第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

一般演題:口演発表

一般口演 歯牙・歯髄・歯周組織1

2023年9月17日(日) 14:20 〜 15:10 E会場 (441講義室(4号館4F))

座長:岡田 裕之(日大松戸歯 組織)

14:30 〜 14:40

[O2-E-PM1-02] ゾウギンザメ歯板の高石灰化組織における結晶相の制御

〇飯島 まゆみ1、鈴木 道生1 (1. 東大 院農)

キーワード:ギンザメ、歯板、結晶成分

ギンザメ類(全頭類、軟骨魚類)は、サメ類(板鰓類)と近縁だが、歯牙硬組織として、サメのような複数の鋭い歯はなく、3対の歯板を持つ。歯板は、低石灰化組織と高石灰化組織から成っている。脊椎動物の歯牙エナメル質は、hydroxyapatite (HAp)から成るが、ギンザメ(Chimaera phantasma)歯板の高石灰化組織の結晶成分は、マグネシウム(Mg)含有whitlockite (WH)と報告されている。しかし、系統発生学的な考察から、ギンザメを含む全頭類も歯板形成過程においてHApを形成する仕組みを根源的に持っていると推察された。これを明らかにするために、ギンザメ類の歯板高石灰化組織の結晶成分の分析を行った。
 本研究では、ゾウギンザメ(Callorhinchus milii)の成魚と胚の歯板について報告する。ゾウギンザメ成魚の歯板は、サンシャイン水族館から、ゾウギンザメ胚の標本は兵藤晋教授(東大・海洋研)からご提供いただいた。分析には、収束X線回折装置、フーリエ変換赤外吸収分光装置、走査型電子顕微鏡、エネルギー分散型X線分光装置を使用した。
 その結果、(1)高石灰化組織形成初期にHApが形成され、次いでWHが析出し、その量が急速に増加すること、(2)高石灰化組織では、微量の低結晶性HApがWHと共存していることが明らかになった。(3)Mgは、胚、成魚共に根元部では少なく、WHが多い領域では多かった。これらのことから、ゾウギンザメはHApを形成する仕組みを持っているが、Mgが増えることによってHAp形成が阻害され、Mgを取り込みやすいWH形成が起こると考えられた。これは、溶液実験系でのリン酸カルシウム塩形成におけるMg効果と整合性がある。さらに、低結晶性HApがWHと共存することは、歯板の高石灰化組織がエナメル質に匹敵するほどの硬度を示すことにも関連すると推察された。