第65回歯科基礎医学会学術大会

講演情報

シンポジウム

アップデートシンポジウム7

「歯学基礎領域から発信する多角的アプローチからのがん研究最前線」

2023年9月17日(日) 16:00 〜 17:30 B会場 (123講義室(本館2F))

座長:樋田 京子(北大 院歯 血管生物分子病理)、工藤 保誠(徳大 院医歯薬 口腔生命)

16:45 〜 17:00

[US7-04] がん幹細胞の代謝特性と幹細胞性維持メカニズム

〇北島 正二朗1、工藤 保誠2 (1. 慶應大 先端生命科学研、2. 徳大 院医歯薬 口腔生命科学)

キーワード:がん幹細胞、エネルギー代謝、メタボローム

がん幹細胞は、がんの発生から転移、再発、さらに薬剤耐性にまで関わる存在と考えられており、効果的な抗がん剤の開発には、その性質や制御機構の理解が必須である。我々は幹細胞性がクロモソーム・パッセンジャー複合体(CPC)によって維持されていることを見出し、そのメカニズムを解析してきた。CPCの構成因子をノックダウン、あるいは化合物で阻害すると、OCT4、NANOGなどの未分化マーカーの発現が低下した一方で、様々な分化マーカーの発現が誘導された。またこの時、細胞代謝のマスターレギュレーターであるMYCタンパク質の発現が上昇すると共に、細胞の2大エネルギー源であるグルコース/グルタミン代謝のバランスが変動し、グルタミン代謝への依存性が低下した。これらの結果は、幹細胞の分化誘導時にMYCによってエネルギー代謝がリモデリングされ、解糖寄りの代謝様式を取ることを示唆する。つまりCPCによるMYC発現とエネルギー代謝の制御が幹細胞維持の代謝チェックポイントとなっている可能性が想定され、さらにその分子機序の詳細を検討している。興味深いことに、我々が独自に樹立したがん幹細胞モデルを用いてCPCの活性を阻害すると、分化すると共にMYC阻害剤の効果が有意に高まることが分かり、分化誘導によって薬剤感受性を増強する新たなアプローチの可能性が示された。本研究成果は、細胞分裂制御や代謝制御が幹細胞性維持に働くメカニズムの一端を明らかにすると共に、分化誘導と抗がん剤を組み合わせた効果的な薬剤複合療法への道を開いた。