一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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R8:変成岩とテクトニクス

2024年9月13日(金) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[R8-P-03] 鳥取県大山に産する片麻状花崗岩ゼノリスの起源とパイロ変成作用

「発表賞エントリー」

*高橋 瑞季1、遠藤 俊祐1 (1. 島根大学)

キーワード:大山、ゼノリス、パイロ変成作用

鳥取県西部に位置する大山は第四紀火山であり,主にデイサイトから構成される.大山の基盤岩として,大山西麓地域では片麻状花崗岩や片麻岩類が産すことに加え,これらのジルコンU-Pb年代から古期飛騨花崗岩(260 - 230 Ma)および新規飛騨花崗岩(190 Ma)の分布が強く支持されている(Tsutsumi et al., 2017; Kawaguchi et al., 2023).一方,大山周辺を含む山陰地域の基盤岩としては,白亜紀末から古第三紀にかけて活動していた山陰バソリスの花崗岩類が広く分布している.
 大山北壁の直下に位置する元谷は,大山新期噴出物のデイサイト河床礫中にゼノリスとして塊状花崗岩類,片麻状花崗岩類,苦鉄質岩を産する.これらゼノリスは三浦(1989)により初めてその存在が報告され,輝石を含むことや飛騨帯構成岩類との関連性が述べられているが,詳しい研究は行われていない.
 花崗岩類のゼノリスはいずれも少量の融食形を示す石英を含み,アルカリ長石をほとんど含まない石英閃緑岩質からトーナル岩質の鉱物組成をもつ.また,角閃石が存在せず,輝石集合体(直方輝石+オージャイト)が形成されている.片麻状構造はこの輝石集合体の定向配列による.以上の特徴に加えて,パッチ状に微晶質領域が存在することは,ゼノリスが顕著なパイロ変成作用とそれに伴う脱水融解を受けたことを示している.黒雲母は普遍的に含まれるが,いずれもフッ素含有量が高く(F=5 wt%程度),そのため高温のパイロ変成作用時に安定化したと解釈される.微晶質領域は針状のトリディマイト+オリゴクレース~アノーソクレース+サニディンからなり,メルトの急冷組織と解釈される.これらの化学組成から,メルト組成はアルカリ花崗岩質であったことを示す.また,輝石集合体周辺の斜長石組成のみ,特異的にCaに富む.輝石および長石の化学組成とトリディマイトの存在から,パイロ変成作用の条件はサニディナイト相(900℃程度)と推定される.注目すべき組織として,チェフキン石と直方輝石と斜長石からなる非常に微細なシンプレクタイトが形成されており,花崗岩類の希土類に富む副成分鉱物(おそらく褐簾石)がパイロ変成作用時に分解したものと考えられる.
 片麻状花崗岩類のゼノリス中の副成分鉱物として新鮮なトール石がみられた.1粒子18点でEPMAによる年代測定をおこなった結果,74 - 42 Maと見かけ年代が大きくばらつき,まとまりのある古いグループ(n = 11)で加重平均をとった場合,69.0 ± 1.9 Ma(MSWD =7.1)と白亜紀末を示した.
 これら花崗岩類のゼノリスにみられる鉱物学的特徴は,Patino Douce (1997)による角閃石を含むカルクアルカリ花崗岩類の低圧脱水融解実験の結果(直方輝石,Caに富む斜長石およびAタイプ花崗岩質メルトの生成)と共通しており,本研究はパイロ変成作用によるカルクアルカリ花崗岩類の低圧脱水融解実験の自然例といえる.また,片麻状花崗岩類のゼノリスの起源については2通りの解釈ができる.1つは,白亜紀末の見かけ年代から山陰花崗岩類の深部相を起源とする解釈,もう1つは飛騨花崗岩起源であるがトール石の年代は山陰花崗岩類による熱的影響で若返ったという解釈である.どちらの解釈により妥当性があるかは,データを増やしたうえで議論する予定である.
文献:Kawaguchi et al. (2023) Gondwana Res. 117, 56-85; 三浦 (1989) 島根大学教育学部紀要. 自然科学23 (1), 25-34; Patino Douce (1997) Geology 25, 8, 743-746; Tsutsumi et al. (2017) J. Asian Earth Sci. 145, 530-541