一般社団法人日本鉱物科学会2024年年会・総会

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S3:マントル・地殻のレオロジーと物質移動(スペシャルセッション)

2024年9月12日(木) 12:30 〜 14:00 エントランスホール (東山キャンパス)

12:30 〜 14:00

[S3-P-05] 主成分分析を用いた結晶ファブリック解析:幌満カンラン岩の例

「発表賞エントリー」

*松山 和樹1、道林 克禎1 (1. 名古屋大・院環境学)

キーワード:カンラン石、結晶ファブリック、幌満カンラン岩体、主成分分析

本研究では、結晶ファブリックと微細組織の関係性解明を目的として、主成分分析(principal component analysis; PCA)を用いた解析を行った。主成分分析は、高次元データを低次元に圧縮する多変量解析手法である(Jolliffe, 2002)。主成分分析はこれまで、データのノイズ除去や特徴量の抽出を得意とすることから、固体地球科学分野においては地球化学的特徴の解析で利用されてきた(Nakamura et al., 205; Yang and Cheng, 2015など)。本研究では、幌満カンラン岩体から採取されたカンラン岩試料49個のEBSDデータ(Matsuyama and Michibayashi, 2023, 2024)を使用した。解析には、鉱物量比、結晶方位定向配列の構造強度(J-index, M-index, pfJ-index)とFabric Index Angle、鉱物粒子の直径・周囲長・長軸を用いた。Fabric Index Angleは、カンラン石の結晶方位定向配列を定量的に特徴づける指標である(Michibayashi et al., 2016)。本研究で使用した変量はそれぞれ単位が異なるため、各変数の平均が0、分散が1となるように標準化した。標準化したデータから対称行列を作成し、すべての変数の対について共分散(対角成分については分散)を計算することで共分散行列を求めた。共分散行列から固有値(分散)と固有ベクトル(主成分軸)を求め、固有値が大きい順に固有ベクトルを並べ替えた。この時、大きい方から順に第1主成分、第2主成分、…と呼ぶ。本研究では第1–3主成分で分散全体の 75%以上を説明できるという結果が得られた。 主成分分析の結果は2次元及び3次元バイプロット(Greenacre, 2013)で表される。バイプロットは主成分の散布図上に、各変数の寄与の程度をベクトルで表現した図である(Greenacre, 2013)。第1主成分は鉱物粒子の直径・周囲長・長軸の中央値で良く説明された。一方で、第2主成分は、そのパターンは構造強度(J-index, M-index)とカンラン石の存在量でよく説明されたものの、分散に対する寄与が大きいのは[100]軸のpfJ-indexであった。この結果は、カンラン石の存在量と構造強度が正の相関を持つこと、また構造強度およびカンラン石の存在量と粒子形状の間には相関が無いことを意味する。これに加えて、[100]軸のpfJ-indexはFabric Index Angleと正の相関を示した。これはカンラン石の結晶方位定向配列がAG, A, Eタイプと変化するにつれ、[100]軸の集中度が大きくなることを意味する。幌満カンラン岩体におけるカンラン石の結晶方位定向配列の結晶方位定向配列の多様性は、経験した変形イベントの違いによって生じたものである(Matsuyama and Michibayashi, 2023, 2024)。それゆえ、[100]軸の集中度はイベント時に支配的であった変形機構の違いを反映している可能性がある。

引用文献:
Greenacre (2013) Journal of Computational and Graphical Statistics.
Jolliffe (2002) Springer.
Matsuyama and Michibayashi (2023) Journal of Geodynamics.
Matsuyama and Michibayashi (2024) Tectonophysics (under review).
Nakamura et al. (2015) Chemosphere.
Yang and Cheng (2015) Journal of Geochemical Exploration.