一般社団法人日本学校保健学会第67回学術大会

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教育講演4
子どもにケガはつきものか?-「見える化」活動の成果報告

2021年11月7日(日) 13:40 〜 14:35 LIVE配信第1会場

座長:村松常司(愛知教育大学名誉教授)

13:40 〜 14:35

[EL4] 子どもにケガはつきものか?-「見える化」活動の成果報告

講師:内田良 (名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授)

〈プロフィール〉
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授.博士(教育学).専門は教育社会学.学校のなかで子どもや教師が出遭うさまざまなリスクについて,調査研究ならびに啓発活動をおこなっている.著書に『学校ハラスメント』(朝日新書),『ブラック部活動』(東洋館出版社),『教育という病』(光文社新書),『教師のブラック残業』(学陽書房,共編著)など.ヤフーオーサーアワード2015受賞.

キーワード:リスク 学校安全 持続可能性

はじめに
 リスクの見える化なくして安全対策なし.リスクを低減するためには,まずもってリスクを直視し,可視化することが必須である.ところが,学校の活動はしばしばそのベネフィット(教育的意義)が強調され,一方でそのリスクは過小評価される.本報告では,リスクを直視することが,当該活動の持続可能性を高め,学校安全が実質的に達成されることを明らかにする.

エビデンスから安全を追求する
 感染症に罹患する,階段から転げ落ちる,熱中症で倒れる,登下校時に車にはねられるなど,学校生活には無数のリスクがある.しかしながら,それらのリスクを回避するための資源(ヒト・モノ・カネ)には限りがある.
 特定のリスクに対して,それを回避するために資源を投入すれば,その分,他のリスクへの対策が疎かになる.「危険は無限,資源は有限」であるからには,私たちは無数のリスクのなかからある特定のリスクを拾い上げ,そこに限りある資源を配分しなければならない.手当たり次第にあるいは衝動的にリスクを見つけて,対策を講じればよいというわけではない.
 だからこそ,エビデンスにもとづく学校安全の施策が求められる.科学的手続きのもと,事故の発生件数や発生率等の指標を用いて,たとえば相対的に多く起きている事故に対して,優先的に安全対策を施すべきである.事件衝動的に邁進する安全対策から一旦距離を置き,エビデンスを用いた実証的なアプローチから,学校管理下の事故や問題行動全体を見通すことが必要である.

リスクの見える化
 2001年,British Medical Journalは,accidentという言葉の使用を禁じた.「accidentとはしばしば,予測できない,つまり偶発的な出来事または神の仕業であり,それゆえに回避できないことと理解されている.しかし,たいていの傷害や突然の出来事というのは予測可能であるし,防御可能である」というのがその理由である.
 accidentという語は,「不測の出来事」「偶然の出来事」という意味をもつ.予測も回避もできないというのがaccidentであり,そう考える限りは,事故防止策を考案するという流れは,絶たれてしまう.今後はそうした発想を捨てて,事故は防げるという立場から,事故に向き合っていこうというのがBritish Medical Journalの主張である.
 子どもはさまざまな場面で活発に行動し,そのなかでケガを負うこともある.それをもって「子どもにケガはつきもの」と,あきらめる声がある.だが留意すべきは,「ケガはつきもの」と言った時点で,議論がストップするということである.
 すなわち,事故の原因追及(なぜ事故が起きたのか)から,安全対策の立案(どうすれば防げるのか)まで,一連のプロセスはすべて放棄される.その結果,防げたかもしれない同種の事故が,また起きてしまう.事故はなぜ起きるのかといえば,事故は起きるものだとあきらめてしまうからである.「ケガはつきもの」という発想自体が,ケガを再生産している.
 学校教育においては,たとえば運動会の巨大組み体操や部活動の柔道における事故のリスクが見える化され,そのリスク低減の方途が検討され,それが実質的に事故件数の減少を導いた.こうした姿勢こそが,当該活動の持続可能性を高めることにつながっていく.