4:20 PM - 4:40 PM
[S3-04] High-resolution measurement of ice anelasticity over a broad frequency range with a new cryogenic forced oscillation apparatus
「招待講演」
Keywords:ice, anelasticity, attenuation
氷は、地球や他の惑星・衛星に普遍的に存在する鉱物である。氷河の運動や氷衛星の潮汐応答など、氷に関連したさまざまな変形現象を理解するために、広いタイムスケールに及ぶ氷の粘弾性的性質の実験的測定が古くから行われている。しかし、氷の粘弾性的性質の中でも特に、弾性と粘性の中間的なタイムスケールでのふるまいである「非弾性」に関しては、実験の技術的な難しさとそれに伴うデータ不足が原因で、その物理的メカニズムや、実験結果を地球や惑星内部条件に応用するために必要なスケーリング則についての理解が未だ限られている。
本研究では、氷の非弾性に関する系統的な実験的研究の展開に向けて、既存の室温近傍・高精度強制振動実験装置(Takei et al., 2014, JGR)の設計を改良することで、新たに低温・一軸圧縮強制振動実験装置を開発し、広い周波数範囲(10-4 〜 10 Hz)で氷のヤング率と減衰を高精度で測定することを可能にした(Yamauchi et al., 2024, Rev. Sci. Instrum., in press)。この装置を使って、微小な応力条件のもとで氷多結晶体のヤング率と減衰を測定した結果、非弾性応答は歪みの振幅に依存しない、つまり線形であることが示された。これまで線形領域にある多結晶体非弾性については、地震波構造を解釈する目的で、岩石やそのアナログ物質(ボルネオール)を用いた実験によって精力的に調べられている(e.g., Jackson et al., 2002, JGR; Takei et al., 2014)。そして特に低周波数域における主要な非弾性メカニズムは「拡散律速型の粒界滑り」であり、マクスウェル周波数によるスケーリングが有効であることが明らかにされている(e.g., McCarthy et al., 2011, JGR)。具体的には、さまざまな実験条件(温度・粒径など)で取得された減衰データを、マクスウェル周波数(fM = MU/η; MU = 非緩和弾性定数, η = 拡散クリープ粘性)で規格化した周波数に対してプロットすると、低い規格化周波数域(f/fM <~ 104)で、すべてのデータが一本の曲線上に重なるというものである。そこで、今回の実験条件における氷のマクスウェル周波数を計算し、規格化した周波数に対して氷の減衰データをプロットしたところ、低い規格化周波数域で氷の減衰データも岩石とアナログ物質のデータと同じ曲線上に重なることがわかった。この結果から、新しい装置による非弾性測定の妥当性とともに、氷多結晶体の線形非弾性応答も、岩石やアナログ物質と共通の物理メカニズム(拡散律速型の粒界すべり)によって引き起こされることが示された。
さらに我々は現在、以上の結果から求まった氷多結晶体の線形非弾性を表す減衰スペクトルを“ベースライン”として、氷多結晶体の非弾性に対する「変形」による付加的な影響を調べている。先行研究による氷の非弾性実験の結果によると、変形による転位密度の増加に起因する非弾性緩和の顕著な増大(Vassoille et al., 1978, J. Glaciol.)や、比較的高い応力条件のもとで測定された非弾性応答の非線形性(McCarthy & Cooper, 2016, EPSL)が報告されているが、前述のようにその定量的な理解は限られている。本研究では、ペンシルベニア大学の低温ガス圧変形試験機を使って氷多結晶体を変形させ、系統的に歪み量を変えた試料(歪み = 0 – 20%)を複数用意し、新しい強制振動実験装置を使って、さまざまな応力条件のもとでこれらの試料の非弾性を測定する計画である。本実験により、変形に伴う「転位の増加」とさらに「結晶配向度の変化」が氷の非弾性応答にどのような影響を与えるのかを定量的に明らかにすることを目指している。これらの実験結果は、潮汐変動を受ける氷河や氷衛星の変形に直接応用することができるが、我々はさらに、適切なスケーリング則を用いて実験結果を他の物質(オリビン)に適用し、変形下にある地球のマントルの地震波速度や減衰の理解に応用することも目指している。発表では、新しい実験装置の詳細を紹介するとともに、最新の実験データについても議論する。
本研究では、氷の非弾性に関する系統的な実験的研究の展開に向けて、既存の室温近傍・高精度強制振動実験装置(Takei et al., 2014, JGR)の設計を改良することで、新たに低温・一軸圧縮強制振動実験装置を開発し、広い周波数範囲(10-4 〜 10 Hz)で氷のヤング率と減衰を高精度で測定することを可能にした(Yamauchi et al., 2024, Rev. Sci. Instrum., in press)。この装置を使って、微小な応力条件のもとで氷多結晶体のヤング率と減衰を測定した結果、非弾性応答は歪みの振幅に依存しない、つまり線形であることが示された。これまで線形領域にある多結晶体非弾性については、地震波構造を解釈する目的で、岩石やそのアナログ物質(ボルネオール)を用いた実験によって精力的に調べられている(e.g., Jackson et al., 2002, JGR; Takei et al., 2014)。そして特に低周波数域における主要な非弾性メカニズムは「拡散律速型の粒界滑り」であり、マクスウェル周波数によるスケーリングが有効であることが明らかにされている(e.g., McCarthy et al., 2011, JGR)。具体的には、さまざまな実験条件(温度・粒径など)で取得された減衰データを、マクスウェル周波数(fM = MU/η; MU = 非緩和弾性定数, η = 拡散クリープ粘性)で規格化した周波数に対してプロットすると、低い規格化周波数域(f/fM <~ 104)で、すべてのデータが一本の曲線上に重なるというものである。そこで、今回の実験条件における氷のマクスウェル周波数を計算し、規格化した周波数に対して氷の減衰データをプロットしたところ、低い規格化周波数域で氷の減衰データも岩石とアナログ物質のデータと同じ曲線上に重なることがわかった。この結果から、新しい装置による非弾性測定の妥当性とともに、氷多結晶体の線形非弾性応答も、岩石やアナログ物質と共通の物理メカニズム(拡散律速型の粒界すべり)によって引き起こされることが示された。
さらに我々は現在、以上の結果から求まった氷多結晶体の線形非弾性を表す減衰スペクトルを“ベースライン”として、氷多結晶体の非弾性に対する「変形」による付加的な影響を調べている。先行研究による氷の非弾性実験の結果によると、変形による転位密度の増加に起因する非弾性緩和の顕著な増大(Vassoille et al., 1978, J. Glaciol.)や、比較的高い応力条件のもとで測定された非弾性応答の非線形性(McCarthy & Cooper, 2016, EPSL)が報告されているが、前述のようにその定量的な理解は限られている。本研究では、ペンシルベニア大学の低温ガス圧変形試験機を使って氷多結晶体を変形させ、系統的に歪み量を変えた試料(歪み = 0 – 20%)を複数用意し、新しい強制振動実験装置を使って、さまざまな応力条件のもとでこれらの試料の非弾性を測定する計画である。本実験により、変形に伴う「転位の増加」とさらに「結晶配向度の変化」が氷の非弾性応答にどのような影響を与えるのかを定量的に明らかにすることを目指している。これらの実験結果は、潮汐変動を受ける氷河や氷衛星の変形に直接応用することができるが、我々はさらに、適切なスケーリング則を用いて実験結果を他の物質(オリビン)に適用し、変形下にある地球のマントルの地震波速度や減衰の理解に応用することも目指している。発表では、新しい実験装置の詳細を紹介するとともに、最新の実験データについても議論する。