12:30 PM - 2:00 PM
[R8-P-10] The fate of organic carbon during subduction: Raman micro-spectroscopy and C-isotope geochemistry of carbonaceous materials in Sambagawa pelitic schists, central Shikoku, Japan
Keywords:carbonaceous materials, carbon isotope, Raman micro-spectroscopy, Sambagawa Belt, pelitic schist
変成堆積岩は炭酸塩鉱物及び炭質物として炭素を含み、沈み込むスラブにおいて最も多量の炭素を固体地球内部へ輸送する役割を担っている。炭酸塩鉱物については水流体への溶解や脱炭酸反応、溶融により岩石から失われる。過去20年間に高圧/超高圧変成岩試料の解析、相平衡モデリング、実験岩石学的研究などにより諸プロセスの理解が飛躍的に進んだ。一方、有機炭素由来の炭質物の役割については理解が遅れており、最近になって、"不動"とされてきた炭質物の挙動が単純ではないことが指摘されはじめた(例、Galvez et al., 2013; Vitale Brovarone et al., 2020)。我々は沈み込みに伴う有機炭素の挙動の解明を目指して、四国中央部三波川帯泥質片岩中の炭質物約200試料について、炭質物が記録する変成帯鉛直断面に沿った地質記録の解析を進めている。本講演では、Itaya (1981) においてXRD測定と化学組成の分析が行われた炭質物(泥質片岩から分離されたもの)について、変成温度変化に対する炭素同位体組成(δ13C)の変化傾向を紹介し、沈み込む有機炭素量の推定に向けた展望を論じたい。
得られた炭素同位体組成の変化幅はδ13C = –28.7 to –20.1‰で、有機物由来のものとして整合的な同位体組成であった。炭質物から推定される変成温度については、緑泥石帯は大部分がおよそ300–350°Cの範囲内であったが、ざくろ石帯との境界付近において急激に温度上昇し、Kouketsu et al. (2021) で報告された温度構造不連続が四国中央部三波川帯の広範囲で確認された(原田ほか, 2024 地質学会)。汗見川–猿田川ルート北部及び中の川ルートにおける大歩危ユニットや五良津岩体南部に位置する「中七番ユニット」[=大歩危ユニット](青矢・横山, 2009)は他地域の緑泥石帯と同程度の炭質物温度であり、炭素同位体組成についても差異は見られない。南部の思地-長沢地域において、秩父北帯相当の弱変成付加体構成岩石を原岩にもつ「思地ユニット」(青矢・横山, 2009; 脇田ほか, 2007)及び三波川南縁帯(小島ほか, 1956)に相当する「川又ユニット」では、白滝及び大歩危ユニットに比べて低い温度を示すものが見られた。一方、炭素同位体組成については思地・川又ユニット境界付近の試料がやや低いδ13C値(〜–28.5‰)を有する以外はδ13C = –26.2 to –22.8‰でユニットごとの違いは確認されなかった。炭質物の温度幅がおおよそ250°Cに達する汗見川ルート南北約15 km・51試料に着目すると、δ13C = –28.7 to –21.4‰で、鉱物帯ごとに比較してみると、緑泥石帯:δ13C = –28.7 to –23.4‰(平均:–26.7‰)、ざくろ石帯:δ13C = –27.6 to –22.5‰(平均:–24.5‰)、曹長石–黒雲母帯:δ13C = –23.0 to –21.9‰(平均:–22.4‰)、灰曹長石–黒雲母帯:δ13C = –25.8 to –21.4‰(平均:–23.0‰、1試料を除くと–22.3‰)と見かけの変成度上昇に伴ってδ13C値がわずかに上昇する。炭質物温度との関係をみると、緑泥石帯内でのδ13Cの幅は大きく、緑泥石帯の高温部以上では温度上昇に伴うδ13C値増大が明瞭に見られた。こうしたδ13C値増大については、三波川帯の泥質片岩に広く含まれる炭酸塩鉱物と炭質物との間での炭素同位体交換と炭質物からのメタン(CH4)としての炭素の放出による同位体分別で説明できる。さらに、メタンとしての炭素の放出はメタンを含む流体包有物の報告(例、Yoshida et al., 2015)と整合的である。もし、炭酸塩炭素量及び有機炭素量の取得により炭酸塩鉱物と炭質物の間での同位体交換によるδ13C変化の寄与を束縛することができれば、CH4としての炭素放出量の推定が期待される。
引用文献
青矢・横山, 2009. 日比原地域の地質. 産総研地質調査総合センター.
