[P2-2-08] 福島第一原発事故における被ばくニホンザルの歯のセメント質成長線形成の解析
キーワード:セメント質成長線、福島第一原発事故、ニホンザル
福島第一原発事故後の放射性汚染物質地域に生息する動物について、汚染された餌を食べて、また外部から長期低線量被ばくを浴びることによる生体への影響を調べる研究が乳牛、肉牛、イノブタ、ブタ、アカネズミ、ニホンザルで行われてきた(福本,2023)。本研究の目的は福島第一原発事故により被ばくされたニホンザルの歯のセメント質の成長線形成機構が放射能により影響されたかどうかを解析することである。ニホンザルの歯の試料は福本(2023)の研究で使用された試料40例(非被ばく群9例と被ばく群31例)を用いた。放射性セシウムの体内濃度は、大腿筋を用いて、ゲルマニウム半導体検出器を用いたγ線スペクトル解析法で、計測した。本研究に用いた試料においては,東北大学動物倫理委員会に申請して承認されたものである(2016 加動-043-1)。歯の試料は、10%ホルマリン溶液固定を施し、脱灰後、約4 µmの厚さの切片を作製し、通法に従いヘマトキシリン・エオジン(HE)染色を施した。HE染色を施した切片を光学顕微鏡にてセメント質の成長線を観察し、画像解析ソフトウェアWinRoof2018(MITANI製)にて解析した。セメント質の成長線から同定した年齢査定の結果では、年齢構成は2齢から25歳であった。幼年個体では、被ばく群の成長線は非被ばく群に比較して不明瞭であった。放射性セシウムの濃度が高い被ばく群の成体において、局所的に成長線の間隔が不規則で、成長線が不明瞭であった。また、有細胞セメント質と無細胞セメント質が混在し、組織構造が乱れていた。放射能被ばくはセメント芽細胞の成長線形成機構に影響を及ぼす可能性が示唆された。研究材料や放射性セシウムの濃度データを供与していただいた東北大災害研の福本学特任教授や鈴木正敏講師に感謝申し上げる。