一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

口頭講演

R8:変成岩とテクトニクス

2024年9月12日(木) 15:30 〜 18:00 ES024 (東山キャンパス)

座長:纐纈 佑衣(名古屋大学)、遠藤 俊祐(島根大学)

17:15 〜 17:30

[R8-08] 関東山地三波川帯の泥質変成岩における指標鉱物出現の温度圧力条件:炭質物ラマン温度計からの推定

*纐纈 佑衣1、清水 以知子2 (1. 名古屋大学・院環境、2. 京都大学・院理)

キーワード:炭質物ラマン温度計、シュードセクション解析、ざくろ石、黒雲母、灰曹長石

関東山地三波川帯は三波川帯の模式地として古くから研究が行われているが,指標鉱物の出現や石墨化度が複雑な分布を示すため,isogradの境界線は研究者によって異なる.本研究では,鮎川-三波川地域において採取された泥質片岩及び珪質片岩に対して炭質物ラマン温度計を適用し,温度構造を推定するとともに,全岩化学組成を用いたシュードセクション解析を実施して,指標鉱物であるザクロ石,黒雲母,灰曹長石の安定領域を解析することで,温度と指標鉱物の関係を検証した.関東山地三波川帯の鮎川-三波川地域では,複数の先行研究において詳細な地質構造や鉱物組合せ,XRDを用いた炭質物の石墨化度に関連したデータが報告されている.これらのデータを参照すると,おおむね南から北に向かって変成度がChlorite zone(I帯), Garnet zone(II帯),Biotite zone(III帯)へと上昇するが,ざくろ石の出現や石墨化度(GD)の分布は複雑である.また,Miyashita(1997)はBiotite zoneのいくつかの泥質片岩中に含まれる斜長石の縁部には灰曹長石が存在することを報告している.鮎川-三波川地域において炭質物ラマン温度計を適用した結果,360℃から520℃までの温度領域を示した.鉱物組合せから行った変成分帯と炭質物ラマン温度計の結果を比較すると,Chlorite zoneは400–440℃程度,Garnet zoneは360–470℃程度,Biotite zoneは470–520℃程度の温度を示した.一方,石墨化度と炭質物ラマン温度の関係は,I帯が360–400℃程度,II帯が440–470℃,III帯が460–520℃となり,変成度の上昇と温度の増加がおおむね調和的な結果となった.関東山地三波川帯の平均的な全岩化学組成を示すBiotite zoneの泥質片岩(AM41P, Miyashita 1997)の全岩化学組成を用いてシュードセクション図を作成したところ,温度の上昇とともにざくろ石,黒雲母,灰曹長石が出現した.ざくろ石の安定領域は,先行研究ですでに示されている通り,全岩化学組成のMnOによって強く影響を受けることが示され,Chlorite zoneとGarnet zoneの温度領域が重複する原因を説明できる.一方,黒雲母の安定領域はK2O量によって影響を受けるが,関東山地三波川帯では,全岩化学組成のK2Oは2–4 wt.%程度に収まっており,全岩化学組成による黒雲母の安定領域変化の影響は小さいと考えらえる.温度データと比較すると関東山地三波川帯の黒雲母帯は0.8 GPa程度で形成されたと考えられ,四国三波川帯よりも低い圧力条件を経験した可能性がある.灰曹長石(XAn > 0.1)は0.9 GPa程度までの低圧条件であれば黒雲母の出現から+20–30℃程度で出現するが,0.9 GPa以上の高圧条件になるとより高温側に安定領域が遷移する傾向が見られた.この結果は,Biotite zoneに灰曹長石が均質に出現する関東山地と,Albite-biotite zoneとOligocase-biotite zoneが明確に区分できる四国の間に圧力差があるとする仮説と整合的である.
引用文献:Miyashita (1997) Bull. Natn. Sci. Mus., Tokyo, Ser. C, vol.23, 1-25.