2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

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Poster presentation

R8: Metamorphic rocks and tectonics

Fri. Sep 13, 2024 12:30 PM - 2:00 PM Entrance Hall (Higashiyama Campus)

12:30 PM - 2:00 PM

[R8-P-08] Thermal history and protolithic detritus provenance of a sillimanite–chrysoberyl-bearing gneiss from the Ashio mountains in the western part of Tochigi prefecture

*Ippei KITANO1 (1. Hokkaido Univ. Mus.)

Keywords:sillimanite–chrysoberyl-bearing gneiss, andalusite-bearing granite, thermal history, detritus provenance, Ashio mountains

栃木県西部の足尾山地では足尾帯のジュラ紀付加体が広く分布し,白亜紀~古第三紀花崗岩類の貫入による熱変成を受けて,局所的にホルンフェルス化している(河田・大澤,1955など).最近,線構造と面構造を有する珪線石含有片麻岩が見出され,その産状,岩石学的特徴,温度圧力条件から,領家帯泥質変成岩と類似した原岩および複数回の熱イベントを経験した可能性が示唆されている(北野,2023a).一方で,この片麻岩は,半自形~他形のクリソベリル,Fに富む黒雲母,白雲母,およびアパタイト,Nbを含有するルチルなど特異な鉱物を含む特徴があり(北野,2023b),領家帯変成岩類にはこのような特徴は認められない.そのため,足尾山地の片麻岩が領家帯東方延長の一部である可能性については,検討の余地が残されている.本発表では,珪線石含有片麻岩に貫入する紅柱石含有花崗岩の温度条件を含めた熱履歴と,片麻岩中の特異な鉱物に着目した原岩形成時の砕屑物供給源を考察した.調査地域では,ジュラ紀付加体の層状チャートが分布し古第三紀初期の黒雲母花崗岩に貫入され,タングステン鉱床を胚胎している(Ishihara and Sasaki, 1995).珪線石含有片麻岩は紅柱石含有花崗岩の付近に産し,主にカリ長石,石英,定向配列する黒雲母,白雲母およびフィブロライト,ランダムに配向する紅柱石からなる.最高変成条件は約>4.5 kbar,580–600 ℃で,後退変成条件は約3.7–4.2 kbar,540–560 ℃と見積もられている(北野,2023a).片麻岩中のクリソベリルは産状,組織,化学的特徴から,分化した花崗岩質岩を起源とし,原岩形成時に砕屑物として供給された可能性が示唆されている(北野,2023b).片麻岩に貫入する紅柱石含有花崗岩は塊状で,半自形~自形の紅柱石,斜長石,カリ長石の斑晶と黒雲母,白雲母,少量のイルメナイト,黄鉄鉱,モナズ石,ジルコン,アパタイト,トパーズを含む.黒雲母と白雲母は,鉄とフッ素に富む化学組成をしめす.地質温度圧力計の計算結果と紅柱石安定領域を考慮すると,花崗岩の貫入温度圧力条件は,<4 kbar, 560–600 °Cと推定された.この結果は,一般的な花崗岩質マグマのウェットソリダスよりも低温であるが,Li-B-Fに富む花崗岩質マグマのそれ(Pichavant et al., 1981)と調和的である.したがって,片麻岩は最高変成条件到達後に減圧して,上述の条件で花崗岩に貫入されて二次的な紅柱石が形成された熱履歴を有することが推察される.片麻岩の原岩は,周囲の足尾帯ジュラ紀付加体の一部と考えられている.Kojima et al. (2008)によると,足尾帯は美濃―丹波帯とともに,極東ロシアに位置するジュラ紀付加体に対比され,日本海形成以前は最も極東ロシア側に位置していた.極東ロシアのジュラ紀付加体と断層を介して隣接する,先カンブリア紀の地質体であるKhanka terraneは,オルドビス紀~シルル紀の花崗岩活動に伴うBe-Nb-Ta-F鉱床を胚胎する.この鉱床には,クリソベリルなどのBe鉱物をはじめ,トパーズや蛍石などのF鉱物,アメサイトやセラアイトのMgに富む鉱物,ルチル,アパタイトなどを含む鉱石が産する.そのため,片麻岩中に含まれるクリソベリル,Fに富むアパタイト,Nb含有ルチルは,原岩堆積時に砕屑物としてこの鉱床から供給された可能性が想定される.また,上記のMgまたはFに富む鉱物は,片麻岩の高F含有量でややMgに富む黒雲母および白雲母の形成に寄与したと考えられる.つまり,足尾山地産の片麻岩の原岩は,足尾帯の一部として堆積したが,古地理学的に比較的近接していたKhanka terraneのBe-Nb-Ta-F鉱床からクリソベリルなどの特異な鉱物の砕屑物を局所的に供給されたために,他の足尾帯・美濃―丹波帯および領家帯にない特徴をもったと想定される.そして,白亜紀~古第三紀初期にかけて珪線石および紅柱石安定領域のそれぞれ異なる深度で熱変成を受けたと考えられる.領家帯との地質学的な関連性を明らかにするためには,詳細な年代学的解析が必要である.