一般社団法人日本学校保健学会第67回学術大会

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教育講演3
保健室での外傷初期対応から病院での治療・アフターケア

2021年11月7日(日) 11:30 〜 12:25 LIVE配信第1会場

座長:渡邉智之(愛知学院大学教授)

11:30 〜 12:25

[EL3] 保健室での外傷初期対応から病院での治療・アフターケア

講師:鳥山和宏 (名古屋市立大学医学研究科形成外科学分野教授授・日本創傷外科学会)

〈プロフィール〉
1989年 3月 名古屋市立大学医学部医学科 卒業
1998年 3月 名古屋大学大学院医学研究科 修了
2003年 4月 あいち小児保健医療総合センター形成外科 医長
2009年11月 名古屋大学大学院医学研究科形成外科 准教授
2017年 4月 名古屋市立大学形成外科 教授(現在に至る)

キーワード:外傷 初期対応 形成外科

1 .はじめに
 本講演は,皮膚の構造と生理,傷の治り方,基本的な傷の手当ての仕方について説明してから,保健室での必要な外傷初期対応について検討する.その後で,名古屋市立大学病院形成外科を傷で受診された学生について後ろ向きに調査を行ったので報告する.さらに,保健室での初期対応から病院での治療・アフターケアにおける連続した治療について考える.

2 .研究と方法
 2020年1月から2021年6月の18か月間で,名古屋市立大学病院形成外科を初診した患者のうち,傷で受診した小学校から高校生の学生12人について,年齢,性別,受傷の原因,受傷の部位,受傷の場所,病名,治療,通院期間について後ろ向きに調査を行ったので報告する.また,以前調査した2015年4月から2016年9月の18か月間でのデータと比較する.

3 .結果
 今回の対象の患者は12 人でその平均年齢は10歳であった.一方,前回の患者は21人でその平均年齢は14歳であった.性別は,今回は男女同数で前回は男性が多かった.今回の主な受傷の原因は転倒で特に自転車での転倒が多かった.一方,前回の主な受傷の原因は打撲とスポーツであった.また,受傷の部位は,今回も前回も顔面が多かった.さらに,受傷の場所は,今回は路上が多く,前回は学校および球技場が多かった.
 病名は,今回が顔面の挫創・擦過創(2例で頭蓋骨骨折の合併あり)が10例,眼瞼異物が1例,手熱傷が1例であった.前回は鼻骨骨折が8例,顔面の挫創・切創が9例,眼窩底骨折が1例,前腕切創が1例,膝部皮膚欠損創が1例であった.
 治療は,鼻骨骨折については整復術を行い,顔面の外傷については,傷の部位や深さに応じて,縫合術,テープ固定,創傷被覆材(貼り薬),軟膏などで治療を行った.講演では具体的な治療例を提示する.通院期間は,1日から最大1年半であった.

4 .考察
 今回の2020年1月からの18か月間のデータと前回の2015年4月からの18か月間のデータの比較では,今回の対象患者数が明らかに減少した.また,主な受傷原因が打撲やスポーツから転倒に変わった.さらに,受傷場所は学校や球戯場が減って登校・下校を含めた路上となった.これらの要因は,2020年1月から感染が広がった新型コロナウイルス(COVID-19)が考えられる.つまり,COVID-19によって,学校行事やスポーツ活動が縮小され,また,比較的軽微な症状では医療機関の受診が手控えられたと思われる.一方で,受傷した部位はほとんどが顔面で,整容面を気にして紹介受診されたと考えられた.転倒などの思わぬ外傷はある程度避けられないし,保健室での必要な外傷初期対応は変わらない.しかし,本来医療機関での治療を要するところを過度の医療機関の受診控えにより,一連の適した治療が行われていない可能性があると考えられた.

5 .まとめ
 皮膚の構造と生理,傷の治り方,基本的な傷の手当ての仕方について説明した.1つの医療現場である名古屋市立大学病院での,傷を受けて受診した学生について調査報告を行った.症例提示によって,具体的な傷・傷あとの手当ての仕方について説明した.最後に,保健室での初期対応から病院での治療・アフターケアにおいて,COVID-19の感染が終息しない中でもこれらの連続した治療が必要なことを再確認した.