12:30 〜 14:00
[S1-P-02] 火成岩の菫青石を用いた結晶マッシュ内の流体組成と圧力の推定の試み
キーワード:菫青石、結晶マッシュ
■はじめに
低温で半固結状態となっていたマグマ(結晶マッシュ)が再び流動性を取り戻し,噴火可能な状態になるには,結晶マッシュのバルク粘性を下げる過程が必要である.そのモデルの1つとして,高温のH2O–CO2流体が結晶マッシュに注入し,熱で鉱物を溶かす過程が提案されている(e.g., Bachamann & Berganz, 2006).この可能性を検討するには,結晶マッシュ内に存在する流体の組成やその時間変化の情報が必要であるが,ほとんどのケイ酸塩鉱物は揮発性成分を取り込まないため,噴出物からこの情報を得ることは難しかった.
稀ではあるが,火山噴出物の中に菫青石を含む多結晶体礫が含まれることがある.今から10万年前に起きた安達火山の噴火はそのような例の1つである.この噴火では,軽石・火山灰と同源と考えられる菫青石を含むトーナル岩質の多結晶体礫が噴出しており(蟹沢, 1985; 蟹沢・柴田, 1987),結晶マッシュの一部が噴出したものと考えられている(蟹沢, 1992).菫青石はc軸に平行なチューブ構造の中にH2OやCO2などの分子を捕獲する性質がある.そのため,変成岩岩石学の分野では,菫青石を変成流体の組成センサーとして用いる研究が盛んに行われてきた.同様の手法を菫青石を含む火成岩の多結晶体礫に応用すれば,結晶マッシュ内に存在していた流体の組成や圧力の情報を得ることができる可能性がある.そこで本研究では,安達火山の噴出物を対象として菫青石の揮発性成分の分析を行い,流体組成と圧力を推定できるかどうかを予察的に検討した.
■方法
礫の観察を行ったのち,自形の菫青石結晶を取り出し,結晶の外形と多色性をもとに結晶軸の方向を決め,c-a方向,c-b方向に平行な両面研磨薄片を作製した.そして,顕微FT-IRを用いて直線偏光のビームを試料に入射し,赤外透過分析を行った.また,菫青石の化学組成をEPMAで分析した.
■結果
礫の主要構成鉱物は石英と斜長石であり,少量のカミングトン閃石,微量の菫青石,不透明鉱物が含まれていた.石英には流体包有物とメルト包有物の両方が見つかった.菫青石のXMgは0.82であった.赤外スペクトル解析により,すべての菫青石試料に type-I-H2O(H-Hの方向がc軸に平行なH2O分子),type-II H2O(垂直なH2O分子),CO2が検出された.含水量をランベルト・ベール則より計算した結果,Goldman & Rossman (1997) のモル吸光係数を用いるとtype-I H2O = 1.27 wt%, type-II H2O = 0.36 wt%であった(total H2O = 1.63 wt%).一方,Della Ventura et al. (2012)の吸光係数を用いると,それぞれ0.64 wt%, 0.23 wt%と算出された(total H2O = 0.87 wt%).CO2濃度は,Della Ventura et al. (2012)のモル吸光係数を用いて0.03 wt%と計算された.
■流体組成と圧力の推定
石英に流体包有物が含まれることから,結晶マッシュは流体に飽和していたと考えられる.また,菫青石のCO2/H2O比は非常に低いため,平衡共存していた流体は,Harley et al. (2002)のモデルに基づき,ほぼ純粋なH2Oであったと考えられる.そこで,水-メルト-菫青石系の平衡モデル(Harley & Carrington, 2001),流体の状態方程式(Duan & Zhang, 2006),安達火山のマグマ温度である850 °C(蟹沢, 1992)を用いて平衡圧力を計算した結果,total H2O=1.63 wt%を採用すると4.4 kbar,0.87 wt%を採用すると1.5 kbarとなった.現状ではモル吸光係数の不確定性が大きいため,推定圧力に大きな違いが生じてしまう.ただし,後者の圧力(1.5 kbar)は,蟹沢 (1992)のマグマ溜まりモデルの圧力範囲(<2 kbar)と一致している.
