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[T1-06] イオン吸着型希土類鉱床:重希土類資源の供給源
「招待講演」
キーワード:イオン吸着型鉱床、重希土類、風化、磁石
イオン吸着型鉱床は,1970年代後半に中国南部の江西省を中心とした地域で確認されたユニークな鉱床タイプである.花崗岩の風化に伴い形成されたカオリナイトやハロイサイト等の粘土鉱物に希土類イオンが吸着されることにより形成される鉱床で,鉱石となる粘土中の希土類の品位は,カーボナタイトなど他のタイプの希土類鉱床と比較すると低いが(~0.2 wt%),希土類の抽出が極めて簡単で生産コストが低いという特徴がある.このタイプの鉱床が脚光を浴びるようになったのは2000年以降で,重希土類元素の供給源としてである.1983年の希土類磁石の発明と1985年の製品化,1997年の初代プリウスの発売以降,ネオジム磁石の需要が増したため重希土類の需要が増してきた.希土類元素の主要な供給源であるカーボナタイトや漂砂鉱床は,軽希土類元素に富んでいるが重希土類には乏しいため,イオン吸着型鉱床は重要な重希土類元素の供給源となった.重希土類に富む鉱床の探査は世界各地で行われ,幾つかの重希土類に富むアルカリ岩鉱床が発見されたが,イオン吸着型鉱床に勝る鉱床はなく,未だ重希土類はこのタイプの鉱床から供給されている.このタイプの鉱床は,中国南部地域のみでなく,東南アジアに広く分布する.またマラウイやマダガスカル等南部アフリカやブラジル,チリなど南米にも分布する.現在は中国と接するミャンマーがイオン鉱の主な生産地になっている.重希土類に富むイオン吸着型鉱床の形成には,1)重希土類に富む母岩の存在,2)粘土に富む厚い(>10m)風化殻の形成,3)風化に際し分解しやすい希土類鉱物の存在,の3条件が必要である.1)の条件を満たすものとしては,分化した閃長岩やチタン鉄鉱系列の花崗岩類が相当する.チタン鉄鉱系列の花崗岩を形成するマグマは,結晶分化の過程でチタン石を晶出しないため,残液に重希土類が濃集する.このような花崗岩マグマは錫に富み,錫鉱床を伴うことが多い.2)の粘土に富む厚い風化殻が形成される地域は亜熱帯湿潤気候地域に相当する.熱帯地域では風化が進みすぎ,カオリナイトが分解してギブサイトが生じるため,希土類元素の吸着が起こらない.また珪長質岩以外の母岩では,カオリナイトがほとんど生成されず吸着が起こらない.形成された風化殻が削剥を受けない地質環境も重要で,沈み込み帯に面している日本列島はあまり適さない環境と言える.3)の風化に際し分解しやすい鉱物は,炭酸塩鉱物であり,イオン吸着鉱下部の母岩には,しばしば二次的に形成された希土類炭酸塩鉱物(バストネサイトやシンキサイトなど)が認められる.リン酸塩鉱物は風化に対して耐性があるが,アパタイトは風化を受けると分解する.モナザイトやニオブ酸化物はしばしば風化残留鉱床を形成する.イオン吸着鉱から希土類を抽出するために,一般には硫酸アンモニウム水溶液が用いられ,抽出された希土類はシュウ酸や水酸化ナトリウムを用いて希土類水酸化物として回収される.近年中国では,その場リーチングが行われている.これは風化殻からなる地山に直接硫酸アンモニウム水溶液を注入し,地山のふもとで抽出された希土類を含む水溶液を回収する方法である.このような抽出は,約半年,乾季の間行われ,抽出が終わると新規の場所へと移動する.抽出が終わった現場は植林され,植生の回復が行われている.イオン吸着型鉱床は,品位の低い地表の風化殻を広く開発するため,地表の植生が失われるとともに,希土類抽出後の粘土が流出し地滑りが起こったり,抽出の際に用いられた溶液が,下流域の田畑や河川を汚染する例が報告されている.そのためイオン吸着型鉱床の開発には環境汚染を防止する細心の注意が必要となる.現在世界各国でカーボンニュートラル社会実現のために自動車の電動化が進められている.アジアの国々は独自の希土類サプライチェーンの確立を目指し,イオン吸着型鉱床の開発に目が向けられている.今後,イオン鉱の開発が各国で行われるかどうかが電動化推進の一つの鍵になる.