一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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S1: 火成作用のダイナミクス (スペシャルセッション)

2024年9月12日(木) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[S1-P-03] 海底コア試料中のメルト包有物の分析に基づく伊豆大島火山のマグマの組成進化

*浜田 盛久1、田中 えりか2、羽生 毅1、清水 健二3、牛久保 孝行2、常 青1、田村 芳彦1 (1. JAMSTEC海域地震火山部門、2. 高知大学海洋コア国際研究所、3. JAMSTEC高知コア研究所)

キーワード:伊豆大島火山、メルト包有物

研究の背景
伊豆大島火山から噴出するマグマは、背弧側に位置する伊豆東部火山のマグマと相互作用をしており、マグマの混入を受けている(Ishizuka et al. 2015, Earth and Planetary Science Letters)。Ishizuka et al. (2015)は、伊豆大島陸域から採取された岩石試料の全岩化学組成に基づき、伊豆大島火山と伊豆東部火山のマグマの相互作用の程度が時間の経過に伴って変化してきたことを議論した。この先行研究をさらに進めるため、本研究では、研究航海によって伊豆大島火山東方沖の海底堆積物中から採取されたプッシュコア試料中のメルト包有物を分析した。メルト包有物を分析すれば、端成分マグマを直接的に制約したり、それぞれの端成分マグマの揮発性成分の特徴を明らかにできるなど、岩石試料の全岩化学組成に基づく議論をさらに前に進められる可能性があるためである。

試料と分析手法
2021年9~10月に海洋研究開発機構の研究船「かいれい」を用いて実施された伊豆・小笠原海域への研究航海KR21-16において、伊豆大島から約10km東方沖から25cmの長さの海底堆積物のプッシュコア試料を採取した。プッシュコア試料中に含まれている有孔虫の殻の14C年代測定に基づき、このコア試料は4,500年前から3,200年前にかけての1300年間に堆積したテフラであることが判明した。この時期は、伊豆大島古期(山頂にカルデラが形成された1,700年前から16,000-17,000年前まで)の一部である。25㎝の長さのプッシュコア試料を10等分した厚さ2.5㎝毎の部分から、実体顕微鏡下で観察しながら鉱物(かんらん石、斜長石、直方輝石)を取り出し、研磨してメルト包有物の表面を削りだした。メルト包有物は全て急冷されてガラス化していた。本研究ではまず,メルト包有物の揮発性元素(H2O, CO2, S, F and Cl)とP2O5を二次イオン質量分析計(SIMS)を用いて,次に主成分元素を電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)を用いて分析した。さらに、比較的大きい(≥30μm)メルト包有物の微量元素をレーザーアブレーションICP質量分析計を用いて局所分析した。

分析結果と議論
結果的に100個のメルト包有物を分析した。メルト包有物は、SiO2量が51~56 wt%(揮発性成分を除いて合計100 wt%に規格化)の玄武岩~玄武岩質安山岩の組成を示す。メルト包有物の化学組成の特徴に基づき、メルト包有物は3つのグループ(Group A, B, C 図参照)に分類される。Group Aは、Ishizuka et al. (2015)が報告している伊豆大島火山の火山岩の全岩化学組成の特徴と一致することから、伊豆大島火山のメルト組成そのものである。H2O量とCO2量の関係から、100MPaよりもやや低圧のマグマ溜まりで結晶分化作用が進行したことを示している。Group Aはプッシュコア試料中では上部で多く見られる。Group Cは、伊豆大島火山のマグマと伊豆東部火山のマグマの中間的な特徴を示すことから、伊豆大島火山と伊豆東部火山の混合マグマである。H2O量とCO2量の関係から、100MPaよりもやや高圧のマグマ溜まりで結晶分化作用が進行したことを示している。Group Cはプッシュコア試料中では下部で多く見られる。Group Bは、Group AとGroup Cの中間的な組成のメルトであり、プッシュコア試料の中間(約4,000年前)で多く見られる。Group AのメルトとGroup Cのメルトが圧力約100MPa付近で混合し、混合マグマからの結晶分化作用が進行したと考えられる。メルト包有物の分析を行うことにより、伊豆大島火山周辺ではGroup AとGroup Cという2種類の端成分マグマが存在しており、Group Cを主体とした4,500年前からGroup Aが主体となる3,200年前へと、火山活動の主体となる端成分マグマが時間の経過に伴って変化したことが明らかとなった。また、Group CからGroup Aへと火山活動の主体となるマグマの端成分が変化する過程で、Group AとGroup Cが圧力約100MPaという条件下で混合し、両者の中間的な化学的特徴を持つGroup Bが噴出したことも明らかとなった。
S1-P-03