第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

一般演題:モリタ優秀発表賞 ポスター発表

モリタ優秀発表賞ポスター発表

2023年9月16日(土) 13:20 〜 19:00 ポスター会場 (121講義室(本館2F))

[P1-2-36] 歯根囊胞の病態形成に関与する歯原性上皮細胞の増殖機構の解明

〇長野 良子1,2、藤井 慎介1,3、清島 保1 (1. 九大 院歯 口腔病理、2. 九大 院歯 保存、3. 九大 院歯 DDRセンター)

キーワード:上皮組織、炎症、シグナル伝達

歯根囊胞は、顎骨内に生じる歯原性囊胞の中で最も発現頻度が高く、慢性的な根尖性歯周炎に起因し発症する。歯根囊胞の裏装上皮はマラッセの上皮遺残の増殖に由来すると考えられているが、その増殖を制御する詳細な分子基盤は不明である。本研究では、歯根囊胞の病態形成に関与する、炎症依存性な歯原性上皮細胞の増殖機構の解明を目的とした。正常歯根膜組織において、広範にTGF-β1が発現することが報告されている(Cell Tissue Res. 2010)。TGF-βシグナルは転写因子Smad2/3の核内移行を介して、上皮細胞の増殖を抑制する。マウス8週齢下顎骨組織標本において、マラッセの上皮遺残細胞の核にSmad2/3は局在し、Ki-67の発現は認められなかった。また、歯原性上皮細胞株と歯根膜線維芽細胞株の共存培養において、歯根膜線維芽細胞由来のTGF-β1/2依存的なTGF-βシグナルの活性化によって、歯原性上皮細胞の増殖は負に制御された。これらの結果から、生理学的条件下においてマラッセの上皮遺残細胞は、歯根膜線維芽細胞からのTGF-βリガンドによるTGF-βシグナルの活性化により、増殖が抑制されていることが示唆された。ヒト歯根囊胞病理標本の裏装上皮では、炎症反応を調節する遺伝子の発現制御を担う転写因子NF-κBの主要サブユニットp65、およびKi-67は高頻度に発現していたが、Smad2/3の発現頻度は有意に低かった。さらに、歯原性上皮細胞株においてTGF-β1刺激依存的な増殖抑制は、IL-1β刺激によるp65を介して解除された。また、TGF-β1刺激によるSmad2のリン酸化は、IL-1β-p65シグナルにより抑制された。本研究の結果より、炎症刺激によるp65シグナルの活性化は、TGF-βシグナルの抑制を介して歯原性上皮細胞の増殖を活性化し、歯根囊胞の病態形成に関与する可能性が示唆された。