12:30 PM - 2:00 PM
[S3-P-02] Water weakening of Mg2SiO4 ringwoodite
「発表賞エントリー」
Keywords:in-situ X-ray observation, high-pressure deformation experiment, water content, water weakening, mantle transition zone
リングウッダイトは遷移層マントル下部の主要構成鉱物であり、そのレオロジーを明らかにすることは、上下マントル境界の粘性構造の解明、ひいてはスラブスタグナントやプレートテクトニクス型のマントル対流などの問題を読み解いていく上で非常に重要である。また、リングウッダイトは最大3wt.%の水を含むことができることが知られていて、マントルの電気伝導度測定などから実際の遷移層マントル中のリングウッダイトでも最大~1wt.%の水を含んでいることが示唆されており、粘性率に対する水の効果も重要となる。上部マントルの主要構成鉱物であるオリビンでは水に飽和した環境下でパイエルス機構、転位クリープ、拡散クリープのどの流動機構でも加水軟化が起こることが報告されているが(e.g. Katayama-Karato, 2008)、リングウッダイトの塑性変形強度に与える水の効果は全く検証されていない。本研究では遷移層圧力下において含水量の異なるMg2SiO4組成のリングウッダイトを用いた変形実験を行い、リングウッダイトの組成変形強度に対する水の効果を検討した。
高圧変形実験は、放射光施設PF-ARのNE7A設置の高圧発生装置MAX-ⅢにD-111型ガイドブロックを組み込んで行った。高含水量リングウッダイトの出発試料にはMg2SiO4オリビン単結晶を吸着水の除去処理を施さずに粉末化したものを用いた。これをNaClシリンダーに詰め変形用セルアセンブリに組み込み、21GPa・1000℃で1時間アニールして高含水量リングウッダイト多結晶体を合成し、そのまま変形を行った。また低含水量リングウッダイトの変形実験の出発物質には、Mg2SiO4オリビン単結晶を予め22GPa・1400℃で合成したリングウッダイト多結晶体を用いた。60keVの単色X線を入射X線としてラジオグラフィ像と2次元X線回折パターンを取得することで、変形中の試料歪みと応力を測定した。変形実験は歪み速度一定条件で温度をステップさせる実験と、温度一定条件で歪み速度をステップさせる実験の2種類を行った。実験条件は圧力21GPa、温度400-1300℃、試料の歪み速度0.51-18×10-5/s、最終歪み量は24-43%である。回収試料はFT-IRを用いて含水量測定を行い、FE-SEMを用いて微細組織観察を行った。
出発試料および回収試料の含水量測定から、高含水量リングウッダイトには1700-2000 wt.ppm H2O、低含水量リングウッダイトには290 wt.ppm H2Oの水が含まれていた。先行研究ではマントルオリビン組成のリングウッダイトに対し、低温側のパイエルス機構で含水量200-1860 wt.ppm H2O (Imamura et al., 2018)、高温側の転位クリープで含水量290-1100 wt.ppm H2O (Kawazoe et al., 2016)の条件で流動則が報告されているが、いずれも含水量のばらつきが大きいのが問題である。本研究では低含水量リングウッダイトは1100-1300℃で、高含水量リングウッダイトは400-1100℃で変形実験を行ったが、過去の研究と比較すると、低含水量は高温側に、高含水量は低温側に、それぞれ〜200-300℃の違いに相当するような強度差が確認された。本研究の1100℃のデータで比較すると、含水量が約5倍に増加することで変形強度は約1/10に低下する。
