一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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S1: 火成作用のダイナミクス (スペシャルセッション)

2024年9月12日(木) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[S1-P-01] HIMU海洋島玄武岩の酸化還元状態: 急冷ガラスとメルト包有物のμ-XANES分析による知見

*萩原 雄貴1、石橋 秀巳2、羽生 毅1 (1. 海洋研究開発機構、2. 静岡大学)

キーワード:海洋島玄武岩、酸化還元状態、メルト包有物、μ-XENES

地球特有のハビタビリティはリソスフェアのリサイクルによりマントルの酸素フガシティー(fO2)が変化したことに関連する可能性が指摘されている (Cockell et al. 2016).リサイクル物質がマントルの酸化や還元を引き起こすかどうかを検証するには,海洋島玄武岩(OIB)のfO2を調査することが有用である.特に,HIMUマントルソースは他のOIBと比較して多様なfO2を示すことが知られており(Willhite et al. 2024),マントルソースのfO2の変化を引き起こす要因を探る上で重要なマントル端成分である.マグマのfO2を推定するために様々な方法が提案されている.例えば,V濃度を基に世界中の様々なOIBの酸化還元度を推定したWillhite et al. (2024)によると,HIMU typeのOIBは他のタイプのOIB (e.g., EM1, EM2, DM)と比較して酸化的であることが示された.しかし, V濃度に基づく方法は,XANESによるFe3+/ΣFeの直接測定と比較して酸化状態の変化を検出する感度が低く (Wang et al. 2019),実際,XANESとV濃度による指標を比較した研究では,両者は一致しないことが報告されている(e.g., O’Neil et al. 2024).また,マグマのfO2は脱ガスにより変化することも知られており,マントルソースの真のfO2を推定するためには,試料の選択も重要である.そこで本研究では,脱ガスの影響が最小限である均質なメルト包有物を対象にμ-XANESを用いてFe3+/ΣFeの直接測定を行い,HIMU-type OIBのソースマントルの酸化還元状態を推定した. 分析試料はしんかい6500により深海から採取されたフレンチポリネシアのRurutuとTubuaiのOIBを用いた.Rurutuの試料は若い噴出年代(1−2 Ma)と古い年代(13−17 Ma)を示す2つに分けられる (Hanyu et al. 2013).従って,試料は年代と産地によりyoung-Rurutu, old-Rurutu, Tubuaiの3つに分けられる.噴出年代が古いold-RurutuとTubuaiの試料はHIMU的で,噴出年代が若いyoung-RurutuはEM1的な同位体組成を示す (Hanyu et al. 2013).これらの試料のうち,XENESによる分析が可能な急冷ガラスを含む試料は合計18個得られた.本研究では,これらの試料の急冷ガラスとかんらん石中の均質なメルト包有物を分析した.Fe-K端μ-XANESによる分析は高エネルギー加速器研究機構Photon FactoryのBL4Aで行った.分析の結果,噴出年代が古くHIMU的な組成を持つOIBの殆どはFe3+/ΣFe ~ 0.15から0.18程度であった.しかし,その中の2つの試料はFe3+/ΣFeは0.20と0.26と酸化的であった.XRFにより測定した全岩S濃度とFe3+/ΣFeには 負の相関が存在したため,酸化的な試料はSO2の脱ガスによる酸化を被っている可能性がある.脱ガスの影響が最小限だと考えられるメルト包有物のFe3+/ΣFeは0.13−0.17であり,溶岩の急冷ガラスよりも僅かに還元的であった.一方,噴出年代が若くEM的な組成を持つOIBはFe3+/ΣFe ~ 0.23−0.36と酸化的であった.EM的な試料は斑晶に乏しいため分析可能なメルト包有物はまだ見つかっていない.HIMU的な組成を持つOIBのfO2は,ΔFMQ ~ −0.2程度であった.この値は,MORBの平均値 (ΔFMQ ~ 0.0 (Fe XANES))と同程度である.EM的な組成を持つOIBのfO2はΔFMQ ~ +2.3であり,報告されている他のOIB試料のそれと比較しても高い.以上の結果から,fO2が高いEM1タイプOIB (young-Rurutu)の起源は,酸化的なリサイクル物質がプルームソースに存在するためという従来の解釈(e.g., Taracsák et al. 2022)が適用できるが,fO2が低いHIMUタイプOIB (old-RurutuとTubuai)の起源はそれでは説明できない.一方,Cottrell and Kelley (2013)はE-MORBが他のMORBよりも還元的である理由として,古代の無酸素海洋堆積物の添加による局所的な還元を考えた.従って,RurutuやTubuaiのプルームソースには,そのような還元的な物質が存在する可能性がある.今後は,高いfO2を示す斑晶に乏しい試料から分析可能なメルト包有物を探して,溶岩だけでなくメルト包有物も酸化的な特徴を示すのかどうかを検証する.また,揮発性元素,微量元素,同位体比を組み合わせ,RurutuやTubuaiの還元的なマグマをもたらしたプルームソースの起源物質を制約する.