2024 Annual Meeting of Japan Association of Mineralogical Sciences (JAMS)

Presentation information

Oral presentation

S2: Water Rock Interaction (Special Session)

Fri. Sep 13, 2024 9:00 AM - 12:00 PM ES024 (Higashiyama Campus)

Chairperson:Noriyoshi Tsuchiya

11:30 AM - 11:45 AM

[S2-09] Experimental study to elucidate sulfide chimney development process and power generation characteristics in submarine hydrothermal systems

「発表賞エントリー」

*Kentaro Toda1, Atsushi Okamoto1, Dandar Otgonbayar1, Misaki Takahashi1, Yoshinori Sato1 (1. Tohoku Univ. Environmental Sci)

Keywords:Hydrothermal Chimney

海底熱水噴出孔は海嶺近傍の海洋底に分布し、マグマや海洋地殻に由来する硫黄や亜鉛などの元素を含む熱水と海水との混合により硫化鉱物から成るチムニー状の構造物を形成する。熱水はHS-を豊富に含み還元的であるのに対して海水は酸化的であり、両者の酸化還元電位差が駆動力となり深海底への電子供給とそれに伴う熱水/海水の酸化/還元反応が起きることが報告された(Yamamoto et.al, 2018)。またチムニー周辺では生物活性が認められ、熱水から海中へ供給される電子が太陽光の届かない深海底エコシステムへのエネルギー供給を担う可能性が示唆され、ひいては熱水噴出孔における発電現象が太古の海洋底での始祖生命の誕生に関与したとの仮説が提唱された(Yamamoto et.al, 2018)。チムニーを構成する硫化鉱物は半導体特性を有することが知られているが、熱水-海水間の温度勾配と半導体の熱電特性のマッチングによって酸化還元電位差に匹敵する電気的ポテンシャルが生じうることが報告された。特に噴出孔周辺の閃亜鉛鉱を置換して形成されたとみられる黄銅鉱や方鉛鉱からなる高密度組織では海中への電子供給に有為な熱起電力が生じうることが見出され、このことからチムニーの発達に伴う高密度化に伴い熱電効果による発電現象が生じる可能性が示唆された。本研究では、硫化鉱物置換反応を実験室系で再現しそれに伴うチムニーの熱電性能変化を検証することを目的として水熱実験を実施した。チムニーの構成鉱物である閃亜鉛鉱と黄鉄鉱、方鉛鉱に加えて閃亜鉛鉱と黄鉄鉱からなるチムニーサンプルを出発物として模擬熱水と反応させる水熱実験を行い、硫化鉱物の置換組織の観察とともに生成物の比抵抗および熱起電力の測定を行った。その上で、チムニーの硫化鉱物の置換反応が海底の発電現象に与える影響について検討した。 実験条件は200,250,300℃で飽和蒸気圧であり、適宜NaCl(1M)を添加した。反応時間を12日間(288時間)とした実験では、閃亜鉛鉱や方鉛鉱にFe2+, Cu2+イオンを含む水溶液との反応では出発鉱物表面にCu2SとCuSの間で同の価数が変化するCu-S系の硫化物の被膜が形成された。また特に方鉛鉱を出発物とした場合には生成物中に空隙が含まれる組織が形成された。閃亜鉛鉱、方鉛鉱を出発物に用いた場合は比抵抗値がそれぞれ10桁、4桁と大きく低下した。一方、黄鉄鉱を出発物に用いてCu2+イオンを含む水溶液との反応では、黄鉄鉱結晶に亀裂が生じ、生成鉱物が、表面にはCu2S、亀裂内部には黄銅鉱と系統的に変化した。この反応により、計測した比抵抗値は4桁低下している。出発物表面からの置換する場合と、亀裂が生じて内部に2次鉱物ができるのは、硫黄を固定した反応を考えた場合、前者が固体体積の現象、後者が増加するときに対応しており、体積増加に伴う反応誘起応力による破壊と考えられる。黄鉄鉱内部への生成物の変化は、FeとCuの化学ポテンシャル勾配を反映していると考えられる。水熱実験の生成物について独自に開発した装置を用いてゼーベック係数S[mV/K]を測定し、ゼーベック係数の二乗と導電性の積で表され熱電材料の発電性能を示すパワーファクターPFを算出した。測定よりチムニーの主要構成鉱物である閃亜鉛鉱が生成物であるCu-S系硫化物によって置換されることで最大10^6オーダーで向上するという結果が得られた。 水熱実験の結果を総合すると、チムニー累帯構造発達過程における熱起電力発生プロセスについて以下の示唆が与えられる。まずチムニーの発達初期段階では閃亜鉛鉱などからなる導電性が低く空隙率の高い組織から構成されるため電子の移動は大きく制限され、かつ微粒子状の硫化鉱物にかかる温度勾配が小さいため生じる熱起電力も小さい。一方で発達後期段階では導電性の高い銅硫化物や銅・鉄硫化物の緻密な層が低導電性の硫化鉱物上に形成され電子はより移動しやすくなり、高密度化のために電子の移動に十分な熱起電力が発現する。その結果チムニー壁で電流が生じ、海洋底へのエネルギー供給が生じうる。Yamamoto, M., Nakamura, R., & Takai, K. 2018, ChemElectroChem, Deep‐sea hydrothermal fields as natural power plants. 5(16), 2162-2166.