Galvez et al., 2013. Nature Geoscience, 6, 473–477.
Itaya, 1981. Lithos, 14, 215–224.
小島ほか, 1956. 地質学雑誌, 62, 317–326.
Kouketsu et al., 2021. Journal of Metamorphic Geology, 39, 727–749.
Vitale Brovarone et al., 2020. Chemical Geology, 549, 119682.
脇田ほか, 2007. 伊野地域の地質. 産総研地質調査総合センター.
Yoshida et al., 2015. Lithos, 226, 50–64.
得られた炭素同位体組成の変化幅はδ13C = –28.7 to –20.1‰で、有機物由来のものとして整合的な同位体組成であった。炭質物から推定される変成温度については、緑泥石帯は大部分がおよそ300–350°Cの範囲内であったが、ざくろ石帯との境界付近において急激に温度上昇し、Kouketsu et al. (2021) で報告された温度構造不連続が四国中央部三波川帯の広範囲で確認された(原田ほか, 2024 地質学会)。汗見川–猿田川ルート北部及び中の川ルートにおける大歩危ユニットや五良津岩体南部に位置する「中七番ユニット」[=大歩危ユニット](青矢・横山, 2009)は他地域の緑泥石帯と同程度の炭質物温度であり、炭素同位体組成についても差異は見られない。南部の思地-長沢地域において、秩父北帯相当の弱変成付加体構成岩石を原岩にもつ「思地ユニット」(青矢・横山, 2009; 脇田ほか, 2007)及び三波川南縁帯(小島ほか, 1956)に相当する「川又ユニット」では、白滝及び大歩危ユニットに比べて低い温度を示すものが見られた。一方、炭素同位体組成については思地・川又ユニット境界付近の試料がやや低いδ13C値(〜–28.5‰)を有する以外はδ13C = –26.2 to –22.8‰でユニットごとの違いは確認されなかった。炭質物の温度幅がおおよそ250°Cに達する汗見川ルート南北約15 km・51試料に着目すると、δ13C = –28.7 to –21.4‰で、鉱物帯ごとに比較してみると、緑泥石帯:δ13C = –28.7 to –23.4‰(平均:–26.7‰)、ざくろ石帯:δ13C = –27.6 to –22.5‰(平均:–24.5‰)、曹長石–黒雲母帯:δ13C = –23.0 to –21.9‰(平均:–22.4‰)、灰曹長石–黒雲母帯:δ13C = –25.8 to –21.4‰(平均:–23.0‰、1試料を除くと–22.3‰)と見かけの変成度上昇に伴ってδ13C値がわずかに上昇する。炭質物温度との関係をみると、緑泥石帯内でのδ13Cの幅は大きく、緑泥石帯の高温部以上では温度上昇に伴うδ13C値増大が明瞭に見られた。こうしたδ13C値増大については、三波川帯の泥質片岩に広く含まれる炭酸塩鉱物と炭質物との間での炭素同位体交換と炭質物からのメタン(CH4)としての炭素の放出による同位体分別で説明できる。さらに、メタンとしての炭素の放出はメタンを含む流体包有物の報告(例、Yoshida et al., 2015)と整合的である。もし、炭酸塩炭素量及び有機炭素量の取得により炭酸塩鉱物と炭質物の間での同位体交換によるδ13C変化の寄与を束縛することができれば、CH4としての炭素放出量の推定が期待される。
引用文献
青矢・横山, 2009. 日比原地域の地質. 産総研地質調査総合センター.
Galvez et al., 2013. Nature Geoscience, 6, 473–477.
Itaya, 1981. Lithos, 14, 215–224.
小島ほか, 1956. 地質学雑誌, 62, 317–326.
Kouketsu et al., 2021. Journal of Metamorphic Geology, 39, 727–749.
Vitale Brovarone et al., 2020. Chemical Geology, 549, 119682.
脇田ほか, 2007. 伊野地域の地質. 産総研地質調査総合センター.
Yoshida et al., 2015. Lithos, 226, 50–64.