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[S2-P-01] 下部地殻へのマグマ貫入で発生するせん断開口破壊の規模と地震のマグニチュード:高度変成岩中の岩脈群と深部低周波地震の規模比較
「発表賞エントリー」
キーワード:火山性地震、マグマ貫入、南極
近年の地震観測で,火山性深部低周波地震がマグマ性流体の移動により誘発される可能性が示唆されている(Yukutake et al.,2019).その実態検討には,マグマ貫入による地殻破壊の物質科学的な理解が重要であり,これが下部地殻中の高度変成岩に記録されている可能性がある.これまでの研究で,高度変成岩から,下部地殻におけるマグマ貫入の深度,温度,応力状態,破砕様式,マグマから放出された流体の母岩への浸透時間を推定し,これらが火山性深部低周波地震の地震観測(e.g., Kurihara & Obara,2021)と調和的な値を示すことを確認した(Nara et al., 2023 JpGU).そこで,本研究ではこれらの岩脈群の貫入に伴う地震のエネルギー量をモーメントマグニチュードとして推定し,火山性深部低周波地震の観測結果と比較した.
調査地域は東南極セール・ロンダーネ山地中央部ブラットニーパネ人差し指尾根で,約6億年前の東西ゴンドワナ大陸の衝突に関連した高度変成岩が分布する地域である(Osanai et al., 2013).花崗岩質岩脈(長さ~100m)とそこから派生した角閃石脈によって,母岩の面構造が高角に切られ,岩脈には開口せん断き裂が観察された.母岩は赤褐色の中間質から苦鉄質のグラニュライトで主要構成鉱物は斜長石,角閃石,直方輝石,単斜輝石,石英である.また,花崗岩質岩脈の両側に暗灰色の反応帯を伴い,反応帯内部では,母岩中の直方輝石と単斜輝石は角閃石や黒雲母に置換される.
本研究では,幅5.5 cmの花崗岩質岩脈と,その周囲の反応帯および母岩を解析した.地質温度圧力計を岩脈-反応帯境界に適用した結果と,熱力学ソフトウェアPerple_X (Connolly, 2005, updated 2024)の解析結果を比較し,反応帯形成時の温度圧力条件は700–750℃,0.7–0.8 GPaと推定した.また,反応帯中に産する燐灰石の塩素濃度が花崗岩質岩脈からの距離に応じて移流-拡散的なプロファイルを示すことから,これに反応輸送方程式を適用し,流体浸透時間を22-180 hと推定した.また,岩脈中にはジルコンが産し,全岩Zr濃度が150-170 ppmであることから,Zr飽和状態温度(Watson & Harrison, 1983)として約820℃を見積もった.これは岩脈貫入時の最低温度に相当すると考えられる.
また,ドローン写真から200 mスケールの3次元露頭モデルを生成し,101本の岩脈のサイズを測定し,モデルと詳細な露頭写真からせん断変位を測定した.岩脈の幅は1 cmから10 mであり,長さは0.1から250 mであった.岩脈幅と長さには比例関係が見られ,対数サイズの最頻値は幅3-6 cm,長さ6-13 m程度である.せん断量は1 cmから1.3 mであり,岩脈幅との線形な比例関係はみられなかったが,せん断変位/岩脈幅比は0.01から10の範囲であった. さらに,マグマが放出した流体の量と注水量―マグニチュード経験式(McGarr, 2014)を用いて,岩石-水反応による水消費の前に,流体注入に伴い誘発されうる地震の最大マグニチュードを推定した.メルトの含水量は,反応帯形成に必要な含水量および岩脈の含水量から最低3.2 wt%,820℃におけるメルトの飽和含水量から最大12 wt%(Papale et al., 2006),母岩の剛性率は,鉱物のモードに基づき38.4 GPaと推定できる.岩脈の形状を円盤状と仮定すると,各岩脈の幅と長さから体積を4.7×10-3から110 m3と推定でき,メルトの含水量から,単一の岩脈から放出された水は3.7×10-8から1.4×104m3と推定される.この水が誘発しうる地震の最大マグニチュードは-1.4から3.8である.また,岩脈のサイズ分布からマグニチュードの頻度分布を推定し,-0.4から1.4のマグニチュードの地震が主に発生していることが分かった.一方,岩脈サイズの頻度分布とせん断変位/岩脈幅比から推定されるマグニチュードは,-2.0から4.9であった.
