2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

S1: Dynamics of igneous processes (Special Session)

Thu. Sep 12, 2024 10:00 AM - 12:00 PM ES Hall (Higashiyama Campus)

Chairperson:Shumpei Yoshimura(Hokkaido University), Yuuki Hagiwara(Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology), Morihisa Hamada(JAMSTEC)

10:00 AM - 10:20 AM

[S1-01] Tungsten (VI) speciation in subduction-zone aqueous fluids and its significance for W stable isotope fractionation during slab dehydration

「招待講演」

*Naoko TAKAHASHI1, Michihiko Nakamura2, Shigeru Yamashita3, Hiroyuki Kagi1 (1. UTokyo Sci., 2. Tohoku Univ. Sci., 3. Okayama Univ. IPM)

Keywords:Diamond anvil cell, In-situ Raman spectroscopy, Tungsten (VI) speciation, Subduction zone

“Non-traditional stable isotopes”と呼ばれる金属元素の安定同位体比は、地球表層や地殻・マントルのプロセスを解読し、物質循環を追跡する指標として現在盛んに研究されている。最近ではWの高精度同位体分析法の確立により、沈み込み帯に産する火成岩においてW安定同位体比の多様性が明らかになった。例えば、マリアナ、伊豆、キプロス島弧の溶岩では、マントル由来の中央海嶺玄武岩や海洋島玄武岩と比較して重いW安定同位体比が報告され ([1-3])、特にStubbs et al. (2022) [3]は重いW 安定同位体比がスラブ流体の指標と相関していることを見出した。しかしながら、沈み込み帯深部でのスラブ脱水過程におけるW同位体分別を引き起こす化学反応素過程は分かっていない。平衡同位体分別の大きさは、化学種間での結合強度の違いに依存し、重い同位体はより強い結合環境に優先的に分配されると考えられている。そのため、スラブ脱水過程における同位体分別機構を理解するためには、沈み込み帯水流体中のW(VI)の溶存化学種を理解する必要がある。これまでのタングステン鉱物に関する溶解度実験では、W(VI)は主に単純なモノマー種 (e.g., [WO4]2-、[HWO4]-)として溶解すると考えられてきたが([4])、沈み込み帯深部条件におけるその場観察実験は現在までに行われていない。本研究では、ダイヤモンドアンビルセルを用いて最高800 ℃、1.2 GPaまでの条件下で、溶存タングステン酸塩の変化をラマン分光法により観察した。実験の圧力決定には、合成ジルコンまたは合成13Cダイヤモンドのラマン圧力計を利用した。

一定濃度の水溶液を用いた実験では、温度圧力上昇に伴い特徴的なラマンスペクトルの変化を確認した。常温常圧下では、pH~8の0.1 m [mol/kg H2O] Na2WO4水溶液はタングステン酸イオン[WO4]2-のW=O対称伸縮振動に起因する930 cm-1付近のラマンピークを示すが、約400 ℃で950cm-1付近に新たなラマンピークが現れ、温度圧力上昇に伴い優勢になった。また、pH~2の0.1 m Na2WO4水溶液でも同様に約400 ℃以上で950cm-1付近のピークが優勢になることがわかった。さらに、WO3–H2O系における酸化タングステン飽和流体のラマン分光測定により、950 cm-1と975 cm-1付近のピークが500 ℃以上で検出された。高温高圧下で新たに検出された高波数側のピークを示す溶存種は、波数の温度圧力依存性と常温常圧下で観察される主要な溶存種に基づくと、八面体ユニットからなるポリクラスター(例えば、[W7O24]6-)が有力な候補として挙げられる。さらに室温・高圧実験の結果と併せて、温度上昇がポリクラスター形成の重要因子であることが判明した。これらの結果は、沈み込み帯深部条件では溶存タングステン酸塩のモノマー種から配位数変化を伴う複雑な構造変化が起きることを示唆している。つまり、沈み込みスラブの脱水過程におけるW同位体分別の程度は、温度条件に応じた溶存タングステンの配位状態変化に起因して変化する可能性がある。

References: [1] Kurzweil et al. (2019) Geochim. Cosmochim. Acta, 251, 176-191. [2] Mazza et al. (2020) Earth Planet. Sci. Lett., 530, 115942. [3] Stubbs et al. (2022) Geochim. Cosmochim. Acta, 334, 135-154. [4] Bali et al. (2012) Earth Planet. Sci. Lett., 351-352, 195-207.