第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

シンポジウム

アップデートシンポジウム5

「口腔顔面領域の疼痛とそれに伴う皮質内の可塑性・神経変性」

2023年9月17日(日) 14:20 〜 15:50 B会場 (123講義室(本館2F))

座長:豊田 博紀(阪大 院歯 口腔生理)、山本 清文(日大 歯 薬理)

14:20 〜 14:42

[US5-01] 大脳皮質島領野における口腔顔面領域の痛覚異常を制御する興奮性および抑制性シナプス長期可塑性

〇山本 清文1、小林 真之1 (1. 日大 歯 薬理)

キーワード:シナプス伝達、大脳皮質、可塑性

口腔顔面領域を支配する神経の損傷は,異所性疼痛や痛覚過敏を惹起し,原因として,損傷後に中枢神経系に可塑的変化が生じることが挙げられる。末梢神経損傷モデルにおいて,大脳皮質の多くの領域で興奮性シナプスのつなぎ替えとその興奮性応答の増強が報告される。特に下歯槽神経切断モデルでは,これらの増強が島皮質(IC)で生じることから,これが口腔顔面領域の異所性疼痛や痛覚過敏の原因である可能性が推察される。興奮性シナプスにおいて,シナプス応答の増強が長期持続する現象,所謂シナプス伝達長期増強(LTP)がICを含む中枢神経系の多くの領域で見出されている。しかしICでは,NMDA受容体の従来の機序によるLTP誘発に加え,気体である一酸化窒素がLTPの誘発に関与することで,LTP誘発が周辺シナプスに伝播する,全く新しい誘発機序の可能性を見出した。一方,皮質の抑制性ニューロンであるfast-spiking細胞(FSN)は錐体細胞(PN)の興奮を強力に抑制することが知られる。我々の仮説として,このFSN-PNシナプスに抑制性LTP(iLTP)生じさせることで,損傷時のICヘの異常な末梢入力やPRNの過剰興奮が抑制され,ICの感覚異常が軽減・消滅できると考えた。本研究では,シナプス前ニューロンであるFSNにθburst刺激を与えるとFSN-PNシナプス応答にiLTPが誘発され,シナプス前ニューロンに発現するGABAB受容体の関与が示唆された。加えて,P2X受容体の作動薬の灌流投与により,D-serine依存的な抑制性シナプス応答の増強が認められた。すなわち,ICの抑制性シナプスは,興奮性シナプスのLTPの誘発などの興奮異常に対抗する機序を有するが,ブレーキ役である抑制機構の破綻により,異常興奮が加速的に増大すると予想される。本講演では,ICで起こりうる興奮性LTPおよび抑制性iLTPについて紹介する。