第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

シンポジウム

アップデートシンポジウム3

「歯科法医学鑑定の最前線-DNA多型・DNA修飾等を指標とした個人識別-」

2023年9月17日(日) 09:00 〜 10:30 B会場 (123講義室(本館2F))

座長:山田 良広(神歯大 院歯 歯科法医)、近藤 真啓(日大 歯 法医)

09:20 〜 09:35

[US3-02] 戦没者遺骨DNA鑑定の現在

〇中村 安孝1 (1. 東歯大 法歯人類)

キーワード:DNA鑑定、STR型検査、ミトコンドリアDNA型検査

厚生労働省は太平洋戦争時の戦没者遺族等への援護の一環として、戦地となった地域において、日本人である蓋然性が高い場合と判断された遺骨から DNA鑑定用の検体を持ち帰ってDNA鑑定等を行い、専門家による総合的判断の結果、遺族に返還する事業を行っている。これら戦没者遺骨のDNA鑑定には、現在12の大学と警察関係者が参加しており、DNA鑑定結果の総合的判断は、埋葬地の状況や遺留品の有無、遺族との続柄を確認した上で、基本的には常染色体STR型検査Y染色体STR型検査、ミトコンドリアDNA型検査の3つを用いて血縁関係を判定している。戦没者遺骨は、埋葬名簿や遺留品などの手掛かり情報から遺族が推定できるものと、手掛かり情報がないものの2つに大別され、前者にはロシア(旧ソ連)作成の埋葬地名簿が存在するシベリア抑留日本人戦没者等が該当し、後者は沖縄、硫黄島、オセアニアや東南アジア等の南方戦死者が該当するが、戦没者遺骨DNA鑑定は、手掛かり情報の有る遺骨を対象として始まった事業である。しかし、戦後75年以上が経過して遺族の高齢化が進んだことから、手掛かり情報の無い戦没者遺骨に対してもDNA鑑定が行われることとなり、平成29年より沖縄県、令和2年より硫黄島及びキリバス共和国ギルバート諸島タラワ環礁、令和3年からその他の地域と、鑑定対象地域を拡大させているが、それに伴って、日本人である蓋然性の判断、遺骨収集、DNA鑑定のそれぞれの段階において様々な問題もおきている。
令和5年4月現在、戦没者遺骨収集推進法における戦没者約240万人のうち、収容済みの遺骨は約128万柱であり、関係遺族へのDNA鑑定案内数 15,793 件、DNA鑑定申請件数6,622 件、遺骨の身元判明が1,231 件となっている。