11:00 〜 11:15
[S2-07] 葛根田花崗岩の坑井試料を用いた熱源花崗岩および超臨界地熱貯留層内の長石の溶解再沈殿―再平衡プロセス
「発表賞エントリー」
キーワード:長石、長石温度計、超臨界地熱貯留層、溶解再沈殿、再平衡
超臨界状態の水(i.e., >374℃)を貯留する超臨界地熱貯留層は、従来の地熱貯留層より高温で5–10倍ほど高い発電ポテンシャルを持つ次世代の地熱資源として調査が進められている。地熱開発において、貯留層温度の推定は発電ポテンシャルの評価のために重要であるが、掘削機器の耐熱性能の問題により循環水を供給して坑井温度を下げながら掘削するため、掘削時にリアルタイムで真の坑井温度を推定することは困難である。そこで、超臨界状態の坑井温度を推定するために、坑井試料であるカッティングスの長石温度計への適用可能性を検証した。従来の長石温度計の校正温度は700–900℃であるため、380–580℃の低温領域の超臨界状態での適用可能性は解明されていない。先行研究によると、水の超臨界状態下(i.e., 600℃, 200MPa)での水熱実験では、長石は5日程度で変質するため (Duan et al., 2021)、超臨界地熱流体にさらされた長石は普遍的に変質している可能性がある。本研究では、500℃を超える高温岩体から直接採取された花崗岩のカッティングス中の斜長石とカリ長石の産状を分析し、高温地殻中における原位置での長石の再平衡過程と長石温度計の適用可能性を検証した。
岩手県仙岩地域の葛根田地熱地帯を研究フィールドとした。WD-1aの地層は、深度2,860–3,729mは第四紀の葛根田花崗岩であり(Uchida et al., 1998)、深度3,500mで500℃を超える温度の花崗岩を掘削している (Ikeuchi et al., 1998)。
坑井温度が約380–580℃の範囲と推定される深度2,895–3,725mから24サンプルを選び、長石類の組成をEPMAで同定した。長石類が再結晶した温度を推定するため、斜長石とカリ長石のペアの組成を計40個の長石温度計に適用した。加えて、2,895–3,685mから13サンプル選び、水銀ポロシメーターを用いてカッティングスの細孔容積を測定した。
後方散乱電子像の観察の結果、斜長石とカリ長石の粒径は、それぞれ約100–400µm、50–400µmだった。古期花崗岩の長石類は、カリ長石は粒子全体が均質的に再結晶しており、10µm未満の空隙が多数見られた。また、斜長石はその中心が比較的Caに富む組成累帯構造を示し(XAn=0.46–0.85)、リムはNaに富み(XAn=0.02–0.39)、コアとリムの間にはシャープな境界が見られた。対照的に、新期花崗岩ではカリ長石内部の空隙は見られず、斜長石の組成累帯構造はわずかであった(XAn=0.05–0.50)。
水銀ポロシメーターの結果、古期花崗岩、新期花崗岩において、0.001–10µmの細孔が計測され、その容積の平均値と標準偏差はそれぞれ5.92±1.18、5.57±1.27vol%であった。
Naに富む斜長石のリムと、その隣接するカリ長石のリムの組成をそれぞれ 463点測定した。斜長石中のAlbite成分 (XAb = Na/(Na+K+Ca))は、深度2,895mから3,725mにかけて0.72–0.92mol%から0.61–0.70mol%に系統的に減少した。また、カリ長石中のOrthoclase成分 (XOr = K/(Na+K+Ca))は、深度2,895mから3,725mにかけて0.88–0.93mol%から0.81–0.86mol%に系統的に減少した。
Powell & Powell (1977)の長石温度計は、深度2,985mで362–439℃、深度3,725mで513–614℃の温度範囲を示し、380–580℃の超臨界条件下でホーナープロット法によって推定された坑井温度に近い結果を得た。
古期花崗岩のカリ長石には、µmスケールの空隙が多数見られた。加えて、カリ長石に接する斜長石のコアからリムにかけての組成変化は、グラジュアルではなくシャープな境界が見られた。これらの組織は、斜長石のリムが溶解再沈殿し、その接するカリ長石と超臨界流体が反応してカリ長石内部に空隙を形成したことを示唆している。熱水変質による長石の空隙の形成は、600℃での長石置換実験で生じた空隙の生成と整合的である (Nurdiana et al., 2023)。一方で、新期花崗岩ではカリ長石内部の空隙がないことや、斜長石の組成累帯構造はわずかしか見られないことから、固体拡散により再平衡に達した可能性がある。