高含水リングウッダイトでは、高温になるほど強度の温度依存性が大きくなる傾向が見られ、また歪み速度ステップ変形実験の結果、歪み速度の応力依存性を表す指数nが、低温側の750℃ではn=5.7、高温側の900℃ではn=2.2となった。応力指数については今後より慎重な解析が必要であるが、現時点の予備的な解析では約800-850℃付近を境に低温側ではパイエルス機構、高温側では転位クリープによる流動が卓越しているかもしれない。先行研究のパイエルス機構-転位クリープの流動機構の切り替わりは約1050℃の応力~2GPa付近で起こっているが、本研究の高含水量リングウッダイトでは、より低温低応力側の800-850℃、~0.8GPa付近で起こることが示された。
このように本研究の結果から、Mg2SiO4リングウッダイトの明らかな加水軟化現象が確認された。これは脱水する遷移層スラブの強度や遷移層下部で示唆される低粘性層の解釈に対しても重要であると考える。今後は、鉄を含む試料での加水軟化現象の実証や、同一変形機構における定量的な含水量依存性の決定を行っていく必要がある。
高圧変形実験は、放射光施設PF-ARのNE7A設置の高圧発生装置MAX-ⅢにD-111型ガイドブロックを組み込んで行った。高含水量リングウッダイトの出発試料にはMg2SiO4オリビン単結晶を吸着水の除去処理を施さずに粉末化したものを用いた。これをNaClシリンダーに詰め変形用セルアセンブリに組み込み、21GPa・1000℃で1時間アニールして高含水量リングウッダイト多結晶体を合成し、そのまま変形を行った。また低含水量リングウッダイトの変形実験の出発物質には、Mg2SiO4オリビン単結晶を予め22GPa・1400℃で合成したリングウッダイト多結晶体を用いた。60keVの単色X線を入射X線としてラジオグラフィ像と2次元X線回折パターンを取得することで、変形中の試料歪みと応力を測定した。変形実験は歪み速度一定条件で温度をステップさせる実験と、温度一定条件で歪み速度をステップさせる実験の2種類を行った。実験条件は圧力21GPa、温度400-1300℃、試料の歪み速度0.51-18×10-5/s、最終歪み量は24-43%である。回収試料はFT-IRを用いて含水量測定を行い、FE-SEMを用いて微細組織観察を行った。
出発試料および回収試料の含水量測定から、高含水量リングウッダイトには1700-2000 wt.ppm H2O、低含水量リングウッダイトには290 wt.ppm H2Oの水が含まれていた。先行研究ではマントルオリビン組成のリングウッダイトに対し、低温側のパイエルス機構で含水量200-1860 wt.ppm H2O (Imamura et al., 2018)、高温側の転位クリープで含水量290-1100 wt.ppm H2O (Kawazoe et al., 2016)の条件で流動則が報告されているが、いずれも含水量のばらつきが大きいのが問題である。本研究では低含水量リングウッダイトは1100-1300℃で、高含水量リングウッダイトは400-1100℃で変形実験を行ったが、過去の研究と比較すると、低含水量は高温側に、高含水量は低温側に、それぞれ〜200-300℃の違いに相当するような強度差が確認された。本研究の1100℃のデータで比較すると、含水量が約5倍に増加することで変形強度は約1/10に低下する。
高含水リングウッダイトでは、高温になるほど強度の温度依存性が大きくなる傾向が見られ、また歪み速度ステップ変形実験の結果、歪み速度の応力依存性を表す指数nが、低温側の750℃ではn=5.7、高温側の900℃ではn=2.2となった。応力指数については今後より慎重な解析が必要であるが、現時点の予備的な解析では約800-850℃付近を境に低温側ではパイエルス機構、高温側では転位クリープによる流動が卓越しているかもしれない。先行研究のパイエルス機構-転位クリープの流動機構の切り替わりは約1050℃の応力~2GPa付近で起こっているが、本研究の高含水量リングウッダイトでは、より低温低応力側の800-850℃、~0.8GPa付近で起こることが示された。
このように本研究の結果から、Mg2SiO4リングウッダイトの明らかな加水軟化現象が確認された。これは脱水する遷移層スラブの強度や遷移層下部で示唆される低粘性層の解釈に対しても重要であると考える。今後は、鉄を含む試料での加水軟化現象の実証や、同一変形機構における定量的な含水量依存性の決定を行っていく必要がある。