一般社団法人日本学校保健学会第67回学術大会

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シンポジウム2
ポスト・コロナ時代の保健室経営を考える ―コロナ禍から私たちが得たもの―

コーディネーター:石田敦子(愛知みずほ大学),森慶惠(金沢大学)

キーワード:養護教諭 現状認識 中動態から能動態へ
シンポジウムにあたって
 新型コロナウイルスの感染拡大により,私たちの日常生活や学校教育は大きな変化を迫られました.ウイズ・コロナ時代の教育現場には,感染症対策と子どもたちの学びの保障の両立が求められ,かつて経験したことのない感染症の対応に,多くの教育現場は混乱に陥り,養護教諭は専門職としてその対応に苦慮することとなりました.学びの土台を成す最も重要なものは,子どもたちの心と体の健康です.全国の養護教諭は,日々感染症対策を講じながら,子どもたちの健やかな育ちと学びを最大限保障するために奔走しています.
 しかし,この新型コロナウイルスの感染症がもたらしたものは,負の遺産だけではありません.このような状況下だからこそ,子どもの心と体の健康を守るために,教職員や保護者,関係機関等の連携や協働がさらに高まったり,子どもたちの健康を守り育てる視点が最重視されたりしました.また,子どもたち自身の感染症に対する意識が高まり,それは一人一人の健康行動にも表れています.私たちは,この危機に際して今までの保健室経営を再検討し,未来に向けた意味のある変化をもたらす機会にしたいと考え,本シンポジウムを企画しました.
 この新型コロナウイルスによる学校教育,保健室経営の対応は,ある意味,國分による「中動態」的対応で合ったと言えます.國分は,中動態について「強制はないが自発的でもなく,自発的ではないが同意している,そうした事態」とし,「主語が己の行為の作用を自らで受けること=主語の被作用性」が中動態の特徴としています.このウイズ・コロナの教育現場における養護教諭の奮闘は,未知の感染症の出現により対応せざるを得ないものであったと同時に,その中でも子どもたちの心身の健康のために試行錯誤,創意工夫して執務の在り方を模索し,推進した結果でもあります.そして,前述の國分は,「自分たち自身の変容を見つめ直す過程を経ることにより,それは能動と変化する」とも述べています.
 そこで,ウイズ・コロナを経て,これからのポスト・コロナ時代の保健室経営を考えるにあたり,4名のシンポジストにそれぞれの視点からコロナ禍における保健室経営を見つめ直し,発言していただくことで現状を再認識し,コロナ禍から得たものを明らかにしたいと考えます.青山裕子氏には,学校教育現場の養護教諭の視点,牛山美奈氏には養護教諭経験を有する管理職の視点,出川久枝氏には現場養護教諭の声を調査した結果をもとにした視点,林三奈氏には教育委員会の立場としての視点からご発言していただきます.そして,このシンポジウムを通して,参加者のみなさまにはポスト・コロナ時代の保健室経営について一緒に考え,提言させていただく機会となりますことを目指しています.

シンポジスト:青嶋 裕子(長野県喬木村立喬木第二小学校)
       牛山 美奈(愛知県立高浜高等学校)
       出川 久枝(東海学園大学)
       林  三奈(名古屋市教育委員会)      以上五十音順

                          (文責:森 慶惠)

参考文献:國分功一郎(2015)『暇と退屈の倫理学』太田出版
     國分功一郎(2017)『中動態の世界─意志と責任の考古学』,医学書院