本研究において推定した岩脈貫入に伴う地殻破壊によって生じうる地震のモーメントマグニチュードは,最大値は4-5と高いものの,-1から1の範囲に多く,火山性深部低周波地震の観測(Ikegaya et al., 2023; Aso et al., 2013)とおおむね同じ傾向であることが示された.また,東南極セール・ロンダーネ山地の他の露頭ではせん断変位を伴う熱水性鉱物脈も観察されている(e.g., Higashino et al., 2019; Mindaleva et al., 2023)ため,単一の岩脈による地殻破壊により,深部低周波地震の長時間継続と小さなマグニチュードの地震を説明できる可能性がある.
調査地域は東南極セール・ロンダーネ山地中央部ブラットニーパネ人差し指尾根で,約6億年前の東西ゴンドワナ大陸の衝突に関連した高度変成岩が分布する地域である(Osanai et al., 2013).花崗岩質岩脈(長さ~100m)とそこから派生した角閃石脈によって,母岩の面構造が高角に切られ,岩脈には開口せん断き裂が観察された.母岩は赤褐色の中間質から苦鉄質のグラニュライトで主要構成鉱物は斜長石,角閃石,直方輝石,単斜輝石,石英である.また,花崗岩質岩脈の両側に暗灰色の反応帯を伴い,反応帯内部では,母岩中の直方輝石と単斜輝石は角閃石や黒雲母に置換される.
本研究では,幅5.5 cmの花崗岩質岩脈と,その周囲の反応帯および母岩を解析した.地質温度圧力計を岩脈-反応帯境界に適用した結果と,熱力学ソフトウェアPerple_X (Connolly, 2005, updated 2024)の解析結果を比較し,反応帯形成時の温度圧力条件は700–750℃,0.7–0.8 GPaと推定した.また,反応帯中に産する燐灰石の塩素濃度が花崗岩質岩脈からの距離に応じて移流-拡散的なプロファイルを示すことから,これに反応輸送方程式を適用し,流体浸透時間を22-180 hと推定した.また,岩脈中にはジルコンが産し,全岩Zr濃度が150-170 ppmであることから,Zr飽和状態温度(Watson & Harrison, 1983)として約820℃を見積もった.これは岩脈貫入時の最低温度に相当すると考えられる.
また,ドローン写真から200 mスケールの3次元露頭モデルを生成し,101本の岩脈のサイズを測定し,モデルと詳細な露頭写真からせん断変位を測定した.岩脈の幅は1 cmから10 mであり,長さは0.1から250 mであった.岩脈幅と長さには比例関係が見られ,対数サイズの最頻値は幅3-6 cm,長さ6-13 m程度である.せん断量は1 cmから1.3 mであり,岩脈幅との線形な比例関係はみられなかったが,せん断変位/岩脈幅比は0.01から10の範囲であった. さらに,マグマが放出した流体の量と注水量―マグニチュード経験式(McGarr, 2014)を用いて,岩石-水反応による水消費の前に,流体注入に伴い誘発されうる地震の最大マグニチュードを推定した.メルトの含水量は,反応帯形成に必要な含水量および岩脈の含水量から最低3.2 wt%,820℃におけるメルトの飽和含水量から最大12 wt%(Papale et al., 2006),母岩の剛性率は,鉱物のモードに基づき38.4 GPaと推定できる.岩脈の形状を円盤状と仮定すると,各岩脈の幅と長さから体積を4.7×10-3から110 m3と推定でき,メルトの含水量から,単一の岩脈から放出された水は3.7×10-8から1.4×104m3と推定される.この水が誘発しうる地震の最大マグニチュードは-1.4から3.8である.また,岩脈のサイズ分布からマグニチュードの頻度分布を推定し,-0.4から1.4のマグニチュードの地震が主に発生していることが分かった.一方,岩脈サイズの頻度分布とせん断変位/岩脈幅比から推定されるマグニチュードは,-2.0から4.9であった.
本研究において推定した岩脈貫入に伴う地殻破壊によって生じうる地震のモーメントマグニチュードは,最大値は4-5と高いものの,-1から1の範囲に多く,火山性深部低周波地震の観測(Ikegaya et al., 2023; Aso et al., 2013)とおおむね同じ傾向であることが示された.また,東南極セール・ロンダーネ山地の他の露頭ではせん断変位を伴う熱水性鉱物脈も観察されている(e.g., Higashino et al., 2019; Mindaleva et al., 2023)ため,単一の岩脈による地殻破壊により,深部低周波地震の長時間継続と小さなマグニチュードの地震を説明できる可能性がある.