一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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S3:マントル・地殻のレオロジーと物質移動(スペシャルセッション)

2024年9月12日(木) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[S3-P-04] マイクロビッカース試験によるかんらん石多結晶体の粘性異方性

「発表賞エントリー」

*藤井 七夢1、田阪 美樹1 (1. 静岡大学)

キーワード:かんらん石 、 低温塑性変形 、マイクロビッカース試験、異方性 、粘性

プレートの大部分はマントルで構成されており、プレートの強度はマントルの物性に支配されている。プレートは低温、高応力の低温塑性変形(パイエルス機構)で変形している。マイクロインデンテーション試験は岩石を構成する鉱物だけでなく、金属やセラミックスなど様々な材料の硬度を調べるために幅広く使用されてきた。地球マントルの大部分を構成するかんらん石についてもその変形特性を調べるためにマイクロインデンテーション試験の一種であるビッカース硬度試験が行われ、温度や粒径による変形特性の変化の理解に用いられてきた。ビッカース硬度試験は先端に微小なピラミッド形状のダイヤモンド圧子を試料に押し込むことで微小領域の硬さを調べる。ビッカース硬度試験で得られた結果は温塑性変形であるパイエルス機構の流動メカニズムに対応させることができる。プレートではマントル流動の方向にかんらん石の[100]軸が揃うような異方性を持つことが知られており、転位クリープではかんらん石が特定の方向に配列した異方性を持つ試料が等方的な試料に比べて粘性が1桁程度低下することが明らかになっている。一方でパイエルス機構では粘性の異方性は調べられていない。そこで、本研究はかんらん石多結晶体の異方性が粘性に及ぼす影響について調べるため、かんらん岩を用いてビッカース硬度試験を行った。実験には地球マントルの模擬物質としてForsterite+20vol%Diopside多結晶体を用いた。荷重は0.98-9.81 N、保持時間は15 s、常温常圧下で試験を行った。本研究では等方的な試料と異方的な試料を4種類作製した。細粒かんらん石多結晶体に関する実験から、焼結温度によって異なる形状の粒子が形成されることが明らかになっている。より高い温度では異方的な形状を持つ粒子(タビュラー状粒子)が、低い温度では等粒状粒子が形成される。そのため本実験において異方的な試料はタビュラー状試料を70%圧縮変形させ、かんらん石のb軸を圧縮方向に並ばせた試料を用いた。研磨面とb面が垂直な試料(yz試料)と研磨面とb面が平行な試料(xy試料)を準備した。等方的な試料としては等粒状試料を用いた。さらに、タビュラー状の等方的な試料(reference試料)も作製した。本研究のマイクロビッカース試験の結果より、荷重が0.98 Nのときのビッカース硬度がyz試料では8.6 GPa、xy試料では8.3 GPa、等方的試料では10.0 GPa、reference試料では9.2 GPaとなった。この結果は粒径の効果と粘性の異方性の効果を含んでいると考えられるため、koizumi et al.(2020)と比較することで粒径の効果を除き、粘性の異方性の効果を比較した。異方的な試料、特にyz試料では等方的な試料と比較して硬度が小さくなった。これはかんらん石の配向による異方性によりかんらん石の硬度が下がったことを示唆する。本研究の結果は、マントル流動によって結晶の方向が揃い、異方性を持ったかんらん石では等方的なかんらん石よりもパイエルス変形機構で変形したときに粘性が下がる可能性を示唆する。