一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

講演情報

ポスター

S2: 岩石-水相互作用 (スペシャルセッション)

2024年9月13日(金) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[S2-P-03] 愛媛県東赤石かんらん岩体保土野における蛇紋岩化過程の組織変化

「発表賞エントリー」

*和田 姫名乃1、延寿 里美1 (1. 愛媛大・院理工)

キーワード:かんらん岩、蛇紋岩、アンチゴライト、東赤石かんらん岩体

蛇紋岩の主な構成鉱物である蛇紋石は平板状のリザーダイト, 筒状のクリソタイル, 波状のアンチゴライトに分けられる。アンチゴライトはリザーダイトより高温条件でできやすい。リザーダイトを含む低温型蛇紋岩の代表的な組織として, かんらん石の粒間や割れ目から水が進入し, 流路に近い外側から中心部へ順に蛇紋石へ置換されできるメッシュ組織がある。また, アンチゴライトを含む高温型蛇紋岩の代表的な組織として, Schwartz et al. (2013) ではメッシュ組織のリムのリザーダイトとコアのクリソタイルが短冊状のアンチゴライトに置換された組織, Boudier et al. (2009) ではかんらん石の一定方向の亀裂に沿うように直接アンチゴライトが形成された組織が報告されている。しかし, アンチゴライトがかんらん石と共存する場合の組織形成の過程や蛇紋岩化の程度に伴う多様性などは明らかになっていない。本研究では三波川変成帯の東赤石かんらん岩体の南端に位置する保土野谷川上流でかんらん石と共存するアンチゴライトの組織に着目し, 当地域のかんらん岩体の形成過程を明らかにすることを研究目的とする。
 本調査では南北50 m程の露頭の14地点にて試料を採取した。RIGAKU製 Ultima Ⅳを使用し粉末X線回折実験と, 偏光顕微鏡で組織を観察した。代表的な蛇紋岩試料はOxford製EDSを装着したJEOL製走査型顕微鏡JSM-6510LVを用いて分析を行った。
 試料はかんらん石の含有量, 蛇紋石の種類から, かんらん岩(タイプ①), 蛇紋岩化の進んだかんらん岩, 蛇紋岩(タイプ④)に分けた。さらに, 産状や断面の組織から蛇紋岩化の進んだかんらん岩をタイプ②と③に分類した。露頭上部は片状または塊状のかんらん岩(タイプ①)で構成され, 露頭表面は風化しベージュ色, 断面は鮮やかな黄緑色で粗粒なかんらん石と少量の蛇紋石からなる。露頭下部は塊状のかんらん岩で構成されているが, 蛇紋岩化が進んでおりアンチゴライトを多く含む(タイプ②)。葉状構造を持ち, 露頭表面は風化しベージュ色である。断面は外側がベージュや緑色, 内側が黒色で内側のみブルーサイトを含む。色の境界部は不明瞭である。露頭中部では二種類の小規模な岩体がみられた。一方は, 塊状のかんらん岩で構成され, 蛇紋岩化が進んでおりリザーダイトを多く含む(タイプ③)。露頭表面は風化しベージュ-青緑色でクロム鉄鉱と菫泥石が脈状または点在し, タイプ②や④に似た部分を含むが両者の境界は明瞭である。もう一方は, 片状または塊状の蛇紋岩(タイプ④)で構成され, 表面・断面共に黒色や暗緑色である。主要鉱物はアンチゴライトで, 炭酸塩脈を含む。
 偏光顕微鏡観察から, かんらん石の形状に複数特徴が見られた(図1)。最も多いのは短冊状のアンチゴライトと共存する直線的な輪郭を持つくさび状-板状のかんらん石(a)である。対して, 曲線的な輪郭を持つ粒状のかんらん石(b)が見られ, 多くは短冊状のアンチゴライトと共存するが, リザーダイトに富む試料ではメッシュ組織のコアとして存在する(c)。直線的な輪郭を持つかんらん石はかんらん石が直接アンチゴライトに置換したと考えられ, 塑性変形時の転移クリープによる一定方位の亀裂から発達したと思われる組織も見られた。一方で, メッシュ組織は変質時の体積膨張により形成された亀裂から中心へリムが形成され, コア形成前に反応が終了し粒状かんらん石が残存した。短冊と共存するものは, メッシュコアとの類似性からリム部がアンチゴライトの短冊状組織に置換した可能性がある。
 蛇紋石は, アンチゴライトに富む試料では短冊部分と結晶間を埋める細粒部, リザーダイトに富む試料ではメッシュ組織のリムとして存在し, 化学組成に違いも見られた。短冊状結晶はタイプごとに差はあるが一定量のAlを含み(タイプ②0.05-0.1 apfu, タイプ④0.01-0.1 apfu), Mgに乏しい。対して細粒部やメッシュリムはAlを全く含まず, Mgに富んでいた。一方で, Feは結晶の形状に関わらず, タイプごとに異なり, (タイプ③(0.07-0.09 apfu, タイプ②0.09-0.14 apfu, タイプ④0.18-0.24 apfu), アンチゴライトに富む試料ほどFeが多い傾向にある。
 本産地の蛇紋岩はアンチゴライトとリザーダイトを含み, ブルーサイトも普遍的に見られたことから先行研究(e.g. Mizukami & Wallis, 2005)で推察されているよりも低温側も含む広い温度領域で蛇紋岩化が起こっていると考えられる。また, かんらん石と蛇紋石の共存する組織や組成に複数の型が見られたことから, 全体が一律の条件や時期で蛇紋岩化したのではなく異なる環境で形成したと考えられる。
S2-P-03