一般社団法人日本学校保健学会第67回学術大会

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学会賞・学会奨励賞受賞講演

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学会賞・学会奨励賞受賞講演

2021年11月7日(日) 12:30 〜 13:30 LIVE配信第1会場

座長:古田真司(椙山女学園大学生活科学部教授)

[SAL-1] 永久歯齲蝕と社会経済因子および学校給食後の歯みがき時間設定状況との関連

我部杏奈1,高倉実2,宮城政也3,喜屋武享4 (1.琉球大学教育学部附属小学校,2.琉球大学医学部,3.琉球大学教育学部,4.神戸大学大学院人間発達環境学研究科)

キーワード:齲蝕 給食後歯みがき 社会経済因子



はじめに
 齲蝕は世界で最も一般的な生活習慣病であり,60% 〜 90%の児童が齲蝕を経験していることから,生涯にわたり歯・口の健康を維持するために効果的な齲蝕予防対策を講じることは重要である.齲蝕の社会的決定要因の一つである社会経済因子(以下,SES と略す)が低いことは,齲蝕を発症するリスクが高いことと有意に関連している.一方,学校はSESに関わらず全ての児童を対象とした一斉指導が可能であり,児童は1日の大半を過ごす学校の影響を受けやすいことから学校における歯科保健活動が推奨されている.歯科保健活動の一つである学校給食後の歯みがきは,SESの程度に関わらず齲蝕を予防する可能性がある.本研究は,小学生の齲蝕とSES および学校給食後の歯みがき時間設定状況との関連について検討することを目的とした.

対象および方法
 沖縄県の2教育事務所管内の公立小学校43校において,2018年に調査を実施した.調査対象は,保護者から文書による同意が得られた5学年児童1,248名であった.児童の齲蝕経験は学校定期健康診断における歯科検診結果記録から算出した永久歯の齲蝕経験歯数を用いた.SESの指標は,就学援助認定状況を用いた.齲蝕およびSESに関する情報は学校から提供を受けた.学校給食後の歯みがき時間設定状況については,各学校の養護教諭から回答を得た.さらに,人口統計学的変数,生活習慣,家族関係についての情報を得るために児童を対象とした自記式無記名の質問紙調査を行った.学校からの提供データと質問紙調査結果はID番号を用いて連結した.分析は,学校をランダム効果としたマルチレベルロジスティック回帰モデルを用いて,齲蝕とSESおよび学校給食後の歯みがき時間設定状況との関連を検討した.その際,SESや人口統計学的変数,生活習慣を個人レベル変数,学校給食後の歯みがき時間設定状況を学校レベル変数として使用した.なお,本研究の実施については,琉球大学人を対象とする医学系研究倫理審査委員会の承認を得ている.

結果
 低SES者は高SES者に比べ,齲蝕を経験するオッズが高かった(オッズ比:1.7, 95%信頼区間:1.24‒2.38).学校給食後の歯みがき時間を設定していない学校の児童は,歯みがき時間を設定している学校の児童に比べ齲蝕を経験するオッズが高かった(オッズ比:1.8, 95%信頼区間:1.05‒3.02).個人レベルおよび学校レベルの変数を調整したあともこれらの関連は統計的に有意であり,学校特性が個人の齲蝕に関連するという文脈効果を認めた.

考察
 SESと齲蝕との関連について,低SES者は齲蝕を経験しやすいという先行研究を支持した.本研究のSES指標である就学援助制度は齲蝕治療を医療費補助の対象としていることから,低SES者の齲蝕経験は,齲蝕治療や齲蝕予防の重要性に対する認識の低さなど,経済的要因以外の要因が存在する可能性がある.学校給食後の歯みがきと齲蝕との関連について,毎日歯みがきを行う学校に通う児童はそうでない児童に比べ齲蝕の発症が少ないという先行研究を支持した.学校において毎日継続して歯みがきを行うことは,児童の口腔衛生習慣の確立を促すだけでなく,生涯
にわたり彼らの齲蝕予防に寄与することが期待できる.したがって,児童が長期的に良好な口腔環境を維持するためには,学校において歯科保健に関する学習環境を整備することが重要である.

結論
 本研究は,児童の齲蝕がSESと関連していることを示した.一方で,学校における歯みがきの実施は,学校に通う全ての児童の齲蝕予防に寄与する可能性がある.