12:30 PM - 2:00 PM
[S2-P-04] Water-rock interaction recorded in episyenites from Hakatajima Island, Ehime Prefecture
「発表賞エントリー」
Keywords:Episyenite, metasomatism, Hakatajima Island
【はじめに】
エピ閃長岩は, 花崗岩類とアルカリ成分に富む流体の岩石-水相互作用によって形成される. エピ閃長岩の形成過程を明らかにすることは, 大陸地殻の成熟, および熱水変質にともなう流体の活動について理解していく上で重要である. 日本産のエピ閃長岩については, 西南日本内帯の花崗岩岩体に点在するものが多く記載されている(例えば, 村上, 1976, 岩鉱特別号). また近年では, エピ閃長岩中の希少鉱物について鉱物学的な研究が盛んにおこなわれている(例えば, 今岡・永嶌, 2022, 地学雑誌; 中野ほか, 2023, 地質学雑誌). 一方で, 岩石-流体相互作用の観点から, エピ閃長岩形成時の元素挙動について検討した例としては, 土岐花崗岩体のコア試料として得られたエピ閃長岩についての研究が挙げられる(Nishimoto et al., 2014, Contrib. Mineral. Petrol.). しかしながら, 野外に露出するエピ閃長岩を対象とした研究例は限られている. 本研究では, エピ閃長岩形成時に起こる岩石-流体相互作用を解明するために, 愛媛県伯方島に分布するエピ閃長岩類の野外産状および岩石記載, 全岩化学組成分析・希土類元素(REE)組成分析, Sr-Nd同位体組成分析をおこない, エピ閃長岩形成時の元素の挙動について検討した.
【野外産状・岩石記載】
当地域には2種類のエピ閃長岩が産し, その色調の違いにより, 真珠色閃長岩と牡蠣色閃長岩に区別される. これらのエピ閃長岩類は花崗岩に伴って産出し, いずれも周囲の花崗岩との境界は不明瞭である. 真珠色閃長岩は多孔質な岩相を示し, 露頭中に多数の空隙が認められる. 一方, 牡蠣色閃長岩は塊状・緻密な岩相であり, 真珠色閃長岩に比べ, 母岩の花崗岩の組織が残存している. 主な構成鉱物はいずれもアルカリ長石, 単斜輝石, 柘榴石, チタン石であるが, 有色鉱物の量は, 真珠色閃長岩では柘榴石が, 牡蠣色閃長岩では単斜輝石が最も多い. 真珠色閃長岩中では柘榴石とチタン石が空隙を埋めるように産する. 牡蠣色閃長岩中では単斜輝石と柘榴石の粒状集合組織が認められるほか, 一部では, 角閃石の単斜輝石への交代も認められる.
【REE組成・Sr-Nd同位体組成分析】
REEの存在度は母岩の花崗岩よりも真珠色閃長岩では低く, 牡蠣色閃長岩では高い値を示す. また, Sr-Nd同位体組成について, 真珠色閃長岩は母岩の花崗岩類と類似したεSrt (90 Ma)を示すが, εNdt (90 Ma)は母岩よりも有意に低い値を示す. 一方, 牡蠣色閃長岩は母岩の花崗岩類と類似したSr-Nd同位体組成を示す.
【Isocon解析】
花崗岩がエピ閃長岩化する際の元素の移動を検討するためにエピ閃長岩類および母岩の花崗岩類の全岩化学組成データを用いて, Isocon解析(Grant, 1986, Econ. Geol.)を行った. 花崗岩に多く含有され, エピ閃長岩化後も長石の結晶構造に保持されるAlを不動元素として設定し, 解析をおこなった. その結果, 両エピ閃長岩のいずれも母岩からのSiの減少と, Li, Na, Kといったアルカリ元素の増加が認められた. 一方, 他の元素に着目すると, 花崗岩中の苦鉄質鉱物に含まれるTi, Fe, Caや, ジルコンなど副成分鉱物に含まれるZr, REEなど, 多くの元素が真珠色閃長岩では母岩の花崗岩類に比べて減少するのに対し, 牡蠣色閃長岩では増加する, という対照的な結果が得られた.
【考察】
Isocon解析結果から, 真珠色閃長岩で減少したTi, Fe, Ca, Zr, REEなどの元素が, 牡蠣色閃長岩では増加したと考えられる. このことは, 真珠色閃長岩形成時に母岩から取り去られた元素が, 牡蠣色閃長岩に付加したことを示唆する. また, 牡蠣色閃長岩は母岩の花崗岩と類似したSr-Nd同位体組成を示すが, このことはエピ閃長岩形成をもたらした流体が花崗岩質マグマ由来であることを示唆する. 一方, 真珠色閃長岩は花崗岩類より有意に低いεNdt (90 Ma)組成を持つことから, Nd同位体比の低い別起源の流体の関与があったことが示唆される. したがって, 真珠色閃長岩形成時には, 花崗岩質マグマ起源の流体との反応により同位体組成の類似するSrがアルカリ長石中に保持されるとともに, ①Ndを含む多くの元素が取り去られ空隙に富む岩相をつくる.さらに, ②花崗岩より低いNd同位体組成をもつ流体が供給され, 空隙を埋めるように低いNd同位体組成をもつ柘榴石およびチタン石が晶出する, といった過程を経たと考えらえる. また, 牡蠣色閃長岩形成時には, ①で母岩から取り去られた元素が濃集した流体との反応により, 花崗岩と類似したSr-Nd同位体比を保持しつつ, 有色鉱物の交代や, 石英の溶脱によってできた空隙の充填が進んだものと考えられる.
