12:30 PM - 2:00 PM
[S2-P-05] Mechanisms of Reaction-Induced Fracturing in Serpentinite Carbonation; Insights from Hydrothermal Experiments and Geochemical Modeling
「発表賞エントリー」
Keywords:Carbonation, Carbon Mineralization, Serpentinite, Reaction-induced fracturing
蛇紋岩の原位置炭酸塩化は、大量の二酸化炭素を貯蔵する方法として期待されているが、透水性が低く、反応表面積が少ない等の課題がある。天然では体積増加反応による破壊(反応誘起破壊)が岩石内部の反応を促進することが示唆されており[1]、炭酸塩化では破壊に十分な結晶化応力が発生し得ることが熱力学的に予想されているが[2]、天然岩石の炭酸塩化実験では明確な反応誘起破壊は報告されていない。極端な体積増加(+119 vol%)を伴うペリクレースの水和反応によりブルーサイトを生成する実験では、力学的応答は流体の輸送速度と反応速度のバランスに依存することが示されている[3]。輸送速度が反応速度よりも速ければ物質は一様に膨張するが、反応速度が輸送速度に対して速い場合、体積増加により破壊が起こる。ブルーサイトの炭酸塩化は反応速度/輸送速度の比が十分に大きいことから、ブルーサイトの炭酸塩化では反応誘起破壊が起こることが期待される。 本研究では、天然岩石の炭酸塩化における反応誘起破壊を再現するため、ブルーサイトに富む蛇紋岩を用いた水熱反応実験を行い、反応速度/輸送速度比に基づく反応様式と結晶化応力の関係をモデル化した。ブルーサイトに富む蛇紋岩のコア試料をCO2飽和水(CO2圧力10 MPa)と1M NaHCO3水溶液中で90℃、150℃、200℃の計6条件について1週間反応させた。実験後の試料は主に表面の0.5mm程度が反応し、CO₂飽和水150℃、NaHCO3水溶液150℃、200℃では明瞭な亀裂が生じた。CO2飽和水試料について着目すると、外周からある距離(数百㎛)でブルーサイトが溶解し、その外側に炭酸塩が析出していた。90℃ではマグネサイトは析出せず低温で安定なネスケホナイトが析出、150℃ではブルーサイト溶解フロントから~150 µm外側にマグネサイトが析出、200℃では溶解フロントのすぐ外側にマグネサイトが隙間なく析出した。総じて、ブルーサイト溶解フロントとマグネサイト析出位置との距離は、温度が高くなるにつれて近くなっていた。試料中の反応した領域では、元の蛇紋石-ブルーサイト混合物の周囲に多孔質の蛇紋石が形成され、その外側にマグネサイト-蛇紋石混合物が形成されていた。観察結果に基づき、反応-輸送モデリングソフトウェアCrunch-Flow[4]を用いて、CO2飽和水における実験中の反応を再現する1次元モデリングを試みた。モデルでは、Mgの拡散速度とマグネサイトの析出速度の比によって反応様式が変化することがわかった。90℃ではマグネサイトの析出速度が遅くブルーサイトの溶解が卓越し、マグネサイトは析出せずMgが溶液中に拡散したのに対し、150℃では拡散-析出速度が同程度であり、Mgが多少拡散した後にマグネサイトが析出することで試料表面から比較的内部までマグネサイトが析出し、目詰まりした。200℃では析出速度の増加により、Mgがほとんど拡散することなくマグネサイトが試料表面に析出し、目詰まりを起こしてブルーサイトの溶解を阻害した。一方で、目詰まりした150、200℃モデルにおいて、マグネサイトの過飽和度に基づいて発生しうる結晶化応力を計算すると、いずれも10〜100 MPa以上であり、一般的な岩石の引張強度(約10 MPa)より高い値を示した。また、反応フロントでは、空隙率が最も低い領域にマグネサイト飽和度の高い岩石外の溶液が浸透することで極めて高い結晶化応力(〜1 GPa)が予想され、反応誘起破壊が発生する可能性が高い。本研究では、ブルーサイトに富む蛇紋岩におけるブルーサイトの炭酸塩化と反応誘起破壊の可否に関する輸送速度と反応速度の影響を調べるため、水熱実験と反応輸送モデリングを行い、炭酸塩化実験における反応誘起破壊の実証に成功した。目詰まりした試料(CO2飽和水200℃)では表面の反応のみであったが、割れた試料(CO2飽和水150℃)では亀裂表面からさらに反応が進行していた。拡散速度>反応速度の場合、目詰まりに時間がかかり、より多くのブルーサイトを溶解させることができると予測される。一方、拡散速度<反応速度の場合は目詰まりを起こすが、過飽和度が高ければ十分な結晶化応力が発生し、反応誘起破壊が生じる可能性があることが明らかになった。 引用[1]Kelemen and Hirth, 2011, EPSL, 345-348, 81-89.[2]Kelemen et al., 2011, Annu. Rev. Earth Planet. Sci., 39, 545-576.[3]Uno et al., 2022, PNAS, 119, e2110776118.[4]Steefel and Lagasa, 1994, American Journal of Science, 294, 529-592.