カッティングス中の長石類に関して、反応組織や深度方向の系統的な組成変化、長石温度計への適用結果と坑井温度の類似性は、現在の坑井温度380–580℃での長石類の溶解再沈殿による再結晶または固体拡散による再平衡を強く示唆する。したがって、カッティングスの長石温度計への適用により、超臨界地熱貯留層における長石の再結晶化温度を評価できることが明らかになった。
岩手県仙岩地域の葛根田地熱地帯を研究フィールドとした。WD-1aの地層は、深度2,860–3,729mは第四紀の葛根田花崗岩であり(Uchida et al., 1998)、深度3,500mで500℃を超える温度の花崗岩を掘削している (Ikeuchi et al., 1998)。
坑井温度が約380–580℃の範囲と推定される深度2,895–3,725mから24サンプルを選び、長石類の組成をEPMAで同定した。長石類が再結晶した温度を推定するため、斜長石とカリ長石のペアの組成を計40個の長石温度計に適用した。加えて、2,895–3,685mから13サンプル選び、水銀ポロシメーターを用いてカッティングスの細孔容積を測定した。
後方散乱電子像の観察の結果、斜長石とカリ長石の粒径は、それぞれ約100–400µm、50–400µmだった。古期花崗岩の長石類は、カリ長石は粒子全体が均質的に再結晶しており、10µm未満の空隙が多数見られた。また、斜長石はその中心が比較的Caに富む組成累帯構造を示し(XAn=0.46–0.85)、リムはNaに富み(XAn=0.02–0.39)、コアとリムの間にはシャープな境界が見られた。対照的に、新期花崗岩ではカリ長石内部の空隙は見られず、斜長石の組成累帯構造はわずかであった(XAn=0.05–0.50)。
水銀ポロシメーターの結果、古期花崗岩、新期花崗岩において、0.001–10µmの細孔が計測され、その容積の平均値と標準偏差はそれぞれ5.92±1.18、5.57±1.27vol%であった。
Naに富む斜長石のリムと、その隣接するカリ長石のリムの組成をそれぞれ 463点測定した。斜長石中のAlbite成分 (XAb = Na/(Na+K+Ca))は、深度2,895mから3,725mにかけて0.72–0.92mol%から0.61–0.70mol%に系統的に減少した。また、カリ長石中のOrthoclase成分 (XOr = K/(Na+K+Ca))は、深度2,895mから3,725mにかけて0.88–0.93mol%から0.81–0.86mol%に系統的に減少した。
Powell & Powell (1977)の長石温度計は、深度2,985mで362–439℃、深度3,725mで513–614℃の温度範囲を示し、380–580℃の超臨界条件下でホーナープロット法によって推定された坑井温度に近い結果を得た。
古期花崗岩のカリ長石には、µmスケールの空隙が多数見られた。加えて、カリ長石に接する斜長石のコアからリムにかけての組成変化は、グラジュアルではなくシャープな境界が見られた。これらの組織は、斜長石のリムが溶解再沈殿し、その接するカリ長石と超臨界流体が反応してカリ長石内部に空隙を形成したことを示唆している。熱水変質による長石の空隙の形成は、600℃での長石置換実験で生じた空隙の生成と整合的である (Nurdiana et al., 2023)。一方で、新期花崗岩ではカリ長石内部の空隙がないことや、斜長石の組成累帯構造はわずかしか見られないことから、固体拡散により再平衡に達した可能性がある。
カッティングス中の長石類に関して、反応組織や深度方向の系統的な組成変化、長石温度計への適用結果と坑井温度の類似性は、現在の坑井温度380–580℃での長石類の溶解再沈殿による再結晶または固体拡散による再平衡を強く示唆する。したがって、カッティングスの長石温度計への適用により、超臨界地熱貯留層における長石の再結晶化温度を評価できることが明らかになった。