エピ閃長岩は, 花崗岩類とアルカリ成分に富む流体の岩石-水相互作用によって形成される. エピ閃長岩の形成過程を明らかにすることは, 大陸地殻の成熟, および熱水変質にともなう流体の活動について理解していく上で重要である. 日本産のエピ閃長岩については, 西南日本内帯の花崗岩岩体に点在するものが多く記載されている(例えば, 村上, 1976, 岩鉱特別号). また近年では, エピ閃長岩中の希少鉱物について鉱物学的な研究が盛んにおこなわれている(例えば, 今岡・永嶌, 2022, 地学雑誌; 中野ほか, 2023, 地質学雑誌). 一方で, 岩石-流体相互作用の観点から, エピ閃長岩形成時の元素挙動について検討した例としては, 土岐花崗岩体のコア試料として得られたエピ閃長岩についての研究が挙げられる(Nishimoto et al., 2014, Contrib. Mineral. Petrol.). しかしながら, 野外に露出するエピ閃長岩を対象とした研究例は限られている. 本研究では, エピ閃長岩形成時に起こる岩石-流体相互作用を解明するために, 愛媛県伯方島に分布するエピ閃長岩類の野外産状および岩石記載, 全岩化学組成分析・希土類元素(REE)組成分析, Sr-Nd同位体組成分析をおこない, エピ閃長岩形成時の元素の挙動について検討した.
【野外産状・岩石記載】
当地域には2種類のエピ閃長岩が産し, その色調の違いにより, 真珠色閃長岩と牡蠣色閃長岩に区別される. これらのエピ閃長岩類は花崗岩に伴って産出し, いずれも周囲の花崗岩との境界は不明瞭である. 真珠色閃長岩は多孔質な岩相を示し, 露頭中に多数の空隙が認められる. 一方, 牡蠣色閃長岩は塊状・緻密な岩相であり, 真珠色閃長岩に比べ, 母岩の花崗岩の組織が残存している. 主な構成鉱物はいずれもアルカリ長石, 単斜輝石, 柘榴石, チタン石であるが, 有色鉱物の量は, 真珠色閃長岩では柘榴石が, 牡蠣色閃長岩では単斜輝石が最も多い. 真珠色閃長岩中では柘榴石とチタン石が空隙を埋めるように産する. 牡蠣色閃長岩中では単斜輝石と柘榴石の粒状集合組織が認められるほか, 一部では, 角閃石の単斜輝石への交代も認められる.
【REE組成・Sr-Nd同位体組成分析】
REEの存在度は母岩の花崗岩よりも真珠色閃長岩では低く, 牡蠣色閃長岩では高い値を示す. また, Sr-Nd同位体組成について, 真珠色閃長岩は母岩の花崗岩類と類似したεSrt (90 Ma)を示すが, εNdt (90 Ma)は母岩よりも有意に低い値を示す. 一方, 牡蠣色閃長岩は母岩の花崗岩類と類似したSr-Nd同位体組成を示す.
【Isocon解析】
花崗岩がエピ閃長岩化する際の元素の移動を検討するためにエピ閃長岩類および母岩の花崗岩類の全岩化学組成データを用いて, Isocon解析(Grant, 1986, Econ. Geol.)を行った. 花崗岩に多く含有され, エピ閃長岩化後も長石の結晶構造に保持されるAlを不動元素として設定し, 解析をおこなった. その結果, 両エピ閃長岩のいずれも母岩からのSiの減少と, Li, Na, Kといったアルカリ元素の増加が認められた. 一方, 他の元素に着目すると, 花崗岩中の苦鉄質鉱物に含まれるTi, Fe, Caや, ジルコンなど副成分鉱物に含まれるZr, REEなど, 多くの元素が真珠色閃長岩では母岩の花崗岩類に比べて減少するのに対し, 牡蠣色閃長岩では増加する, という対照的な結果が得られた.
【考察】
Isocon解析結果から, 真珠色閃長岩で減少したTi, Fe, Ca, Zr, REEなどの元素が, 牡蠣色閃長岩では増加したと考えられる. このことは, 真珠色閃長岩形成時に母岩から取り去られた元素が, 牡蠣色閃長岩に付加したことを示唆する. また, 牡蠣色閃長岩は母岩の花崗岩と類似したSr-Nd同位体組成を示すが, このことはエピ閃長岩形成をもたらした流体が花崗岩質マグマ由来であることを示唆する. 一方, 真珠色閃長岩は花崗岩類より有意に低いεNdt (90 Ma)組成を持つことから, Nd同位体比の低い別起源の流体の関与があったことが示唆される. したがって, 真珠色閃長岩形成時には, 花崗岩質マグマ起源の流体との反応により同位体組成の類似するSrがアルカリ長石中に保持されるとともに, ①Ndを含む多くの元素が取り去られ空隙に富む岩相をつくる.さらに, ②花崗岩より低いNd同位体組成をもつ流体が供給され, 空隙を埋めるように低いNd同位体組成をもつ柘榴石およびチタン石が晶出する, といった過程を経たと考えらえる. また, 牡蠣色閃長岩形成時には, ①で母岩から取り去られた元素が濃集した流体との反応により, 花崗岩と類似したSr-Nd同位体比を保持しつつ, 有色鉱物の交代や, 石英の溶脱によってできた空隙の充填が進んだものと考えられる.