見つからず、 ザクロ石の包有物の一部(5領域中1領域)から発見されたことは、極細粒(20 μm以下)のCoeの存在の見過ごしの可能性や、藍晶石中のCoe包有物での異方的な残留応力が近年指摘されるように、結晶軸方向に依存した異方的な弾性常数をもつホスト鉱物と包有物の互いの結晶学的な位置関係と関係して局所的に形成する可能性がある。この場合、例えばホスト鉱物の体積変化が小さく弾性常数が高い結晶軸方向に接する位置で、体積変化が大きく弾性常数が高い結晶軸方向を有する包有物が存在する等、ホスト鉱物―包有物境界の特定の方向で局所的な応力の集中を引き起こし、石英包有物で部分的なCoeへの相転移を生じさせたと考えられる。ホスト鉱物の割れ目による包有物の圧力解放等に加え、包有物を含む鉱物内での微小空間における応力集中に関連した、特定の結晶方位関係でのみ形成されるCoeへの相転移は、天然試料中でのCoeの発見が難しい要因になり得る。このような応力集中の効果がどのような条件下でCoeを形成させるのか定量的な評価は今後の課題であるが、特にコーサイト–石英相転移平衡曲線に近い温度圧力条件から上昇する場合には重要となる可能性がある。これは、これまでの権現地域のピーク温度圧力条件の推定結果はCoeの安定条件に達していなかったが、本研究では、Coeの痕跡が認められたことを説明できるかもしれない。本研究はBidgood et al. (2021)の手法に、本研究のようなホスト鉱物―包有物間の弾性異方性と結晶方位関係を考慮した石英多結晶体領域の選定を組み込むことで、Coeの痕跡の発見により有用なアプローチとなることを提案する。
[引用文献] Bidgood et al. (2021), Jour. Metamorphic Geol., 39, 165–180.
しかし、Coeの形成条件に達した多くの天然試料で、Coeは上昇による減圧に伴って低圧相の石英に戻っており、保存されたCoeの観察は稀である。それゆえCoeへの相転移を経験したことを示す痕跡は長年議論があり、例えば特有の形態を持つ石英多結晶体や、石英包有物周囲の放射状割れ目等の微細組織観察は、保存されたCoeと同様に(超)高圧変成作用を示す指標として重要視される。現在まで国内からCoeは未報告だが、長崎変成岩類等Coeの痕跡とされる微細組織は一部地域から報告されている。
一方、上記の特徴的な微細組織がCoeの痕跡であれば、天然試料の沈み込みと上昇の履歴を探る重要な鍵となるが、Coeの痕跡かの観察に基づく判断・判定には、定性的な要素を含み、観察者の経験にも左右され得る側面がある。しかし近年、石英多結晶体への後方散乱電子回折(EBSD)によるマッピング結果から、Coeの痕跡の判別に有効な解析手法が報告された(Bidgood et al., 2021)。この手法により、従来の定性的な判定法と異なり、Coeへの相転移を経験した石英多結晶体の微細組織の特徴として結晶学的特徴に基づく定義がされ、Coeへの相転移の痕跡であるかの定量的な判別が可能になった。しかし、この手法は2地域(アルプス・ヒマラヤ)の分析に基づいて提案されたものであり、その一般性については懸念がある。
本研究グループは、現在Coeやその痕跡が未報告である地域にもEBSDによる再検証を行なっている。本研究では、高圧条件下での広域変成作用が報告された四国三波川変成帯権現地域の石英エクロジャイトを対象とした。権現地域の石英エクロジャイトからは、一部放射状割れ目を示唆する観察のほか、各地の超高圧変成岩で見られる石英離溶ラメラの報告もあるが、明確なCoeは見つかっていない。本研究では、石英エクロジャイト中の石英多結晶体から上記の判別手法を適用したことで、ザクロ石の包有物中の石英多結晶体領域から、Coeへの相転移を経験したことを示す石英粒子間の結晶方位関係を得たため、これについて報告する。
特に、このCoeの痕跡は石基中から見つからず、 ザクロ石の包有物の一部(5領域中1領域)から発見されたことは、極細粒(20 μm以下)のCoeの存在の見過ごしの可能性や、藍晶石中のCoe包有物での異方的な残留応力が近年指摘されるように、結晶軸方向に依存した異方的な弾性常数をもつホスト鉱物と包有物の互いの結晶学的な位置関係と関係して局所的に形成する可能性がある。この場合、例えばホスト鉱物の体積変化が小さく弾性常数が高い結晶軸方向に接する位置で、体積変化が大きく弾性常数が高い結晶軸方向を有する包有物が存在する等、ホスト鉱物―包有物境界の特定の方向で局所的な応力の集中を引き起こし、石英包有物で部分的なCoeへの相転移を生じさせたと考えられる。ホスト鉱物の割れ目による包有物の圧力解放等に加え、包有物を含む鉱物内での微小空間における応力集中に関連した、特定の結晶方位関係でのみ形成されるCoeへの相転移は、天然試料中でのCoeの発見が難しい要因になり得る。このような応力集中の効果がどのような条件下でCoeを形成させるのか定量的な評価は今後の課題であるが、特にコーサイト–石英相転移平衡曲線に近い温度圧力条件から上昇する場合には重要となる可能性がある。これは、これまでの権現地域のピーク温度圧力条件の推定結果はCoeの安定条件に達していなかったが、本研究では、Coeの痕跡が認められたことを説明できるかもしれない。本研究はBidgood et al. (2021)の手法に、本研究のようなホスト鉱物―包有物間の弾性異方性と結晶方位関係を考慮した石英多結晶体領域の選定を組み込むことで、Coeの痕跡の発見により有用なアプローチとなることを提案する。
[引用文献] Bidgood et al. (2021), Jour. Metamorphic Geol., 39, 165–180.