低温で半固結状態となっていたマグマ(結晶マッシュ)が再び流動性を取り戻し,噴火可能な状態になるには,結晶マッシュのバルク粘性を下げる過程が必要である.そのモデルの1つとして,高温のH2O–CO2流体が結晶マッシュに注入し,熱で鉱物を溶かす過程が提案されている(e.g., Bachamann & Berganz, 2006).この可能性を検討するには,結晶マッシュ内に存在する流体の組成やその時間変化の情報が必要であるが,ほとんどのケイ酸塩鉱物は揮発性成分を取り込まないため,噴出物からこの情報を得ることは難しかった.
稀ではあるが,火山噴出物の中に菫青石を含む多結晶体礫が含まれることがある.今から10万年前に起きた安達火山の噴火はそのような例の1つである.この噴火では,軽石・火山灰と同源と考えられる菫青石を含むトーナル岩質の多結晶体礫が噴出しており(蟹沢, 1985; 蟹沢・柴田, 1987),結晶マッシュの一部が噴出したものと考えられている(蟹沢, 1992).菫青石はc軸に平行なチューブ構造の中にH2OやCO2などの分子を捕獲する性質がある.そのため,変成岩岩石学の分野では,菫青石を変成流体の組成センサーとして用いる研究が盛んに行われてきた.同様の手法を菫青石を含む火成岩の多結晶体礫に応用すれば,結晶マッシュ内に存在していた流体の組成や圧力の情報を得ることができる可能性がある.そこで本研究では,安達火山の噴出物を対象として菫青石の揮発性成分の分析を行い,流体組成と圧力を推定できるかどうかを予察的に検討した.
■方法
礫の観察を行ったのち,自形の菫青石結晶を取り出し,結晶の外形と多色性をもとに結晶軸の方向を決め,c-a方向,c-b方向に平行な両面研磨薄片を作製した.そして,顕微FT-IRを用いて直線偏光のビームを試料に入射し,赤外透過分析を行った.また,菫青石の化学組成をEPMAで分析した.
■結果
礫の主要構成鉱物は石英と斜長石であり,少量のカミングトン閃石,微量の菫青石,不透明鉱物が含まれていた.石英には流体包有物とメルト包有物の両方が見つかった.菫青石のXMgは0.82であった.赤外スペクトル解析により,すべての菫青石試料に type-I-H2O(H-Hの方向がc軸に平行なH2O分子),type-II H2O(垂直なH2O分子),CO2が検出された.含水量をランベルト・ベール則より計算した結果,Goldman & Rossman (1997) のモル吸光係数を用いるとtype-I H2O = 1.27 wt%, type-II H2O = 0.36 wt%であった(total H2O = 1.63 wt%).一方,Della Ventura et al. (2012)の吸光係数を用いると,それぞれ0.64 wt%, 0.23 wt%と算出された(total H2O = 0.87 wt%).CO2濃度は,Della Ventura et al. (2012)のモル吸光係数を用いて0.03 wt%と計算された.
■流体組成と圧力の推定
石英に流体包有物が含まれることから,結晶マッシュは流体に飽和していたと考えられる.また,菫青石のCO2/H2O比は非常に低いため,平衡共存していた流体は,Harley et al. (2002)のモデルに基づき,ほぼ純粋なH2Oであったと考えられる.そこで,水-メルト-菫青石系の平衡モデル(Harley & Carrington, 2001),流体の状態方程式(Duan & Zhang, 2006),安達火山のマグマ温度である850 °C(蟹沢, 1992)を用いて平衡圧力を計算した結果,total H2O=1.63 wt%を採用すると4.4 kbar,0.87 wt%を採用すると1.5 kbarとなった.現状ではモル吸光係数の不確定性が大きいため,推定圧力に大きな違いが生じてしまう.ただし,後者の圧力(1.5 kbar)は,蟹沢 (1992)のマグマ溜まりモデルの圧力範囲(<2 kbar)と一致している.