2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

S1: Dynamics of igneous processes (Special Session)

Thu. Sep 12, 2024 10:00 AM - 12:00 PM ES Hall (Higashiyama Campus)

Chairperson:Shumpei Yoshimura(Hokkaido University), Yuuki Hagiwara(Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology), Morihisa Hamada(JAMSTEC)

10:40 AM - 10:55 AM

[S1-03] Elucidating Deep processes leading to maar eruptions using mantle xenoliths in the West Eifel volcanic field

「発表賞エントリー」

*Masanari Arao1, Michihiko Nakamura1, Mayumi Mujin1, Naoki Araya1, Sando Sawa1, Takayuki Nakatani2, Mari Sumita3, Hans-Ulrich Schmincke3 (1. Tohoku Univ.Sci., 2. AIST, 3. GEOMAR)

Keywords:West Eifel volcanic field, Mantle xenolith, Fluid inclusion, Microcrack, Hydraulic fracturing

マール火山の噴出物には,しばしばマントルや地殻下部由来の捕獲岩が含まれる.また,堆積物の岩相も単純な降下火砕物では無く火砕サージなどの構造が発達する場合が多い.このような火山では地下深部からごく短時間でマグマが上昇してくるため,低頻度ながらも高リスクの活動である.噴火時のマグマ上昇速度は,マントル捕獲岩の輸送条件やマグマに接した鉱物の元素拡散速度などに基づく研究例があるが,噴火に至るまでの深部プロセスについてはほとんど理解されていない.多くの火山活動に共通して観察される地殻深部での前兆的活動に深部低周波地震があり,一般に流体の移動と関連付けられる.本研究ではドイツ・西部アイフェル火山地域西端に位置するMeerfelder Maarで採集されたマントル捕獲岩に,地殻の破砕に関連して生成されたと考えられる流体包有物を見出した.そして,その分布特性や閉鎖圧力から,最上部マントルから噴火に至る一連のマグマ・流体活動を明らかにすることを試みた.
 アイフェル火山地域はマール火山の世界的模式地であり,地下構造やマグマ供給系に関する捕獲岩を用いた研究が多く行われている(Duda and Schmincke, 1985 ; Witt-Eickschen et al., 2003 ; Cliff 2004).最新の噴火は,西部アイフェル火山地域のUlmener Maarで,約11,000年前である.同地域に位置するMeerfelder MaarやPulver maarも比較的噴火時期が新しいため,この地域での将来的な噴火の可能性が指摘されている.
 Meerfelder Maarで採取されたマントル捕獲岩の多くは,肉眼および偏光顕微鏡観察から以下の特徴が見られる.1) 捕獲岩の断面形状が角ばっており,取り囲むアルカリ玄武岩質マグマ(メリライトを含むカンラン石ネフェリナイト)との境界面が平面で構成されることが多い 2)平面的な境界面付近には、外形に平行なマイクロクラックが卓越しており,その傾向は捕獲岩内部では弱まる 3) マイクロクラックに沿って流体包有物が存在する.流体包有物のラマン分光分析を行ったところ,水のピークは検出されず,Yamamoto et al., (2002)の方法に従いCO₂のフェルミ分裂のピーク幅を用いた残留圧力からマイクロクラックの閉鎖圧力を推定したところ,捕獲岩5試料中の71点の流体包有物のうち16点で1GPaを超える圧力を保持していることがわかった.これらの特徴は,捕獲岩がCO2流体による水圧破砕で破砕されたのち、マグマに取り込まれたことを示唆する.クラックの閉鎖時間について明確な推定はできていないが,数日はかかると見積もる事ができ,圧力が低い包有物についてはクラックの閉鎖が不十分で抜けた可能性がある.
 捕獲岩がマグマに取り込まれてから噴火に至るまでの時間を推定するため,マントル捕獲岩13試料の研磨試料についてホストマグマとの平面状の境界付近の反射電子像の観察と化学組成のEMPA面分析を行った.計算に用いたカンラン石のFe-Mg相互拡散係数は,結晶異方性があるため,EBSD法を用いた結晶方位解析を行い,測定プロファイル方向に対して補正を行った.元素拡散の速いカンラン石のFe・Mgに関し,10試料で,明確な拡散が確認されなかった.これらの分析の空間分解能から,拡散があったとしてもその幅は2 µm以下と考えられ,温度を1200℃と仮定すると拡散時間は3時間程度と見積もられる.
 マントル捕獲岩がマグマによって捕獲される以前に受けた熱的な影響(プレヒート)を評価するため,マントル捕獲岩内部についても面分析を行った.13試料中,拡散速度の速いカンラン石中のFe-Mg組成には,すべての試料で累帯構造は確認できなかった.一方,拡散速度の遅い斜方輝石中のCa組成では8試料で累帯構造が確認でき,その拡散時間は7試料で数百年~数万年と幅広く,1試料のみ約20年と見積もられた.両輝石コアを用いた平衡温度は950~1100℃であり,これらの温度は大陸地域の地温勾配曲線よりも数百度程度高いため,アイフェル地域のモホ面直下のマントルは継続的なマグマ貫入で加熱されていることを示している.
 以上の結果から,マール火山の噴火に関与したマグマ活動について以下のような描像が得られた. CO2に富むアルカリ玄武岩質マグマが長期間にわたってMOHO面付近に貫入を繰り返し,周囲のかんらん岩を加熱し,同時にマグマから放出された流体が周囲のカンラン岩を過剰圧で水圧破砕を行い,この際に深部低周波地震が発生する.マグマが地表まで到達する最終噴火が起きる際には,流体が破壊した亀裂内を利用してマグマが高速に移動しながら周囲のかんらん岩を捕獲岩として取り込み,数時間以内の短時間で上昇し,噴火する.