第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

シンポジウム

アップデートシンポジウム1

「口腔顔面の形態形成研究の現在と展望」

2023年9月16日(土) 15:50 〜 17:20 B会場 (123講義室(本館2F))

座長:井関 祥子(医科歯科大 院医歯 分子発生・口腔組織)、山城 隆(阪大 院歯 矯正)

15:50 〜 16:12

[US1-01] 顔面発生におけるX染色体不活性化

〇川崎 真依子1 (1. 新潟大 院医歯 口腔解剖)

キーワード:X染色体不活性化、顔面発生、OFD1

哺乳類の性染色体は、XY(雄)とXX(雌)の2種類があり、雌のX染色体は2つ存在する。そのため、雄と比較して雌のX染色体の遺伝子量は、そのままだと2倍となる。この雄と雌のX染色体の遺伝子量の不均衡を是正するために、雌のどちらかの一方のX染色体を不活性化することで遺伝子量の補正を行っている。これを「X染色体の不活性化」と呼ぶ。X染色体の不活性化が起こると、2つの染色体がランダムに不活性化され、ある細胞では父親由来のX染色体が不活性化され、また他の細胞では、母親由来のX染色体が不活性化される。この過程は不可逆的で、一度父親由来か母親由来のX染色体が不活性化されると、同じX染色体がその細胞の全ての子孫細胞で不活性化される。すなわち雌の全ての組織は、2種類の細胞のモザイク状となる。そして、活性化された片方のX染色体上の遺伝子の情報のみが表現型として現れる。顎顔面領域の発生過程に関わる遺伝子の中にも、性染色体上に存在するものは、このX染色体の不活性化の影響を受けることになる。いくつかの疾患では、原因遺伝子がX染色体上に位置する事から、X染色体の不活性化が症状に影響している可能性が示唆されるが、X染色体の不活性化という現象が発生過程にどのように影響を及ぼすのかは明らかではない。本研究では、X染色体上に位置するOFD1遺伝子に着目する。OFD1遺伝子は、口顔指症候群1型の原因遺伝子で、口腔の奇形及び顔面形態異常、手指の奇形、中枢神経系障害、内臓疾患などの重度な症状が報告されている。このOfd1を部位特異的に欠損させた遺伝子改変マウスは、口顔指症候群1型の臨床像と極めて類似した表現型を示した。我々は、このマウスを用いて、X染色体の不活性化という現象から顎顔面領域の発生を捉え、形態形成に与える影響について紹介する。