第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

一般演題:口演発表

一般口演 腫瘍

2023年9月16日(土) 15:50 〜 16:40 D会場 (431講義室(4号館3F))

座長:工藤 保誠(徳大 院医歯薬 口腔生命)

15:50 〜 16:00

[O1-D-PM1-01] イタコン酸によるがん細胞抗酸化システムの制御

〇佐伯 彩華1、林 慶和1,2,3、吉本 尚平3,4、畠山 雄次2、平田 雅人3、自見 英治郎1、安河内(川久保) 友世1 (1. 九大 院歯 OBT研究セ、2. 福歯大 機能構造、3. 福歯大 口腔医学研究セ、4. 福歯大 病態構造)

キーワード:クエン酸回路、抗酸化システム、グルタチオン

クエン酸回路が発見された当初より、cis-アコニット酸脱炭酸酵素(ACOD1)を介してイタコン酸(IA)が産生されるクエン酸回路の側副路が認識されていたが、これまでに、この側副路、および ACOD1 や IA の生理的機能についての詳細は不明である。

近年、骨髄球系細胞由来 IA による急性炎症制御機構の存在が示唆されているが、慢性炎症、ならびに、がんの病態における IA の意義については未解明である。そこで、本研究では、がん細胞に対する外来性 IA の直接的作用について、マウスメラノーマ細胞株(B16)を用いて解析を行った。

In vitro にて、B16 細胞株に細胞膜透過型 IA である 4-オクチルイタコン酸(OI)を添加したところ、濃度依存的な細胞増殖抑制作用が観察された。そこで、OI による増殖抑制機序を調べるため、RNA-seq と RT-qPCR による発現解析を行ったところ、OI 添加によって、顕著なグルタチオン代謝関連遺伝子群の発現変動が認められた。その後の解析から、細胞内IA 濃度上昇によるグルタチオン濃度の低下、活性酸素種(ROS)の産生亢進、β-ガラクトシダーゼの発現亢進などの生理活性変動が認められた。さらに、in vivo においても、B16 担がんマウスに対する OI による顕著な腫瘍増殖抑制効果が認められ、その分子メカニズムとして、グルタチオン代謝異常の存在が示唆された。

以上の結果から、がん細胞内に導入した IA が、グルタチオンの枯渇を通じて抗酸化システムを破綻させ、強力な細胞増殖抑制作用を発揮することが示唆された。