第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

シンポジウム

アップデートシンポジウム10

「異分野融合研究による歯科イノベーションへの挑戦」

2023年9月18日(月) 08:30 〜 10:00 C会場 (133講義室(本館3F))

座長:松下 祐樹(長大 院医歯薬 細胞生物)、Hara Satoshi Emilio(岡大 院医歯薬 歯先端研セ)

08:30 〜 08:42

[US10-01] scRNA-seq解析を用いた新規前象牙芽細胞マーカー遺伝子の同定および機能解析

〇吉崎 恵悟1 (1. 九大 院歯 矯正)

キーワード:歯、細胞分化、象牙芽細胞

歯は上皮−間葉相互作用により形成される器官であり、その形成過程において厳密なシグナル制御が行われる。肥厚した上皮細胞は間葉細胞へ陥入することで形態形成を開始し、内外エナメル上皮細胞、中間層細胞および星状毛細胞などの特徴的な形態を有した細胞へと分化する。特に内エナメル上皮細胞は、増殖期細胞であるTA細胞を経て、分化期、分泌期および成熟期エナメル芽細胞へと変化する。近年、scRNA-seq解析などの技術進歩により、単一細胞レベルでの遺伝子発現解析が可能となってきており、これまで解剖学的に捉えられてきた細胞系譜が、遺伝子レベルで確認されるようになってきた。一方で間葉細胞に目を向けると、それぞれの細胞系譜における遺伝子マーカーの不足から、解析が困難な状況にある。今回我々は、scRNA-seq 解析を用いることで、間葉系幹細胞から象牙芽細胞へ分化する過程において、前象牙芽細胞クラスターに特異的に発現する因子として、GPI アンカー型タンパク質(GPI-AP)のひとつである、lymphocyte antigen-6 (Ly6)/Plaur domain-containing 1 (Lypd1)の同定に成功した。GPI-APは、コレステロール、スフィンゴ脂質および受容体とともに細胞膜の脂質ラフトとよばれる膜マイクロドメインに集積することで、細胞外からの情報伝達を効率的に行うためのプラットフォームとして機能している。LYPD1 は、脂質ラフトにおいて GPI-APとして機能し、BMP シグナル経路を調節することで象牙芽細胞の分化に重要な役割を果たすことを明らかにした。本シンポジウムでは、新規前象牙芽細胞マーカーの同定とその機能解析を通して、新たな細胞分化機構の一端を共有したい。